ポンコツとロマンチスト
今回はリリー視点です。違和感や指摘等々待ってます。
最初に身分証とギルドカードの発行は20分程度で終わると聞いていたのだが、主に奴の愚痴で40分近くも取られてしまった。結局1時間もリリーを待たせてしまった訳だが……
リリーがいない。
全く、人が必死に奴を振りほどこうと足掻いている時にフラフラと世話の焼ける奴だ。……面倒だし、放っておこうか。確かに俺は異世界で人助けをするとは言ったが、誰でも助けるとは言ってないしな。
あのポンコツよりも頼りになる奴を探したほうが、俺の今後の異世界生活も楽になるだろう。
***
じゃれあう二人を置いてギルドを後にした私、正直結構腹が立ってます。
イズハさんってばポンコツポンコツっていくらなんでも言い過ぎですよ! そっちは夢だか何だか知らないですけど私からしたら初対面なんですから、少しは遠慮とかないんですかね!
まぁ案内請け負っといて結局振り回しちゃったのは事実ですけど……それでもこっちだって頑張ってるんですから、少しくらい歯に絹着せてもいいと思うんですけど!?︎
それだけならまだしも、なんだったんですかあれ。あんまりイズハさんが遅いからチラッと様子を見に行ったら、受付嬢の人と抱き合ってなんかイチャイチャしてましたし。
なんで1時間も二人がイチャイチャし終わるのを待ってないといけないんですか!
いや別に嫉妬とかそういうんじゃないですけど! スープのこと褒めてくれたり、一緒に依頼受けてくれたりして結構いい人だな~……なんて思った自分の単純さが恨めしい!
「こうなったら私一人で何とか……できないか、私弱いもんなぁ」
ふいに薬草の依頼の時の出来事を思い出してしまう。
本当は薬草取りにいくのだって最初は三人くらいで行く予定だったのに、別の依頼の方が稼ぎが良いからって私のことを置いて行っちゃって。
私も付いて行くって言ってみたけど、「お前戦えないじゃん」って追い返されて。
ヤケになって「一人でもできるもん!」って出て行って、結果魔物に食い殺されかける始末。
「アハハ……はぁ、笑えないなぁ……」
並みの冒険者なら出来て当然の依頼、簡単だから依頼料も低くて、大抵の冒険者は大物の依頼のついでに片手間で受けるような依頼。
それすらも一人じゃ達成できない、やることなすこと全部空回りする自分はなんなんだろうか。
「ポンコツかぁ、確かにポンコツだなぁ私」
せっかく手を差し伸べてくれる人がいたのに、また空回りして振り回して、おまけに非を責められて逆上した挙句勝手にいなくなって……。
何やってんだろ私。でも今更戻っても、もう愛想つかされちゃったかな。多分イズハさんも私なんかより頼りになる人を案内役として捕まえてると思いますし。
ぼんやりと歩いていたせいか、小石に蹴つまずいてしまう。気持ちが沈んでいたせいで反応が遅れて、棒のようにまっすぐ倒れこむ。
覚悟して目を閉じたその時、私の体が不自然に斜めの姿勢でピタリと止まった。そのままふわりと体が宙に浮き、強制的に回れ右させられる。
そこには無造作にはねた黒髪と、すべてを見透かすような鋭い眼をした超能力者がいた。
「ぼんやりしすぎだ、気をつけろ」
「……すみません、私ってやっぱりポンコツですね」
「ほれ、依頼色々持ってきたぞ。パーティ登録とかも済ませたし、全部今から終わらせてやるぞポンコツ」
ホントは放っておこうと思ったんだけどな、なんて言いながらイズハさんは20枚もの依頼書を広げ……20枚!?︎
「ちょ、ちょっとイズハさん!?︎ いくらなんでも多すぎませんか!?︎ いきなり20枚も……」
すかさず異を唱えようとするも、言うより先に意思を汲み取ったのかイズハさんが続ける。
「一応場所は平原付近でまとまってるから移動にはそんなに時間はかからん。必要なのは30分かかる距離を5秒で移動しきる身体能力と、後はどの辺りで何が採れるのか把握している知識くらいだ」
そう言ってイズハさんは私の目を見る。お昼の時の、私を依頼に誘ってくれた時と変わらぬ目で。
「さっきは一人で勝手に突っ走って振り回してごめんなさい……」
「なんとか役に立ちたかったんだろ? ならいい。……こっちこそ悪かったな、流石に言い過ぎた」
愛想をつかされてないにしても、また失敗するかもしれない。そんな不安がどうしても拭えない。
「いいんですか? また空回りしちゃうかも……」
「問題ない、俺がフォローすればいい」
「でも……」
「失敗を考えても意味ないだろ? 次だ次」
イズハさんの言葉に思わず言いかけた弱音を飲み込む。そうだ、失敗を考えたって意味がない。次こそ、今度こそ役に立てばいい。
「それじゃ平原のど真ん中でいいか?」
地図を広げ、イズハさんの指した場所と依頼書の内容を見比べる。
「いえ、このレパートリーだともっと西寄りの方……今の時間帯なら丁度この辺で“ヒルモドキ”ってキノコが採れます。あとそこから南に進んだ先にある岩場には“クサリツルクサ”が生えやすいのでそこを通る形でいきましょう」
「よし、じゃあ掴まれ。行くぞ」
イズハさんが差し出した腕を、離さない様にしっかりと掴む。
「はい、お願いします!」
なんだか自分の中でロマンチストがゲシュタルト崩壊してきた。