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ギルドに轟くシャウト

今回はセリフが少し読みづらいかもしてません。


「イズハさん、ここですよ!」


 俺はリリーの案内で、とある建物に連れてこられた。

 建物の見た感じや出てくる奴を見ると、どう見ても酒場にしか見えないこの建物。しかし大きさは他の建物よりは一際大きく、可憐な女性から屈強な獣人など多種多様な人々が出入りしている。

 ちなみに俺はブレザーから、飾り気の全くない無地の布の服に着替えた。彼女の知り合いの服屋さんに在庫を1着譲って貰ったらしい。

 男に着せる服が欲しいと言ったら、何やら察したように満面の笑みで渡されたとか言っていたな。


「ここがギルドか?」

「はい! ここで冒険者として登録すれば、ギルドカードっていう身分証の代わりになるものがもらえます!」

「まさか登録に身分証が必要だったりしないよな」

「あー……。早速行ってみましょう!」

「おい知識自慢、その勢いで乗り切ろうとするのやめろ!」


 俺の忠告を聞くより早く、リリーはドアの向こうでカウンターの人に話しかけていた。声をかけてしまった後ではどうしようもないので渋々後に続く。

 相手の受付嬢さんはいかにもか弱くて大人しそうな印象の女性だ。……あくまで見た目は、の話だが。


「新しく登録したい人を連れてきたのですが!」

「では身分証を見せてください」

 即落ち2コマ、いや2行。

「一撃で玉砕じゃねーか、なんなんだお前」

「あ、あっれぇー? たしか最初に作った時は私身分証持ってなかったと思うんだけどなー?」

「往生際が悪いぞポンコツ、もう諦めろ」

「ポンコツポンコツ言わないでくださいよ!」


 おっと、少し言い過ぎたか? でも振り回されてるのは事実だしなぁ。


「あの、身分証が無ければ 「私だってイズハさんのために色々考えてるんですよ! その服だって私が周囲の人から浮かないようにという慈悲の心で差し上げたというのに! 大体ポンコツポンコツ言う方がポンコツなんですよポンコツ!」


 む、言ったなこいつ? とっても温厚な俺も流石にちょっとカチンときたぞ。


「お客様、落ち着いてください」

「確かにこの服をくれたことには感謝しているとも、しかしだからといってこうも何度もお前が提案しといて勝手に突っ走って、その度に呆れさせられる俺の身にもなってくれ! お前だって立場逆だったら絶対ポンコツっていうぞポンコツ! 「あー!またポンコツって言った! 「あのお客様落ち着いて「何度でも言うぞポンコツ! 「他のお客様のご迷惑に「うるさいロマンチスト! 「黙れ「誰がロマンチストだポンコツ! 「うるせぇ 「夢で出会う運命がどうのこうの 「だからあれは予知夢だっていってんだろ!」


「うるせぇってんだよカス!」


 一際大きい声がギルドに響き、俺とリリーを含めたギルド中全員が静まり返る。

 ゆっくりと声のした方を見るが、いるのはか弱くて大人しそうな受付嬢のみ。しかしよくみると表情は優しげな笑顔のまま、額にしっかりと青筋を立てている。

 受付嬢さんはゆっくり呼吸を整えて続けた。


「……お客様、身分証もギルドで発行することが出来ますので、二つ一緒にお作りすればいいのではないでしょうかって言ってんだよクソが人の話を聞けやタコ。こちとらギルドに酒場までついてるもんだから酔っ払いのクソどもの対応にために夜中まで体力温存しときてぇんだよ昼間っからテメェらみてーなバカップルの相手してらんねぇんだよゴミ! ポンコツだがロマンチストだかしらねぇが他所でやれ負担を増やすな手間かけさせんな存在するな消え失せろぉ!」


 俺ですら怯むほどの剣幕でまくしたてた後、コホンと咳払いをして受付嬢さんが続けた。


「もしくはここでギルドカードと身分証を同時に発行しますか?」


 驚きなのは今まで受付嬢さんは一度も表情が変化していないところだ、あまりの迫力にリリーはもはや泣きそうになっており、流石の俺も今はただ黙って冷や汗をかいて俯いているしかない。

 俺とリリーは自然と同時に

「「すみませんでした、後者でお願いします」」

 と深く頭を下げた。



 ***



 どうやらカードの発行自体はそんなに時間はかかるものでもないらしい。ただし一応個人的な情報を扱う為メインフロアから別室に移され、担当の方と二人で行うようだ。

 担当はご察しの通り例の良いシャウトを持った受付嬢さん。表向きは黙々と必用なものを準備しているが、内心はあまりに酷くてとても見せられたものじゃない為伏せておく。


「ではまずは身分証用のカードです、こちらにご本人様のお名前を記入してください」


 そう言って丁寧に手渡されたのはスマホほどの少し大きめな水色のカード。さっさと羽ペンを持たされ促されるままに名前を書こうとして、ピタリと手を止めた。

 よく考えたらこの世界の文字なんか知らないし、平仮名と片仮名は何故かこの世界で共通みたいだけど漢字は通じるのか? 情報面での頼みの綱のリリーはメインフロアで待機しているしどうするか……。

