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入国インビジブル

「おい起きろ、いつまでダウンしてんだ」

「うぇぇ……ぎもぢわるい。一体誰のせいだと思ってるんですか……」

「元を辿ればお前だろ、アクロバットしたのも悪いが」

「ぐぅの音も出ない……。げぇの音は出るけど、出ッ」


 いや本当に出すなよ? ……あぁ、遅かった。

 リバース中の彼女の案内でここまできたが、なんとも立派な城壁だ。

 ファンタジーな城や城下町なんて実際に見るのは初めてだが、妙にワクワクしたり期待してしまうのは何故だろう。夢も希望もない現代に生きる者の性なのか。



「こっちですよイズハさん!」


 気がつくとさっきまでダウンしていたのが嘘のようにリリーが門の手前で手を振っていた。復活早いな。

 門に入っていく人たちはどれも個性的な人たちばかりだ、中には人間かと疑うようなやつもいる。


「こんにちは、門番さん。入ってもいいですか?」

「身分証かギルドカードを見せてください」


 彼女はポケットから何やらカードのようなものを門番に提示している。おいおい、そんなもの持ってないぞ? 大丈夫なのか?


「はい大丈夫です、では次の方」


 彼女がハッとしたような顔をしてこっちを見る、どうやら俺に伝えるのを忘れていたらしい。


「実はその、こっちの人は持っていなくて……でも悪い人じゃないです、私が保証します!」

 お前に一体俺の何を保証できるというんだ。会って何分も経ってないぞ。

「保証と言われましても……身分証かギルドカードがない限り、その方を通す訳にはいきません」

「えぇーっ! そんなぁ~お願いしますよ~」

「駄目といったら駄目です、お引き取りください」

「う~、そこをなんとか~」


 縋りつくようにお願いするリリーだったが、門番さんはダメの一点張り。まぁこんな素性の分からない男を入れる門番なんていたら即行クビだろうしな。

 しかし町に入れないのは困ったな。流石に異世界に来て早々に野宿は嫌だし、強行突破も飛び越えることもできるが目立ちすぎる。仕方ないからあれでいこう。


 俺は門番さんに縋りつく彼女を引き剥がし、その場を離れた。

「お前は先に町に入ってろ、後から合流する」

「で、でも許可証がないと入れないって」

「これ以上ゴネるとお前まで入れなくなるかも分からんぞ、それに入ったことに気づかれなければいい話だ」

「まさか忍び込む気ですか!? いやいや無理ですよ! だってあの門には魔法強制解除の魔法が掛けられてて通ろうとしたら変身とか即解除されちゃいますし、結界が張ってあるから城壁の上から侵入もできませんし……」

「魔法じゃなきゃいいんだろ?」

 そう言って俺はとある超能力を発動する、“透明化”だ。


「わぁ! 顔が消えた!? でも服が見えてますよ?」

「そうだな、ということで俺の服も荷物として持って行ってくれ」

 身につけている衣類を全て脱ぎ捨て、リリーのもとに次々と投げていく。

「うわわっ! 何でいきなり脱ぐんですか! エッチ!」

「いちいち騒ぐな、もう透明化してるからどうせ見えないだろ」

「あぁそっか……ってそういうことじゃなくて! イズハさんはもう少しデリカシーというか乙女心というか、そういうことを覚えた方がいいと思います!」


 彼女は頭から湯気を立てながら足早に門に向かっていった。

 どうせ見えないのに何を騒ぐ必要があるのか、乙女心とはテレパシーでもわからんものだ。


 ***


 彼女は門から少し近いところにあるベンチに座って待つことにしたようだ。


「イズハさん大丈夫かな、ちゃんと入れたかなぁ……ひょっとして捕まってたりして」


 ちなみに俺は今彼女の真隣に突っ立っているんだけども。


「夢で会えたから出会う運命って……どういうことなんだろ。そういうタイプの人なのかな」


 運命じゃない予知夢だ、人をロマンチスト扱いするな。


「ていうか、もし今イズハさんの透明化? が切れたらあの人すっぽんぽんだよね。不法入国以前に人としてアウトだよ、罪状増えちゃうよ」


 俺は彼女のすぐ隣に置いてある俺の服を着だしているのだが未だに気づかない。周囲からみれば、独り言を言う少女のすぐ横で服が宙に浮くという謎の光景が広がっているわけだが。


「でも助けてくれたし、いい人だとは思うんだよね、暗くて目は死んでるけど顔も結構整ってて……。いやいや、まだ出会ったばっかりなんだからそれは置いといて」


 服も全部着てしまって透明化もとっくに解除して隣に腰かけたが全く気づかない。


「とりあえずまずはギルドでカード発行してもらって、それからこの世界の服とか買ったほうがいいね。それからお昼ご飯食べて、いや先にお昼ご飯の方がいいかな?」

「先にお昼ご飯がいいかな」

「やっぱりイズハさんもそう思います? でもカード先に作っといた方が……うわぁぁぁぁぁぁ! イズハさん!? いつから隣にいたんですか!?」

 リリーが驚いた拍子にベンチから転げ落ちる。リアクション大げさ過ぎるだろ、コントか。

「最初から、ずっと隣でワサワサしてたけどな」

「なら最初にそう言っといてくださいよ! ずっと独り言聞かれてたなんて……」


 リリーが顔を真っ赤にして抗議するが、こっちとしてはむしろ気づかないことに驚いたぞ。隣で服が浮いていることに何の疑問も抱かなかったのか。


「まぁ細かいことはいいだろう、それより早く昼飯だ」

「なんだかやけにはりきってますね? お腹空いてるんですか?」

「まぁ起きてから何も食べてなかったからな」

 なんといっても異世界の飯。普通に生きてて食えるものでもないし、正直少し期待に胸膨らませているところもあるが。あくまで少しな。

「そういうことなら助けてもらったお礼もありますし、私のおすすめの店に行きましょう! あそこの店はお肉が美味しいんです!」


 異世界の肉料理か、まさかゴブリンの肉じゃないだろうな。もし味覚までポンコツだったらどうしよう。

 そんな心配をよそに大通りをすいすいと進んでいくリリー。……まさかとは思うが、念のため確認しておこう。


「一応確認のため聞いておくぞ、財布はあるのか?」

 その一言を聞いた瞬間、リリーの歩みがピタリと止まる。しばらくローブの中を漁ったかと思うと、哀愁を帯びた笑顔でくるりとこちらに向き直った。

「先に私の家に寄っていってもいいですか?」

「だと思ったよ」


 俺は、腹の虫を抑えながら駆ける彼女を追った。

イズハは別に乙女心が分からない訳じゃ無いんです、ただ見えなきゃ良いじゃんって思ってるだけなんです。

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