表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/39

訳あり少女はキツネ耳③

キツネ耳編終了です。

 クラーケンをボルトキネシスで感電死させ、倒したはいいのだが……。

 戻りづらい、とても戻りづらい。なんで千里眼で向こうの様子覗き見しちゃったろ、でなんで向こうも恋バナしてんだろ。

 いや別にリリーのことは嫌いじゃない、というか嫌いじゃないからこそ戻りづらい。

 ……仕方ない。先に盗賊たち締め上げに行くか、その頃には気持ちもだいぶ落ち着くだろう。



 ***



 有名な盗賊団というだけあって、人に聞いて回ったら割とすぐにアジトと思わしき巨大なお屋敷の廃墟が見つかった。

 早速潜入していきたいところが、盗賊のリーダー的なやつが曲者らしいから気をつけて動かないとな。

 透明化しようかと思ったが、相手が相当な実力者だった場合を考慮して別の方法【変身】でいこう。

 変身は透明化と少し異なり発動中も超能力が使える、しかし問題は何に変身するかだ。

 リズの妹を救出するにあたってここの連中に変身するのはまずいだろう、妹にも盗賊にも警戒されず潜入するには……こいつでいいか。






「は〜ぁ、見張りとかだるくてやってらんねぇよ……。ボスがあんななのに誰が来るってんだ」


 ガサッ


「ん、誰だ? そこに隠れてんのは」

「ニャー」

「なんだ猫か……脅かすなよ」


 そう、我輩は猫である。名前はイズハ。……ちょっと言ってみたかっただけだ、特に意味はない。

 そこら辺にいた野良猫の姿を借りたのだが……変身の方法? ノーコメントで。

 とりあえず今ので盗賊たちに警戒されないことも証明できたし、さっさと救出してしまおう。


 

 アジトをうろちょろすること5分。


 うーむ、外から見ても屋敷という表現がしっくりくる大きさだったが、中に入るとさらに広いな。まぁ体が猫だからというのもあるが。これじゃあ闇雲に探し回ってもキリがないな、とりあえず近くの盗賊に聞くことにしよう。

 そう思い廊下でごろごろしているとタイミングよく二人組の盗賊が歩いてきた・

「なぁ、なんで俺たち盗賊なんてやってんだっけ?」

「俺は食っていくためだぞ」

 いや普通に働けよ、どういう思考回路してるんだ。まぁいい、テレパシーでさりげなく聞いてみるか。


(女の子……人質……場所……)


「ん? 何か言ったか?」

(女の子? あの檻に閉じ込めてるあいつか?)

「は? お前こそなんだよ急に女の子って」

(そういえば檻ってどこだっけ、確かボスの部屋の奥の方に……)

 なるほど、結局はボス部屋に行かないといけないわけか。面倒だな全く。

「あ、猫だ」

「かわいいな、煮干しいるか?」

 いらん、と言いたいところだが猫の本能が欲しがっている、仕方ないからもらっておくか。


 廃墟の中央に位置する一際大きな入り口の部屋に入ると、椅子にふんぞりかえるように堂々と腰掛けたおっさんがいた。

「あ〜暇だな〜。お金もあるし食い物もあるし、また女ども呼んで裸踊りでもさせるか……」

 こいつがボスか。そんな大した奴には見えないが、見た目で判断して痛い目に……なんていうよくある展開に気をつけないとな。


「ニャー」

「あん? なんだ猫か……おい、煮干しいるか?」


 いやここの連中猫に優しすぎだろ、ボス部屋にくるまでに3回は煮干し貰ったぞ。

 しかしここがボス部屋か。なんだかお城の謁見の間を狭くしたような感じだな、やや広めの部屋の奥の大きめの椅子にボスが鎮座する形になっている。

 しかしボス部屋の奥には部屋らしきものは見当たらないな。周囲を見渡しながら透視を発動すると、椅子の下に隠し通路を見つけた。

 これは透視がないと見つけるのは厳しいだろう。俺は猫らしく地面で爪研ぎするフリをしながら更に透視を続ける、すると牢屋らしきものが見えてきた。

 ボスの視線が他を向いた瞬間にテレポートで牢屋まで飛び、いくつか並んだ牢屋をチェックしていくと、一人の幼女を見つけた。


 いつか出てくるとは思っていたがやっぱり出た、幼女(ロリ)。もう「なろう」の鉄板ネタだな。


 ……話が逸れたが、どうやら少女は衰弱しきっているわけでもなさそうだ。ただすることがなくボンヤリと天井を眺めている、と思ったら目があった。


「ねこちゃーん、おいでおいで、にゃーにゃー」

 彼女が俺の気を惹こうと手を虫のようにカサカサ動かす。おいおい勘弁してくれ、猫の本能で勝手に体が反応してしまう、変身にはこういうデメリットがあるのが嫌だ。

 揺れる尻と開ききった瞳孔をなんとか理性で抑え、彼女に近づき、テレパシーで呼びかける。


(お前がリズの妹か?)