 色々と思考を巡らせて受付嬢さんの様子を伺う。

「早く書けよカス」

 と言いたげな受付嬢さんの視線が辛い。心底面倒くさがっているのがテレパシーで聞こえるのがまた辛い。


「あー……ちょっといいか?」

「はい? ま~だ名前書き終わらないんですか?」

「俺この国の言葉とかわからなくて……」

 朗らか笑顔の受付嬢の冷めた視線が突き刺さり、ため息混じりに俺の手元からカードが奪い取られる。


「……あんたの名前は?」

(こいつどんだけ頭悪いんだよクソが)

「イズハ」


 いや本音の毒の勢いが凄まじいな。消防車もビックリの水圧で毒を吐く彼女、俺は裏表がある奴は嫌いだがここまで来るといっそ清々しいな。


「苗字」

「フカシギ」

「はい書いた、どーぞ」


 そう言って雑に投げ渡されたカードを見ると

「イズハ・フカシギ」

 と書かれている。

 なんだかこの世界のルールがよくわからない。何故平仮名と片仮名が通じるんだ? そもそも「苗字」で通じるのも意味がわからないぞ全く。


「じゃあそのカードをしっかりと握ってください」

「え? なんで 「はよしろ」


 言われたままに俺はカードをグッと強く握る、とカードがパキン! と音を立てて砕けてしまった。

 背を向けていた受付嬢さんが大きく溜息を吐き出しながらヌルリとこっちを向いた。眼光鋭いな。


「今度は何しやがったんですかテメー」

「……言われた通りにしっかりと握ったら砕けた」


 ついに客と店員という建前が消えてテメー呼ばわりされる始末。まぁその方がこっちとしてはありがたいが。


「は? マジかよどんな握力してんだアンタ」


 ゴーレムかよとかボソボソ言われながらも受付嬢さんに新しいカードを準備してもらい、今度は砕けないようにやや弱めに握る。


「ところでアンタ職業は?」

 職業? 一応学生だがこの世界には俺の通っていた学校はない訳だ、ここは適当に濁すのがいいか。

「いや特に……」

「無職ね、ハイハイ。しかし意外とスゴイんだねアンタ、どうやって砕いたのコレ」

「いや、手でこう……グッて。というかそんなに丈夫なのかコレ」

「いや丈夫も丈夫よ。え、じゃあアレもいけるかな? ちょっと待ってな」


 そう言いながら部屋を飛び出し、しばらくすると両手で重そうな謎の金属塊を一つ抱えて戻ってきた。


「ハイじゃあコレ持って、落としたら罰金な」


 なんだその理不尽すぎる罰金。手渡された球のサイズはボーリング玉程。確かに重量は結構あるが、このくらいなら俺は小指の先で持てる。


「うわ、小指で持ち上げやがった。マジかアンタ」

「バランスさえ取れれば10個でも余裕だな」

「ほ~ん……じゃあ砕いてみ、ソレ」


 砕くか……見たところ妙な細工がしてある訳でもなさそうだし、強度的には指一本でいいな。勢いで吹っ飛ばないように念動力で上下に押さえつけながら、デコピンで粉砕した。

 その様子を見ていた受付嬢さんに

「おぉーすごいなぁ、見直したわ。まさかそれまで砕くなんて、ただのバカップルの片割れじゃなかったんだねぇ」

 と謎の見直した発言を貰った。いやカップルじゃねぇよ。

 ちなみにこの鉱石は“シールドストーン”と呼ばれ、上等な鎧や盾などには必ず使われる非常に頑丈な鉱石だということは後でリリーに教えてもらった。


 砕け散った破片を集め(させられ)ていると、握っていたカードが眩く発光しだした。


「お、登録完了したみたいだね。コレで身分証の発行は終わり、それ貸しな」


 と言いながら身分証を奪い取り今度は何やら別の茶色のカードと重ね合わせる。

 しばらくカードを重ね合わせていると隙間がキラリと発光し、開くと茶色のカードに身分証と似たような文字やデザインが施されていた。


「はい、コレでアンタも冒険者の仲間入り。まぁ本当はこの後も色々説明とかあんだけど、受けたってことにしといて」

 まさかの丸投げ、それで良いのか受付嬢。

「なんか最初と大分雰囲気違うな」

「まーね、ぶっちゃけお客様~とか申し訳ございませ~んってキャラじゃないし。かたっ苦しいの嫌いなんだよね~」


 まぁカウンターの時から知ってたけどな、流石にあの怒鳴り声は想定外だったが。


「いやーアタシアンタのこと気に入ったわ、もうちょっとここで話していこうぜ」

「人をサボる口実に利用するな」

「まーまーいいじゃん、おっさんより若い男相手にする方がテンションも上がるって」

「勝手に上がってろ」

「まぁ聞けよー、なんか最近ナンパ野郎が多くてさー」

 付き合ってられるか。そっとその場を後にしようとするも、しがみついてきて離れない。

「しかも毎回セクハラしてくるジジィがいてさー」

「やめろくっつくな! なんだこの踏ん張り、カブト虫か!」


 ***


 リリーはドアの小窓から覗き込み、溜息をついた。


「……何してるんですかねあの人たち」

受付嬢の名前どうしよう。

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