勇者格差
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「さて聞こう、どうしてこうなった?」
宿に戻った俺は、至極冷静にリリーの頬をつねりながら優しく問い詰める。
「いひゃいへふ……はあひへふははひ(痛いです……離してください)」
すると頭痛の元凶である変態勇者こと纏が間に割って入ってきた。
「おい、女の子相手に乱暴するな、サイコ野郎」
「あぁ? 何か言ったか雑魚勇者」
「お、お二人とも! 落ち着いて落ち着いて。しばらくの間だけですから、ね?」
リリーの言葉に対して、俺と纏は打ち合わせたかのように大きくため息をついた。こいつと意見が一致するというだけでも不愉快極まりないが、今回ばかりは奇しくも完全に同意見である。
「「こいつとしばらくの間過ごすということが不愉快だ」」
またも打ち合わせたかのような寸分の狂いもないタイミングで全く同じ意見が口から出てくる、あぁ気持ち悪い。
「マネするなよ、クソサイコ」
「お前みたいな発情猿のマネなんざしたくもない。本物の猿のマネする方がまだマシだ」
それにしてもこいつ、あれだけボロボロに負けたくせにやけに強気で来るな。肝が据わっているのか? いやあの決闘の時の慌てっぷりからしてそれはない。何か隠しごとでもされていたら困るし、テレパシーで探っておくか? でもこいつの頭の中基本ピンクか黒だから聞きたくないんだよなぁ。
そう思いつつ睨みあっていると、リズが呆れたように溜息を吐いた。その隣ではピコが泣きそうな顔をして俺たちを見上げていた。
「ねぇーお二人さん、ピコの前で険悪なムード出さないでくんない? 怯えてるから」
「おにいちゃんたち、けんかよくない……」
「別にあたしはするなとは言わないけどね、せめて場所変えてよ」
リズに睨まれ、優男モードで「ごめんね~」と頭を下げる纏。全く、この姉妹とリリーがいなけれさっさと纏だけ別の場所に送ってやるのにな、宇宙空間とかマグマの中とか*いしのなか*とか。
それと一つ納得。道理でこの変態は実力差を分かっていながら強気に出てくるわけだ。このクズ、俺がこいつらの前では下手に自分に手出しできないと分かってやがる。
「ごめんねーピコちゃん、喧嘩じゃなくてちょっと話し合ってただけだからねー」
そしてこいつは本当に切り替えの速さだけは天下一品だな、もはや優男に変態の悪霊でも憑りついているのか疑うレベルだ。除霊したら真人間になったりしないだろうか、というか消えてくれないだろうか。
「とりあえず今後のことを話しておくが、リズとピコはクリムっていう赤いおっさんに預けるから、そこで面倒見てもらうように。んでこの変態は憲兵につきだす、それでいいな?」
「イズハさん!? 駄目ですよ勇者さんなんですから! 今のところは何もしてませんし!」
「『今のところは』って言い方もちょっと痛いけど……擁護ありがとうリリーちゃん、やっぱり良い子だなぁ可愛いし」
……こいつがモテないのはそういうところだろうな、いきなり女子に『可愛い』とか言ったって落ちるわけないだろ、マンガじゃないんだぞ、リリーも若干引いてるぞ。
というかこいつといい他の勇者といい、なんかマンガっぽいというかラノベっぽいんだよなぁ、創作のキャラのような無理やり性格くっつけました感がある。
「じゃあ替わりの仲間が見つかるまではここに入れてやるとして、そうなると俺たちもこの国の勇者たちに会うのに同行しないといけないのか? 面倒くさいな」
「別にわざわざ着いてこなくてもいい、パーティ登録は済ませてあるしな。というかお前は来るな、言いたくないがお前がいると僕たちの実力が霞む」
実力か、まぁこの1万のステータスを人に晒す気はないが、勇者たちはどんなステータスなんだろう。モディロニアの聖騎士たちのステータスも気になるな、本当に聖騎士や勇者を名乗る程強いのだろうか? 以前の戦いではとても強そうには見えなかったが。
「ということで俺……じゃなくて僕は今から城に向かうから、その間に二人を預けてきなよ」