「ふぇっ⁉︎ だれ⁉︎」

(ここだここ、目の前にいる猫だ)

「ねこちゃん⁉︎ ……へんなこえ!」

(悪かったな、それよりお前がリズの妹なのか?)

「うん! ピコのおねーちゃんだよ!」

(ならよし。さっさとここを出るぞ、姉ちゃんに会わせてやる)

「うん! ……でもあしたじゃダメ? きょうのごはんはおにくなの」

(張り倒すぞ、バカ言ってないでさっさと帰るぞ)


 ***


「イズハさん遅いですね……。まさかクラーケンにやられてたり……はないか」

「ひょっとして道に迷ったんじゃない? なんせ海の上だし」


「おねーちゃん! ただいま!」

「は⁉︎ 嘘、ピコ⁉︎ どうやってここに?」

「えっとね、ねこちゃんがね、ビュンって!」

「そ、そう。……良かった、本当に良かった……」


 最初は呆気に取られていたリズだが、やがて絞り出すようにそう言って、ポロポロと大粒の涙を零してピコを抱きしめた。

 やはりどれだけ擦れた態度をとっていても、まだ少女なのだ。今まで耐えた分反動も大きいだろう。

 見るとリリーも涙を流している……むむ、なんだかこの表情も見たことがあるな。今頭痛に見舞われちゃ敵わない、何か別のことを……素数でも数えるか。2、3、5、7……


「ところでイズハさんは何処へ? まさかピコちゃんだけ戻ってくるなんてないでしょうし」

「ニャー」

(下だ下、こっちみろ)

「え? ……えぇっ⁉︎ イズハさん⁉︎ なんだか随分可愛らしくなっちゃって……」

(待ってろ、今変身を解除するから)


 元に戻るように念じると、可愛らしい猫からたちまち全裸の青年に……あ、服。


「本当にありが……っ! キャーーー!」

「ねこちゃんがへんたいになった!」

「……イズハ・フシダラさん再来ですか」

(イズハさんへの想い、少し冷静に考え直しますかね)

「違う、誤解だ! ……あぁもう!」


 


 ――とまぁなんだかんだの救出劇から五日、俺とリリーは未だにブルニオから出られずにいた、というのも……

「イズハ、ピコが遊びたいって」

「あそぼう! おにいちゃん!」

「ハイハイまた後でな、それとリズ、呼び捨てやめろ」

「えー⁉︎ あそぼあそぼあそぼーっ!」


 ……どうしてこうなった? 確か俺は異世界のあちこちを見て回るために旅に出たはずだよな、なんで子守なんてやってんだ?


