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一難去ってまた一難

長らくお待たせして申し訳ありませんでした! 待ってくださった方本当にありがとうございます!

「クソ! あの女どこ行きやがった?」

「まだこの辺にいるはずだ! 探せ探せ!」


 ふぅ……どうにか撒けましたね。私リリー・ナオセルは現在冷や汗を拭いながら、大通りの市場から少し離れた住宅地の人一人通るのがやっと路地に身を潜めております。

 大体なんで私何もしてないのに、こんな追いかけまわされないといけないんですか! これというのもリズちゃんがあんなことするから! 『スリが癖』ってはた迷惑の極みじゃないですか!


 こんなときイズハさんがいれば……なんて考えは頭の外にポイしましょう。

 イズハさんは今気絶中ですし、それにいつまでもイズハさんにおんぶにだっこじゃしょうがないですし、このくらいのトラブルなら一人でも乗り切ってやりますよ!


「所詮相手は人間、モンスターじゃあるまいしそんなに怖くもないですし」

「誰が怖くないって?」

 背後から不意に声を掛けられて、おもわず飛び跳ねそうになった体を抑え恐る恐る振り返ると、そこには細身な男が腕組をしているではありませんか。

「撒けたと思ったんだろうが残念だったな、バレバレだったぞ」

 路地から出ようと後ずさると、背後から別の男の人にがっちりと肩を掴まれちゃいました。これはあれですね、万事休すってやつですね。もうこうなってはどうしようもないので、諦めて助けを待つ方向にシフトしました。


 ***


 自分と対話するという奇天烈ながらも不思議と現実味を帯びた夢っぽい何かから目覚めると、リズとピコが狐耳をぴくぴくと動かしながら俺の顔を覗き込んでいた。寝ぼけた目を凝らすとリズは汗をかいていて息も荒い、この感じはもしかしなくともトラブルでも持ってきたんだろうな。

「あ、起きた起きた、調子はどう? 超能力は万全?」

「開口一番それか。それで? 一体どんなトラブルを持ってきたんだ?」

 できることならなるべく小さなトラブルにしてくれ、ビンの蓋が開かないとかそんなレベルなら一瞬で終わらせてやるから。

「その顔はあんまり動きたくないって顔ね、イズハって口数はそうでもないけど顔が雄弁よね」

「うるさい、いいからとっとと言……わなくていい、もう大体把握した」

「さすが超能力者、話が早くて助かるわ。リリーが大変なことになっちゃいそうだから、急いだほうがいいかも」

 ことの発端はこいつの癖になんとまぁ面の皮が厚いことだ、クリムに預けるときにしっかり躾けるように言っておいたほうがいいな。

 落ち着いて目を閉じ、しっかりと念じる。気絶からの復活したてで少し不安だったが、問題なく千里眼が発動し、男たちに囲まれてお手上げ状態のリリーがはっきりと見える。

「よし、居場所は分かった。お前が今持ってる財布もよこせ、一緒に返してくる」

「はい、この三つで全部」

「中身抜いても分かるからな」

 そういうと、リズがポケットから銀貨を三枚取り出した、どれだけ抜け目ないんだこいつは。守銭奴の極みだな全く。


 ***


「――というわけで、財布は全部返す。本当にうちの連れが申し訳ない」

「い、いや、お、俺たちはささ財布が戻ってくりゃそ、それでいいんだよ、なぁ!?」

「あ、あぁ。こ、こっちこそすみませんでした……」


 連中はかなり気がたっていて話し合いを持ちかけるのも一苦労だったが、なんとか俺の説得(物理)が上手くいってよかった。解放されたリリーは申し訳なさそうにうつむいたままだが。

「イズハさん、すみません、せっかく休んでいたのにこんなトラブルに巻き込んでしまって」

「いやこのトラブルはお前が原因でもないし、何も気にする必要はない」

 というか張本人のあいつらも一緒に連れてくるべきだったか、いや連れてきてもなんか面倒な段取りが増えるだけな気がするし、とりあえずあの二人を早いとこクリムに引き渡さないとな。


 などとごちゃごちゃ考えていると、なんだかまたあたりが騒がしくなってきた。どうやら誰かが近づいてきているみたいだが、こうも人が多いとテレパシーが混線していてよく聞こえないのだ。

「ここにみなさんの財布を盗んだ泥棒がいるんですか? すみません道を開けてください!」

 この声はハーレム願望の優男風ストーカー勇者、「真鹿 纏(まじか まとい)」じゃないか。よりによってこの世界でもっとも会いたくない男、いや人間ランキングの暫定トップに出会ってしまうとは、どうやら俺は運のステータスだけは壊滅的に悪いらしい。


