少女はポンコツ
今回は非常に短いですが、基本的にこんな感じになると思います。
現在俺はゴブリンの灰を撒き散らしながら緑溢れる森の中を探索している。火事? なんのことだかさっぱり分からないな、火事なんてなかったが?
ただ森から抜け出すだけなら空を飛べばいいのだが、この世界のこともいろいろ見ておきたいから歩き回っている次第だ。
途中で巨大な食虫植物的なものに食べられたりもしたが、サイコキネシスでバラバラに切り刻んで処理した。
異世界といえば異世界モノでおなじみのステータス的なものはないのだろうか? チートスキルはいらない、自前のチートでお腹いっぱいだ。
などと色々考えながら歩き回っていると目の前に巨大な何かが現れた。
「ブゴォォォォォッ!」
「うるさい」
5メートル程の豚顔モンスターの重量感あふれる腹に、サイコキネシスで大きな風穴を開けてやる。雄たけびを上げた姿勢のままひっくり返るように倒れたモンスター、冠的なものを被っているあたり偉いのだろうか。
しかし倒した時の血しぶきが制服にかかるのが何というか少し不快だ、復元すれば汚れは落とせるけど精神的になんか嫌。
そういえば、こういう大きな魔物を倒すと何か丸っこい石を落とすことに気がついた。ビー玉のようで綺麗なのでとりあえず持ち歩いてはいるが、ひょっとしたら金になるかもしれない。
この世界の通貨は持ち合わせていないから金になりそうなものを集めているだけで、断じて俺が金に汚いとかそういうわけじゃ無い。はず。
ちなみにその要領で手軽に持ち運べそうな小さな牙や木の実などは持ち歩いている。
***
襲いくる魔物達を排除しながら歩き回っているうちに、木々がだんだんまばらになってきた。どうやら森の出口が近いらしい。正直右も左も木の景色には飽きてきたところだ、そろそろ脱出するか。
木々が少なく明るい方へ歩いていき開けた所に出ると、先ほどのまでの鬱蒼とした森林が嘘のように見渡す限りの大平原。
ポツポツと木や花が生えていたり地面が出ていたりして、自然な雰囲気があって良い。空は気持ちよく晴れていて小鳥が羽ばたき、なんとものどかな場所だ。
近くの倒れた木に腰掛け、柄にもなく小鳥のさえずりに耳を傾けたりしてみる。
(どうしよう……誰か助けて……!)
聞こえたのは、平和な小鳥の声ではなく不穏な心の声。聞こえてきた方を見てみると、一人の少女が狼らしき獣にじわじわと壁際に追い詰められているところだった。
少女は大きな木の棒のようなものを持ってはいるが、反撃に転じる様子がない。攻撃手段を持っていないのか、それとも恐怖で動けないのか。
どちらにせよこのままでは食べられるのは時間の問題、別に助けてやる義理なんてないが見てしまった以上放っておくわけにもいくまい。
テレポート!
「うぅ……もうだめなのかなぁ」
「大丈夫か?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
あまりの大声に俺も狼も怯む、なんだその声量。
「うるさい、大声を出すな」
「あなた誰ですか! いつからそこに!? なんで座ってるんですか!」
「一つずつ答えよう。名前は不可思議 出葉、テレポートでパッとここに来て座ったまま移動したからこうなった」
あ、うっかり超能力のことを言ってしまった。いや別にいいか、どうせ異世界だし魔法的なアレっていえば誤魔化せるだろ。
「ご丁寧に質問に答えてくださりありがとうございます! なんのご用ですか! 見ての通り今忙しいんですけど!」
「助けにきた」
「じゃあ座ってないで魔物達をなんとかしてください!」
「任せろ」
俺が座ったまま手をかざすと、魔物達が一斉に硬直する。そのまま指を軽く上に振るのを合図に、魔物達は打ち上げ花火の如く遥か上空まで吹っ飛んでいった。
「さて、これでよかったか?」
少女は空を見上げてしばらく呆気にとられていたが、俺が立ち上がるとハッとこちらに向き直った。
「あ、ありがとうございます! すみません、さっきは怒鳴ったりして……」
まぁそれは俺がからかったからな。それにしてもこの少女、どこかで見たような気がするな?