「イズハさんっ! ちょっとイズハさんってば!」

「なんだ騒がしい……。ベビーシッターでも雇ってきたか?」

「違いますよ! これ見てください!」

 そう言われてリリーが差し出す紙を見る、どうやらこの世界の新聞的なものらしい。

 見出しには大きく

『衝撃! マッド・サンクチュアリ壊滅⁉︎』

 と書いてあり、中央にはアジトがあったであろう場所が巨大なクレーターのようになっている写真が載せられていた。

「これイズハさんですよね?」

「……バレたか」

「そりゃバレますよ、で何したんですか」

「妹を助けてもその後が不安だからな、芽が出る前に消し飛ばした」

 ああいうのはやけに復讐とかに燃えたりするからな、所詮相手じゃ無いが面倒だ。


「はぁ……。まぁ今回は相手が相手ですからまぁいいですけど、子供を脅すような輩ですし」

「意外だな、お前の性格的に『悪い人でも殺しちゃダメです!』って言うかと思ったが」

 そう言うと、リリーがピコに向けていた視線をこちらに向けなおした。


「それは相手に酌量の余地があればの話です。あの人達は今まで何十人と命を奪ってきたんですよ? そんな人たちを野放しにする方が危険です」

 それに捕まえたとしても死刑だと思いますし、彼女はそう言い残してリズとピコを連れて遊びに行ってしまった。


 ……さて、うるさいのがいなくなったところで、今後の旅の計画でも練るとしよう。

 メモ用紙代わりに広げた新聞の裏面の前に胡座をかいて、この世界でやりたいことや気になることをひたすら書き殴る。

 まずは悪魔の王とやらに会ってみたい、現時点で方向は悪魔に貰ったメモで把握しているが、未だに行っていないからな。

 飛べばすぐにでも会えるが、こういうのはやっぱり旅の途中の寄り道として取っておきたいんだ。

 そろそろ船に乗りたい、人生初の船が帆船だなんてなかなか贅沢じゃないか?

 船で渡った先にある国は【デラッカ王国】、工業が盛んで鍛治や蒸気機関に携わる者からすれば聖地と呼ぶべき国、とリリーから聞いているが行けるのはいつの日か。

 工業の中心となれば人口も跳ね上がることだろう、となればますますリズとピコを連れて行くのは難しいな。

 なんとかしてあいつらを引き受けてくれる奴を探さねば、出来るだけ頼もしい奴がいいな……あ。


 ***


「で、我のところに頼みに来たと」

「断っても押し付ける覚悟で来たからな、悪いが黙って受け入れてくれ」


 うん、クリムならドラゴンだし人生経験豊富そうだしなんとかなるだろう。


「あのなぁ、我ドラゴン! ヒトの世話とか何も知らんし、ましてや子供とかそんな繊細なもんをドラゴンに預けるとはいったいどういう了見だ⁉︎」

「……なんかお前威厳無くなってない? そんな騒ぐタイプだったっけ」

「騒ぐわ! 家の番押し付けられて今度は子守⁉︎ 番犬の次はシッターか! 我は偉大なる七龍の一員、レッドドラゴンだぞ! 少しは……?」


 あぁうるさい。黙らせようと手をかざした瞬間、クリムがピタリと大人しくなった。

 こちらの意思を読み取って黙ったのかと思いきや、どうやら別の何かを察知したらしい。


「……何か来る、とてつもなく邪悪な何かが。主、戦えるか?」

「いやお前が行けよ、俺は戻る」

「無理だ。この気配は間違いなく我より強い、子守は引き受けたからな、そいつの相手は任せたぞ」

 おいおい、子守を頼んですぐ戻る予定だったのに、どうして俺が立てた予定はこうも上手く進まないんだろう……。


 ***


「あ、イズハさんおかえりなさい! どこに行ってたんですか?」

「リズとピコの世話してくれる奴を探してた、クリムが引き受けてくれるそうだ」

「……また力尽くじゃないでしょうね」

「そのつもりだったけどな、色々あって引き受けてくれることになった」

「色々? 何かあったんですか?」

「モディロニアに悪魔の王が来たからクリムの代わりに戦った」

 悪魔の王……苦しい戦いだった、と言ってやりたいところだが、ぶっちゃけ大したことなかったな。

「悪魔の王⁉︎ ……もーダメですよイズハさん! むやみに伝説作ったらみんなが混乱しちゃいますから!」

 あぁ、リリーもすっかり俺がすることに慣れてしまったか、リアクションが薄い。

「心配ない、どうせ王国は大パニックになってたから誰も俺のことなんか見てなかった」

 ブルニオの悪魔と大体同じだったしな。エネルギー弾をバリアで防いで悪魔の王を遠隔で引きちぎった、たしか5分足らずで終わった気がする。

「じゃあとりあえず明日リズちゃんとピコちゃんをクリムさんに預けて、旅を再開しましょうか」

「そういえば二人はどこ行ったんだ、まさかまた逃げたか?」

「二人はまだ遊んでますよ、お友達が出来たみたいですし」

(イズハさんと久しぶりに二人きり……どうしよう、何話そうかな……)

 うわっ不意打ちラブコメだ……どうしよう、どうやり過ごそうかな……。

 ……というかラブコメで思い出したがいつか見たキスする予知夢はいつになったら実現するんだ? いや別にしたいわけじゃないけど。でも早く実現してくれないと困る。

 何故困るかというと、一度予知夢を見たらその予知夢が実行されるまで次の予知夢が見えないからだ。

 見えたところで回避はできないが、それでも事前に分かっていた方が精神的にはいくらかマシだ。


「……イズハさんっ!」

「ん? どうし「すきです!」



 ……はい?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