フラグだらけの異世界で
更新滞りまくって申し訳ありません!
許してくださいなんでm(ry
……10秒待って。
いやいやいやなんだこの展開! 確かにラブシーン的なそういう予知はあったけど、でもこんな感じじゃなかったはず。
まさか何の予知も前触れも無しにこんな展開が来るとは。これからはテレパシーの範囲は10メートルくらいに広げておくか……って今そんなこと考えてどうする! とりあえず落ち着け、俺。
あまりにも唐突すぎる告白に、パニックに陥った頭が高速回転と急停止を繰り返す。全身から汗が噴き出して心臓の鼓動が止まらない、いや止まっちゃダメだ。
「イズハさん?」
「ん⁉︎ あ、いやちょっとな……」
「つぎどこ行くかですよ! 二人を預けるあても出来たことですし、ちゃんと計画練らないと!」
……あぁ、『すき』じゃなくて『つぎ』ね。そういうベタなやつか、本当に焦った。一人で勝手に安堵していると、冷静になった頭が一つの疑問を見出す。
よくよく考えてみたらなんで焦る必要があったんだ? 仮に本当に告白されたとしても適当に濁せばいいのに。……恐らく『百合』が関係しているんだろうな。
またいつかの頭痛がやってきた。前回とは違い比較的軽い痛みだがそれでも意識は薄れていく、まるで眠りにつく瞬間をはっきりと体感するように。
◆◆◆
「もうすぐだね、花火」
気づくと俺は百合と2人で切り立った崖の淵に並んで腰掛けていた。崖を見下ろすと屋台が立ち並んで人が行き交っているのが見えた、そして隣にいる百合は浴衣でバッチリ決めている、ということはこれは夏祭りか?
「でも浴衣でこんなとこ座ってたら汚れちゃうよ? 怒られないの?」
「そんなこと言われてももう座っちゃったもんね、それにこうやって花火見てみたかったんだー」
そう言ってりんご飴を頬張りながら朗らかに笑う百合を見ていると、妙に鼓動が早くなる。
「まあいいや、浴衣の汚れはあとでなんとかしてあげるから」
そう言ったのとほぼ同時に、最初の花火が打ち上がった。体全体に響くような轟音に人々が釘付けになる、もちろん隣に座る百合も例外ではない。
次々と色とりどりの花火が夜空を彩る、そしてその様子を百合は花火以上に目を輝かせて見ていた。
一方子供の俺の視界に映るのは花火ではなく、花火に見入る百合の姿のみ。鼓動が高鳴り顔が熱い。
……なるほどな、俺は百合に恋愛感情を抱いていたのか。小学生のくせに我ながらませた奴だ。
幼い自分に多少の呆れとほほえましさを感じていると、百合が突然こちらに向き直った。まぁここまで露骨に見てたらそりゃ気になるか。
「どしたの出葉くん、花火見ないの?」
「え! いやちょっとね」
幼い俺が適当にはぐらかすと、百合はしばらく腑に落ちないような顔をしていたが、まぁいいかと再び花火のほうへ顔を向ける。
ふと、百合が何やら呟いているのに気付いた。絶え間なく花火が打ちあがっている状況で、常人には絶対聞こえないような声、彼女もそれを分かっていて呟いたのだろう。でも常人でない俺は聞き逃さなかった。
「私やっぱり……好きだなぁ」
幼い俺はその『好き』が何を指したものなのか聞かず、テレパシーも使わなかった。このころの俺がいかに誠実なのかよくわかるな、今の俺なら瞬時にテレパシーで探りを入れるところだ。
きっとそれほどまでに百合のことを大切に思っているんだろうな……それなのに何故こんなにも彼女との思い出が頭から抜けてしまっているんだろう、それが妙に引っかかる――
◆◆◆
「あ、イズハさん起きました? 気分どうです?」
百合……じゃなくてリリーか、声まで同じだからぼんやりしていると区別がつかないな。
感覚的に今回の気絶はそんなに時間がたっていないような気がする、そう思い壁掛け時計を確認するとやっぱり気絶した時間から5分ほどしか経っていなかった。気絶の時間が記憶の重要さと関係あったりするんだろうか、でもさっきのはだいぶ重要な記憶だったと思うけどな。