「あ、あの! 私、リリー・ナオセルっていいます!すみませんがあなたのお名前は……?」
「あぁ、俺は不可思議 出葉だ、よろしく」
「あの……フカシギさん? 天職は何を? みたことがない服装ですが……まさか貴族!?︎」
「イズハでいいし貴族じゃない、それよりお前どこかで会ったこと……。あ、そうだあの時の」
「え? お会いしたことありましたっけ?」
そう、今目の前にいるこのリリー・ナオセルという少女。白いローブに木の棒に明るい茶髪に青い瞳の、予知夢に出てきたあの少女だった。
「なるほど……。つまりイズハさんの夢の中に私が出ていたから知っている気がした、ということですか」
俺は彼女に自分が異世界から来たこと、そして予知夢のことを説明した。信じてもらえるか分からないが、一応話しておいた方がいいだろう。
超能力のことは少し触れる程度だが正直に話しておいた、予知夢の彼女がすでに知っていたのだから隠す必要もないだろう。
「気がした、というより出会う予定だったんだ」
「あー、もしかしてロマンチストですか?」
「そういう意味じゃない」
「異世界から来たなんて……。いささか信じ難いですが、まぁ疑ってもしょうがないですね」
(異世界……あんなすごい力を持った人たちがうじゃうじゃいるんですかねぇ)
バカいうな、俺みたいなのがいっぱいいたら地球が消し飛ぶことになる。
異世界だなんだと出会っていきなりの話に色々言ってはいるが、一応は信じてくれたようだ。
「あの、この世界に来たばかりなんですよね? ということは、町の場所とかルールとかも分からないんですか?」
確かに俺はこの世界のことは何も知らない。会話が成り立つ以上言葉は同じなんだろうが、ひょっとしたら知らないうちにルール違反で即お縄……なんてこともありえる。捕まえられればの話だが。
「もし宜しければ私が色々案内しましょうか? この世界で生まれ育った以上ルールくらいはわかりますよ!」
それはありがたいが、こいつ初対面にしてはやけに親切だな。
警戒しておくに越したことはないし、テレパシーで本音を探らせてもらおう。異世界モノで序盤に仲間に裏切られるなんてよくある話だ。
ちなみに俺のテレパシーは常時発動しているが、普段は効果範囲を半径1キロメートルから1メートルほどに縮小している。
あまりに強い感情や俺に向けた感情は勝手に受信してしまう為完璧ではないが、それでも関係ない騒音がなくなるだけでかなりマシにはなる。例えるならゲームセンターからちょっと賑わった本屋さんに移動したくらいの変化だ。
「あ、依頼料とかの心配はしなくて大丈夫ですよ! 助けてくれたお礼ってこともありますし!」
(異世界からきたってことは色々不安なこともあるだろうし、助けてもらった恩返しとしてはこれが一番妥当だと思うけど。でもいきなりこんなこと言って不審がられちゃったかな?)
どうやらなにか企んでいるわけでもなさそうだ。まぁ企んでいたところでいくらでも対処のしようはあるし、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「そうか、じゃあよろしく頼む」
「お任せください! とりあえず時間もいい感じですし、町に戻ってお昼でもどうです?」
そう言って彼女がローブの内側のポケットから取り出した懐中時計を見ると針は12時手前、どうやらこの世界も1日は24時間という認識らしい。
「町まではここから大体どの位かかるんだ?」
「はい、えーっと私は向こうから歩いてきて……ん? こっちだっけ? いやでもこっちからきた気も……あれれ?」
彼女はあっちを見たりこっちを見たりしながら首を捻っている。冷静に考えてこんな平原に多少の凹凸や木々はあっても、目印なんてそうそう無いだろう。
「コンパス、方位磁針はないのか? あるいは地図とか」
「ありますあります! 確か鞄の中に……っ!」
彼女はハッと思い出したように2,3回腰の辺りで手を空振り、そして分かりやすく『サーッ』という効果音が聞こえそうな勢いで青ざめる。
「おい、鞄はどこだ?」
「えっと……その……よし! とりあえず道を探しましょう! 道を辿ればいつかは町に着きます!」
「よし! じゃないな、何もよくないだろ。鞄をどこにやったんだ」
「えぇっと~今朝鞄に冒険用の荷物をまとめて~町を出るまでは持ってて~……いや持ってなかった、じゃあ家だ! 鞄は家にあります、すみません!」
……最早呆れて物も言えない。
予知夢にまで見た、異世界で最初に出会った相手がまさかの俗に言う“ポンコツ”だったとはな。
己の不運を嘆いても仕方がない、まずは町に行くことを優先しよう。俺はその場にしゃがみ込む。
「イズハさん? どうしたんですか?」
「乗れ、空から町を探せば手っ取り早いだろ」
「イズハさん空も飛べるんですか! 飛行魔法なんてかなり熟練の魔法使いしか扱えないのに……」
「魔法じゃない、超能力だ」
彼女を背中に乗せ、俺は勢いよく大地を蹴って空へ飛び立った。常人が死なない高度……まぁ10メートルくらいでいいか。
「どうだ、ここからなら町がよく見えるだろう」
「あ、あれです! あの赤い屋根のお城の城下町!」
「なるほど、歩きだと30分ってところか」
「それにしても空飛ぶのってこんな感じなんですね、飛んだら何分で着きますか?」
「本当は飛ぶ必要なんてないんだが」
全くポンコツな上にお気楽な奴だ……。よし、少しイタズラしてやるか。
「5秒だ」
「そんなに速いんですか!? ……なんでそんなにニヤニヤしてるんですか? なんか怖いんですけど……」
死なれても困るからバリアを張って……。
「よし、それじゃあしっかり掴まってろよ?」
「……あ! ちょ、ちょっと待って! やっぱりせめて5分か10分くらいかけてゆっくり……」
「行くぞ! 物理テレポート!」
「ちょっとまぁぁぁぁぁぁぁぁ――
そして宣言より少し遅い10秒で城下町の手前まで着いたが、案内係はしばらく起き上がれそうもなかった。
「悪いな、途中で急にアクロバット飛行がしたくなってしまって」
「うぷっ……おぇぇ……」
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