「で、何の用だ? っといってもここまで近づけばさすがにテレパシーが機能してくれるが」

「聞いたぞ! リリーちゃんを利用してこの人たちの財布を盗んだんだってな!」

「いや今返したし俺は何も指示してないし、そもそもリリーが盗ったわけじゃない」

 しっかりそう伝えるとマトイはしばらく「うそくせぇ」とかなんとか言っていたがやがて「わかった」と表面上は理解してくれた、最も内心はがっつり疑っていたが以前の戦いでとんでもない実力差を身をもって経験したため強く出られないだけなのだが。

「分かってもらえてなによりです、ところで勇者さんはなぜこの国に?」

 リリーは何でこう隙あらば首を突っ込むのだろう、首突っ込まないと死んじゃう病にでもかかっているのか。

「え?ここブルニオの王様にこの国の勇者に会いに来るように言われたんだよ。後の2人もきてはいるけど、基本僕ら3人別行動だから」

「仲間はいつ作るんだ、仲間というか制止役」

「うるさいな、お前には関係ないだろ!」

(今までずっと道行く女の子たちにアタックしかけてるのに玉砕続きだったなんて言えるわけねーっ! それに引き換えこんなときでも気にかけてくれるリリーちゃんマジ天使!)

 苦労してるんだなぁマトイ……そういえば他の勇者たちはどうなったんだろう、一応あの中で一番コミュ力の高そうなこいつですらこの調子なのだから他もこうだとは思うが。

 マトイの相手をリリーに押し付けて、隣でそっと千里眼を発動する。


 ***


 まずは二番目にコミュ力のありそうな不良勇者から。さっそく見てみると、なにやら不良の周りを忙しなくうろうろしている少女がいる。

 立派な犬系の耳としっぽを生やした、青い瞳のきれいな獣人の女の子だ。身振り手振りだけで不良に懐いていることがよく分かる。

「テッペイ! 次はどこ行くの!? ねぇねぇ!」

「っせーな! テメェは一秒でも黙ってらんねぇのか殺すぞ!」

「またまた~、怖い顔しちゃって~!」

「あ~ウゼェ! ちょっとでもテメェに同情したオレが馬鹿だった! 死ね!」

「あ~ん待ってよ~! 置いてかないで~!」


 う~む予想外、いやでも不良系主人公が変な奴に懐かれるという展開はよくあるし、別に不思議ではない……のか? まぁ自分より暴走しがちな奴がいればあいつが暴走することはまずないだろう。

 とりあえず次、あの無気力系勇者は一体どうなっただろう。視点を切り替えると、今度は港付近の風景が見えてきた。そして何やら無気力勇者が少女を木箱に腰掛けさせているのが見える、どうやら今度は普通の人間のようだが何をしているのだろうか。


「いけませんご主……リョウタ様、主人が奴隷に気を使うなんて」

「いや気ぐらい使わせてよ、疲れてるのに気づかなくてごめん。何か飲み物買ってくるから、座ってて」

「そんな! 飲み物ぐらい自分で……」

「命令、ここに座って動かないこと、とか言わなきゃダメなのか? いいから大人しくしてて」

「……ありがとう、ございます」


 なるほど、奴隷か。これもまた異世界定番……というか調教現場があったなそういえば、ぶっ潰したけど。こういうのは基本奴隷制度とかちゃんと理解した人が書かないと……おっとメタ発言。


 ***

 

 ともあれあの二人にはちゃんと仲間がいるようだ、ということは仲間がいないのはこいつだけということか、悲しい男だな。そりゃリリー相手に必死になるわけだ、というかそのがっついた感じを無くせば仲間ぐらいすぐできるだろうに、何度空回りしたら気づくんだろうか。


「いやほんとちょっとでいいから! せめて依頼一つだけでいいから! おねがぁい!」

「イズハさん、なんかまだ勇者さん私の勧誘諦めてないみたいなんですけど、どうしましょう」

 いやどうしましょうと言われても、どうすればいいんでしょう。でもさっきの勇者二人の様子とか今の必死すぎるこいつを見てたらなんか哀れになってきた、リリーはやらんけど。

 なにやら横からリリーが期待の眼差しを俺に向けているのを感じる、なんとかしてあげようということか? 俺はリリーの目をしっかりと見つめながら首を横に振る、するとリリーの視線が今度は勇者のほうへと移った。おい、何を言う気だ、待て待てやめろ!


「あの、勇者さん! よかったら私たちのパーティに入りませんか!?」




 


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