「はい、じゃあ私たちも行きましょうか、リズちゃんとピコちゃんおいでー」
全く、とりあえず心配事が一つ減るのはいいが、減ると同時に別の心配事を持ってくるんだもんなぁ、本来はただリリーと二人旅する予定だったんだが。
「このおっさんが私たちの面倒見てくれるの? なんか不安」
「おじちゃんおヒゲあかーい! まっかっかだー!」
「……なぁクソ主、男児ならまだ面倒見れるが、よりのよってなぜ女児二人なのだ? 我男ぞ?」
なんだかんだ理由をつけて断る気満々のようだがそうはいかない、何が何でも子守りは引き受けてもらうぞ。
「だってさリリー、どうするよ、他当たるしかないみたいだ」
「やっぱりそうですよね……すみません、留守番だけじゃなく子守りまで押し付けるような真似をしてしまって」
リリーが分かりやすく『申し訳ないですオーラ』を漂わせて頭を下げ、リズピコ姉妹には打ち合わせておいた通りクリムの目を見つめさせる。クリムが明らかにばつが悪そうにしているのをみて勝利を確信した。
「ぐっ……そこでリリーを出すのは卑怯だぞ! 貴様らも演技とはいえそんな目で見るな! 分かった分かった、約束通り子守りは引き受けたからお前ら二人は早く内へ!」
よしよし、これでようやく旅の続行へ一歩近づいたな、あとはあの変態勇者を何とかするだけだ、埋めるか燃やすか、もしくは消し飛ばすか。
「イズハさん、なんか物騒なこと考えてますね。顔が邪悪です」
「まさか、纏の処理方法を考えてただけだ、やましいことなんて考えちゃいない」
「処理ってなんですか! ちゃんとお仲間さんが見つかるように手助けしてあげましょうよ!」
そりゃ難しいと思うがなぁ。なんせあいつは性格に難がありすぎる。いくら顔がよくて能力も反則クラスでも中身がゴミじゃあしょうがない、かといってあれと一緒に三人旅は絶対に嫌だ。
「いっそのこと洗脳であいつがいいやつに見えるようにするか? でもそれじゃあ仲間になった奴があんまり不憫だな」
「そんなんじゃなくもっとちゃんとギルドとかで仲間を欲しがっていそうな人に声かけたりとか、あの人が勇者としてちゃんと頼れるところを見せていけば、きっと仲間になりたいって人は来ますよ」
そうなんだよな、残念なことにあれでいて勇者なんだよなぁ。あんなコメディみたいな勇者、誰が引き取ってくれるだろう、できれば常識のある男がいい。
「私、あの人の押しが強いところは苦手ですけど、あの表情豊かなところとかイズハさん相手だと割とすぐにムキになるところとかは結構好きですよ! 面白い人だと思います」
『私ね! この主人公の女の子大好きなところはどうかと思うけど、イケメン設定なのに顔芸ばっかりなのといちいち空回りしてるところとか好きなんだよね~。出葉も読んでみてよ!』
強烈な既視感とともに訪れた眩暈を何とかぎりぎりでこらえていた最中に聞こえた声、間違いなく百合の声だった。気絶はしなかったから姿は見えなかったが、恐らく一冊の本を俺に勧めているシーンで間違いないだろう、肝心の本の内容はよく思い出せないが……。
「イズハさんまた頭痛ですか!? 肩貸しますよ!」
「いや大丈夫、もう治まった。急いでブルニオの宿屋に戻らないとな、あいつがもう戻ってきているかもしれん」
それにさっきの記憶、なんとなくだがあの変態勇者の顔を見れば何かわかる気がする、喉元まで記憶が出かかっているのがもどかしい。俺はリリーの手を取ると同時にテレポートを発動した。
「やぁそこのお嬢さん! もしよければ僕と一緒にエネミー退治してくれないかな?」
「す、すみません、私じゃ頼りないと思うのでっ!」
「あ、ちょっと……クッソ、今のはあと一押しで行けたな」
俺、『真鹿 纏』は非常に焦っている、仲間ができないという現状に。
全くこの世界はなんて理不尽なんだろう、普通異世界からきたチート能力持ちの優男フェイスときたらモテて当然、女の子に囲まれてキャーキャー言われながら「おれなんかやっちゃいました?」っていうのが普通の展開じゃないのか?
