訳あり少女はキツネ耳①
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〜リリーside〜
「ここがブルニオのギルドで〜す、仕様はどこも変わらないので説明は省きますが!」
今私たちはキツネ耳の少女【リズちゃん】の案内を受けて色々なところを回っているのですが……にわかに信じられませんね、彼女が盗賊の一味だなんて!
◆◆◆
「では案内しますので、小さいからって見失わないようにしっかりついてきてくださいね!」
「はーい! 行きましょうイズハさん……イズハさん?」
(おいリリー、聞こえてるか?)
(な、なんですか?)
(落ち着いて聞けよ? あいつは盗賊だ、どうやら俺たちを誘い込んで身ぐるみ引っぺがすつもりらしい)
「……っ⁉︎」
(ま、マジですか⁉︎ なんで言ってくれなかったんですか!)
(あいつにも少し事情があるようだからな、何もなければその場で消し炭にするつもりだったが)
(それもダメですよ! ……それで事情というのは?)
(なにか妹関連で色々あるらしいが……詳しくはわからん、だからしばらく泳がせる)
◆◆◆
……というわけで今に至るわけです、怪しい人に連れ回される……なんかデジャヴ。
「……以上で案内は終了です! が、よかったらオススメのお店があるんですが、どうでしょう?」
「そうだな……金も余裕があるし、いくか?」
「あ、ハイ! お任せします」
そうしてリズちゃんに連れられて人気の無い路地の奥へ奥へと……行き着いた先は古びた一軒家。
待ち受けるはスカーフで口元を隠した盗賊たち、人数は10人程度でしょうか。
とりあえずちらりとイズハさんの様子を伺ってみますが……完全に目が据わってますね。
こうなったイズハさんを前に出すのは火に爆弾を近づけるようなもの、ちょっと怖いけど私が前に出るほかないでしょう。
「なんのつもりですか、リズちゃん」
「さぁ? 私は何も知らない、まぁ運が悪かったと思って諦めてよ」
そう言ってリズちゃんが盗賊のリーダー格っぽい人のところに駆けていく。
さっきまでの純粋な笑顔はどこへやら、出会った頃のイズハさんくらい表情が死んでます。……イズハさんが私を睨んでますが、事実だからしょうがない。
「そういうこった、悪いが黙って有り金全部寄越してもらおうか」
「……嫌っです」
堂々と言い放ったつもりが、盗賊の強面に思わず声が上ずる。
それを聞いて盗賊たちは大笑い、でもイズハさんは背中を軽く叩いて「よく言った」と言ってくれる。
……イズハさんなりの優しさなんでしょうけど、ちょっとこういうのはずるいと思います。
……意識しちゃうじゃないですか。
「おい女、そんな震えながら言われても困るな。断られちゃ俺たちも力に頼るしかないんだよ」
不意に横からガツンと鉄塊を殴ったような音が部屋に響き、見るとイズハさんの脳天に棍棒が!
「イズハさん⁉︎ 頭大丈夫ですか⁉︎ 頭ヤバイですよ⁉︎」
……しかし私の心配をよそに殴られたであろうイズハさんは溜息を一つ、何事もなかったような涼しい顔をしている始末。
「その言い方やめろ、こんなものマッサージにもならん」
そう言って盗賊の手から奪った棍棒に頭突きを一発、するとさっきまで棍棒だったものはたちまち破片に早変わり! ……そういえば防御力も尋常じゃないんでした。
流石と思ってイズハさんの顔を見ると、眉間にしわを寄せています。
イズハさんがこの顔をするときは何かわからないことがあった時、イコール解説待ちの顔、イコール私の出番!
「なぁ、こいつどうやって音も無く近づいてきたんだ? テレパシーの範囲を広げてたから気づいたが」
来た! えっと確かその情報は【天職のススメ 第三巻の十二ページ目】に載っていたはず!
頭の中で本棚をひっくり返して、ページをパラパラめくって10、11……これだ!
「彼らの天職が多分【盗賊】なんでしょう。盗賊のアクティブスキルに【隠密】というスキルがあって、相手に気づかれにくくなるんです」
「なるほど、そういう手口か。流石リリー」
「フフン、まー当然ですよ!」
よし! この世界でイズハさんに流石と言われる存在なんて私だけでしょうねぇ、えへへ……。
なんていらんことを考えている間に、盗賊たちが私たちをぐるりと取り囲む。
「中々やるみてぇだが...この人数相手にどうしようってんだ? 今のうちに渡した方が身のためだと思うがな」
「それはこっちの台詞だ、今土下座したら半殺しで済ませてやるがどうだ?」
イズハさんのあからさまな挑発に殺気立つ盗賊たち、単純な人たちですね……私が言えたことじゃないですけど。
「舐めんな!」
無謀にもイズハさんめがけて突っ込んできた男、右手にしっかりナイフを持ってイズハさんに突き立てる!
しかしその瞬間、電撃のような閃光が走ったかと思うと、盗賊は弾けるように吹き飛んで壁に叩きつけられました。
「土下座なしか、じゃあ遠慮なくやらせてもらう」
(リリー、俺がここを荒らしてるうちにリズを連れてここを出ろ)
イズハさんはテレパシーでそう告げて、周囲のガラクタや盗賊たちを派手に吹っ飛ばし始めました。
私は慌てふためく盗賊たちの目を盗み、部屋の隅で小さくなっているリズちゃんの手を取り、半ば強引に外に連れ出します。
おっと、逃げ出す前に一言。
(くれぐれも被害は室内までに収めてくださいね!)
聞こえているか分かりませんが、頭の中で呼びかけてみると
(加減しろと? 酷なこと言うな全く)
と返事が返ってきました、とりあえず後のことはイズハさんに任せてここを離れないと!