……ていうかこれ、膝枕じゃないか。さっきの記憶と相まってなんだかすごく恥ずかしい、さっさと起き上がらねば。
「ん、大丈夫だ。それよりさっきの話の続きだが……」
すると突然リリーが顔を真っ赤にして立ち上がる。
「ちょ、ちょっと私お外にいる二人を呼び戻してきますね!」
(イズハさんに勢いで『好き』って言っちゃったの何とか『つぎ』で誤魔化したけどやっぱり今考えたら不自然すぎるよね⁉)
……うん、何も聞かなかったことにしよう。リリーは『つぎ』といったわけであって『好き』だなんてこれっぽっちも言ってない、いいね?。
リリーが逃げるように(というか逃げるために)ドアノブに手をかけて動きを止め、くるりとこちらに向き直る。
「ところでイズハさんのその気絶はあれですか? 病気的な奴ですか? だとしたら病院にいったほうがいいと思うんですけど」
ん、そういえばまだリリーには何も話してなかったな、消えた記憶や百合のこと。特に百合のことは言っておかねばなるまい、これだけ瓜二つなんだから何かしら接点や繋がりがあるはずだ。
「実はこの世界に来てからかわからないが、とある友人の記憶だけがきれいに飛んでいるんだ。少しずつ思い出してきてはいるんだが、思い出すときに激しく頭痛がするんだ」
「それで気を失っていたんですか……。ちなみにそのお友達というのは、どんな人なんですか? 覚えてる範囲で大丈夫ですから教えてくれませんか?」
「お前の目と髪を黒くして、髪を伸ばした感じ」
「いや覚えてる範囲とは言いましたけど……もっとちゃんと説明してくださいよ! それじゃあほとんど私じゃないですか!」
そんなこと言われてもなぁ、どこか違うところ違うところ……うん、ないわ。
「いやだってほとんどお前なんだよ、髪と目以外。なんなら声も動きの癖も同じ」
「そんな双子じゃあるまいし……」
そう言いながら呆れたように顔の右側の少し内側に巻いた毛先をつまむようにいじる癖も、百合と全く同じだ。さっきの過去の百合も全く同じことをしていたからな。
「ちなみにその子と最後にあったのはいつなんですか?」
はて、いつだったかな? 最後に見た百合の姿は確か……
「小学六年生……じゃ伝わらないか。11歳頃だ、記憶が正しければ」
「さすがに日付までは覚えてないですよね、ほかに覚えていることは?」
他は……だめだ、また頭が痛くなってきた。今度はさっきのとは違う、以前モディロニアで気を失ったときと同じレベルの痛みだ。気絶とまではいかないが脂汗がにじむ程度に気分が悪い。
「すまん、少し横になる」
床から立ち上がりふらつく体をリリーに支えてもらい、ベッドに横になる。
「イズハさんも無敵ってわけじゃないんですね」
「当たり前だ、まぁここまで弱るのは久々だけどな」
「久々ってことは以前もこういったことはあったんですか?」
こいつめっちゃ聞いてくるな……頭痛いんだが。
「あぁ、というか周期的にあるんだ」
「周期的に、ですか? それって旅の途中とかでなるとちょっとまずいんじゃ……」
「まぁ力の使用が不自由になるだけで、身体能力がどうこうなるわけでもないから大丈夫だろう。……というかもう寝かせてくれないか?」
「あ、すみませんっ! じゃあ私はリズちゃんピコちゃんを呼び戻してきますから、ゆっくり休んでてくださいね!」
リリーが部屋を出てようやく静寂が訪れた部屋で、ふと嫌な予感が頭をよぎる。
戦闘の要ポジションが弱っているときに限って強敵が現れたりするものだが、大丈夫なのか? この世界は何というか、『異世界あるある』や『お約束』がそこかしこに散らばっている気がしてならないんだが。
まぁ考えすぎだろう、そう思って布団に潜り込むことこそが最大のフラグであることに気が付くのは、俺が目覚めた後のことだった。
次回!リリー死す!
……なんてことはないです