あげくに他の勇者が美少女を仲間にしてキャッキャウフフしている横で、俺は反則クラスのサイコ野郎とパーティを組む羽目になる始末、まぁ天然元気っこのリリーちゃんがいるから我慢はするけど!
「おいおい、いくら仲間がいないからって、城のメイドに声かけるのは頭悪すぎるんじゃねぇか?」
げ、チンピラ勇者の『伊達 鉄平』じゃないか、確かスキルが“何度倒れても立ち上がる”とかいう自分が強くなるわけでもないゴミスキルだったかわいそうな奴だ。
「いたいた! 探したよテッペイ! ん? あぁ、なんか勇者の人だ!」
「えぇいくっつくな鬱陶しい! 離れねぇと殴るぞ!」
テッペイに思い切り体当たりするように抱き着いたのは、つい最近仲間になったらしい犬耳の少女『ハチ』ちゃんだ、この男に大変似つかわしくない人懐こそうな女の子である。
「いいじゃないこのくらい! 昨日の夜なんかもっといっぱいくっついたのに!」
「紛らわしい言い方すんな! お前が悪夢で眠れないっつうから仕方なく添い寝してやっただけだろうが!」
あれ? なんか口の中に血の味が広がってる、我に返ってようやく下唇から激しく出血していることに気づいた、どうやら無意識のうちに噛みちぎろうとしていたらしい。
痛みに脳が気づく前に急いで回復魔法で治療する、あー魔法便利、超便利。
「テッペイなんか匂わない? なんか血の匂いがするような」
「あぁ、異空間パックにさっき狩った肉入れてるからじゃねぇか? 今日の晩飯はお前が気に入ったっつってたアレつくってやるよ」
「ホント!? テッペイ大スキ! チュウしちゃう!」
「やめろ! 獣くせぇんだよお前! お座り!」
畜生! ヒール重ね掛けしても間に合わないくらいの勢いで下唇にダメージが蓄積している! でも目の前のこの光景に俺は下唇を噛む以外の適切な行動が思いつかない!
「なにそんな地獄みたいな顔してんの……キモイんだけど」
横から声をかけてきたのはよく分からん陰キャ勇者の『上本 良太』、“武器の真の性能を発揮する”とかいう武器がないと何もできないゴミスキルの持ち主だ。
そしてそんな奴の常に一歩後ろにいる彼女が、奴に奴隷としてこき使われているであろう可哀そうなな少女『スレイ』ちゃん。
モディロニアでは基本的に奴隷制度は認められていないのだが、ブルニオはそうでもないらしい、かといって俺は奴隷を使役するつもりはない、なぜなら紳士だからな。
「魔導の勇者マトイ様、不屈の勇者テッペイ様、ご無沙汰しております」
「わざわざ礼儀正しくしなくていいから……奴隷気質を抜いていくって自分で言ったろ?」
「申し訳っ……じゃなくてごめんなさい! リョウタさん」
「そうそう、わざわざ様なんてつけねぇでテッペイだけでいいんだよ、堅苦しいぜ」
「えー!? テッペイって呼ぶのは私の特権なのにー!」
「お前にそんな特権与えた覚えは無ぇ、分かったら離れろ!」
チンピラとじゃれあうハチちゃんと陰キャに注意されて顔を真っ赤にしているスレイちゃん、そして完全に蚊帳の外の俺……なんだこの状況。
「あんまりだぁぁー!」
俺は目の前に繰り広げられるクソみたいな光景から一時的とはいえ逃避するために駆け出した。
***
「千里眼お疲れ様です。どうでした? 勇者さん、仲間出来そうですか?」
「無いな、あれに仲間作るには俺らの一生を費やすくらいの覚悟がいるかもしれない」