「ちょっと痛いってば! 離してよ!」
「そうだね、これだけ離れたらいいかな」
走るのを止めた瞬間手を振りほどかれ、そして胸ぐらを掴まれました。しかしその目には涙が浮かんでいます。
「なんで余計なことするのよ! 私の妹がっ……妹が……」
そう言って泣き出すリズちゃんを宥めながら、イズハさんの言っていた「とある事情」を聞くことにしました。
「あいつらに妹が人質に取られてるの、言うこと聞かなかったら殺すって……私のたった一人の家族だから……」
なるほど……そんな事情があったんですね、根っからの悪人じゃなくてよかったです。にしても許せませんね、こんな女の子を悪事に利用するなんて!
……なんて憤りを覚えるも私にはどうしようもないので、イズハさんが戻ってくるまでリズちゃんの話相手でもしていましょう。
***
さて、リリーとリズはちゃんと逃げられたようだし、後はこの盗賊たちをミンチにするだけか。
「ま、待て! 俺の背後に誰がついてるのか分かってんのか!?」
うわ、言うと思った。追い詰められた悪役がいうセリフベスト5とかに絶対入ってるよなその台詞。
「知ってる、もう既にお前たちの心から聞かせてもらった」
そう言い放ち、最後の仕上げにかかる。まるで自分が被害者だと言わんばかりに震える盗賊を見ていると無性に腹が立った。
前の世界でもいたな、向こうから仕掛けてきたくせにちょっとやり返したら被害者面する奴、一体何様のつもりだ。
「頼む! 命だけは助けてくれ!」
「なんだそれ、命だけ残して全て奪えってことか? つまり生きてさえいれば骨を折って皮を剥いで眼球くり抜いて睾丸潰してもいいってことだな?」
淡々と述べると、盗賊たちが更に激しく身震いをする。
「ひぃっ! あんたそれでも人間かよ!」
「人間じゃなくて結構、所詮俺は化け物だ」
盗賊たちの不快極まりない命乞いや罵声をかき消すように炎で包み込む、恐怖や怒りのこもった叫びが一瞬にして意味のない断末魔の絶叫に変わる。
……人を殺すことへの抵抗? 全くない、というか慣れた。
***
「あ! イズハさん、おかえりなさい! 大丈夫でしたか?」
「ん、とりあえず全部消してきた。ところでリズはどこいった?」
リリーに聞くと、奥に見える屋台の立ち並ぶ通りの人混みを指差し、恐る恐る尋ねてきた。
「お腹が空いていたみたいなので、いくらかお小遣いを渡して好きなもの買ってきていいよって言ったんです、ひょっとしてダメでしたか?」
「いや構わんが……付き添いは?」
いくらリリーがポンコツでもあの人混みに子供一人で突っ込ませたらやばいくらい分かるだろう、しかしリリーが首を振った。
「付き添おうとしたら突っぱねられちゃって……そのままあの中に」
おいおい何考えてるんだあの小娘は,さっきまで盗賊に脅されてたくせになんとも強かなものだな。
とりあえず近くの椅子に腰を据えて彼女の帰りを待っている間に、それぞれ入手した情報を共有しておくか。
「盗賊どもからあいつの事情はあらかた把握した、どうやら妹が人質にされてるらしい」
「あ、もうリズちゃんから聞きました。しかも本拠地が海の向こうにあるんだとか、どうしましょうか」
「元より海は渡る予定だったし、旅のついでにサクッとやってしまうか」
「ついでが大きすぎませんかね、相手は世界中に名を馳せる盗賊団【マッド・サンクチュアリ】ですよ?」
【マッド・サンクチュアリ】……うーんイタイな、作者も書いてて恥ずかしかったろうに、なんで自ら火傷しにいくんだろう。ひょっとしてマゾなの?
「最初の頃は大して脅威でもないよくいる盗賊団という認識でしたが、ある日を境に急に力をつけた盗賊団【マッド・サンクチュアリ】……王国兵士や聖騎士団ですら歯が立たないその力には、新しい頭領の力が深く関係しているんじゃないかと言う声もちらほら……」
「まぁいずれ戦う悪魔の王に比べたらまだマシだろう」
「そりゃあ……ちょっと待ってください、悪魔の王と戦うつもりなんですか⁉︎ 聞いてないんですけど!」
おっと口が滑った。まぁバレても問題は無いけど、リリーは心配性だからあまりこういうことは言いたくなかったんだ。
「すまん、あんまり心配かけるのも少し気が引けてな」
リリーが深い溜息をつき、項垂れる。そしてその姿勢のまま、話し始めた。
「イズハさんが誰と戦おうが心配はしてませんよ別に、イズハさん強さが桁外れだってことは重々承知してます……でも!」
俯きがちに話し出したリリーがキッとこっちに向き直る、その怒りに燃えた目に思わずたじろいだ。
「そういう大事なことはちゃんと言ってください! 私が頼りないのは分かってます、それでもやっぱり仲間じゃないですか! 万が一が無くても億万が一があったらどうするんですか!」
「分かったから少し落ち着け、悪かったよ」
周りの視線と心の声が俺たちに集中している、違う違う! カップルじゃないし修羅場でもない!
「よし、これからは俺はお前に隠し事はしないしお前も俺に隠し事はしない、これでいいか?」
渋々といった様子でリリーが頷く、落ち着いたところでさっきから気になっていたことを聞くか。
「リズを離したのはいつ頃だ?」
「えーっと……多分今から二十分くらい前です、どこまで買いにいったんですかね?」
……リリー、それは普通「逃げた」と言うんだよ。