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イズハとイズハ

 旅支度と知り合いへの挨拶に城下町のあちこちを歩き回り、気づけばもう日も傾いていた、しかし何故か印象的なギルドのあいつらがどこにも見当たらない。


「どこ行っちゃったんですかね、アンジュさんとナターシャさん、急に受付の仕事を辞めちゃったなんて……」

 まぁ俺は知ってるけどな、さっき千里眼で確認したら、裏の仕事の真っ最中だった。

 あいつらも仕事柄同じ場所にずっと留まっている訳にもいかないだろう、流石に他人の頚動脈を掻っ切っている最中に挨拶するのもアレなので、リリーには俺がテレパシーで伝えると誤魔化しておいた。


 聖騎士団と三勇者たちには別れの挨拶はしていない、あいつらの立場上いつ出会うか分からんし、そもそもそんなに親しくなった覚えがない。

 ただヴェルデにだけはテレポートでこっそり会いに行かせた、正直俺はどうでもよかったんだがリリーにきっちり頭を下げられてはとても断れない、というかどうも俺はリリーに対して甘い気がする。

 俺がリリーを信頼しているからか、それともリリーと百合が似ているからか?


 ……というか今さら気づいたが俺の記憶の百合の顔と今目の前にいるリリーの顔があまりにも似ている、何故最初出会った時に気づかなかったんだろう?


 おっと話が逸れてしまった、まぁ色々あって旅支度を済ませ、フィオナがわざと見せつけてくる乳を強めにつねり、帰宅した。


 今夜はリリーも布団を敷いて、二人横並びで寝ることになった。

「明日の朝七時に出発、ですね」

「あぁ、楽しみか?」

「楽しみで、ちょっと怖くて、でも楽しみです」


 それにしても百合の顔とリリーの顔、やっぱり似ている、まさかリリーの正体は転生した百合……?


 いや流石にそれはないか、大体そうだったら百合だって俺に気付くはずだし、そもそも百合は死んでいないはずだ、まぁしばらく会ってないから分からないけど……


 あれ? なんで会ってないんだっけ、何か理由があった気がする……。ダメだ、前の世界のことを思い出そうとすると頭が痛くなってきた、大人しく寝よう。




 ***




 目を開けると、俺は洞窟にいた。

 周囲の確認をしようと起き上がると、目の前にいたのは……俺?

 ……予知夢ではないな、ただの夢か? しかしそれにしてはリアルな気がするな。


「そりゃそうだ、リアルだからな。少し用事があってな、ここに呼び出させてもらった」

 奴が話しかけてきた、声や喋り方まで俺と一緒で正直気味が悪い。

「用事があるのは構わない、だが台詞の区別を付けないとどっちが喋っているのか分からなくないか?」

『おっと、じゃあこれでいいか? さっさと本題に入らないと時間がないんだよ』


 この会話の間に俺はいつも通りテレパシーで相手の考えを読もうと試みる、がなぜか目の前の俺の声がまるっきり聞こえない。

 少し驚いてもう一人の俺を見る、しかしテレパシーが通じないのはどうやら向こうも同じらしい。


『なるほど、どうやら互いに心を読むことができないみたいだな』

「あぁ、でも表情で何が言いたいのかは大体分かるな、お互いに」

『当たり前だろ自分の顔なんだから……。さて、無駄話はこれくらいにして本題に入るが、ずばり元の世界に帰る気はないか?』

 ……は? なにを訳の分からんことを言ってるんだこいつは、いや俺は、いやこいつか。


「同じ俺なら分かるだろう、あんな世界に帰ると思うか?」


 そういうともう一人の俺は額に手を当て深く溜息を吐き、そうだよな……と呟いた。

『まぁ分からんでもない、というかその気持ちはよく分かる、でもこの世界はお前がいるべきじゃないんだ』

「いるべきじゃない? お前は何様だ、俺が今までどんなに苦しい思いをしてきたか分かるだろう、もううんざりなんだ、あの世界は」

『だからと言ってこの世界でも幸せになれる保証はないし、元の世界の常識も通用しないぞ? それでもいいのか?……そうか分かった』

 俺が何か言う前に表情で察したらしく、お手上げのジャスチャーをしてみせた。

 だが奴のその目はとても俺が諦めた時の目ではない、どちらかというと強硬手段に出る時の……

 ふと嫌な感じがしてバリアを張ると、奴のかざした手から強烈な衝撃波が放たれた。


 魔法の壁は超能力で突破できるが超能力の壁は超能力では突破できない、しかし奴は俺と負けず劣らずの出力でバリアを攻撃する、すると段々バリアに歪みが生じてきて、急いで俺はテレポートで空に回避した。


 ――しかしそれを読んでいたかのように奴は俺の背後にテレポートで移動していた。

 何故だ? お互い心は読めないはず……そうか予知か! 気付くと同時に強烈なかかと落としが俺の脳天に炸裂する、痛い!

 地面に勢いよく叩きつけられた、初めて感じる強烈な痛みに思わず表情を歪める、能力まで俺と同格だなんて冗談じゃない。

 


「これ、さては夢じゃないな、夢でこんな痛みがあってたまるか」

『あぁ、お前が眠って超能力の抵抗が少なくなった隙にこの空間に呼びこんだんだ、悪いがお前の望みを叶えるわけにはいかない』


 クソ、奴の意図が全く分からない、ここまで痛い思いをしたのは生まれて初めてだ、無性にムカつく。

 ……落ち着け俺、今のはただちょっと不覚を取っただけだ、本気でやれば勝てない相手じゃない。


 奴がテレポートで俺の背後に回りこむ、しかし予知でそれが分かっていた俺は背後にノールックでサイコキネシスを発動し、奴を思い切り地面に叩きつける。

 何故こんなにあっさり成功したのかというと、実は予知には抜け穴があるのだ。


 予知は予知夢とは違い、未来を変えることができる。一度の予知で見れるのは発動から1分以内の未来で、連続使用には5秒のインターバルが必要。

 つまり相手が予知を発動した後の5秒間で、未来を変えればいい話なのだ。

 予知を発動したかどうかは奴の表情を見れば分かる、なんせ相手は俺自身なんだ。

 ……まぁ多分奴もそのことを思い出したみたいだし、ここからは互いに予知無しの真っ向勝負になりそうだな。俺も奴も、同時に拳を握りしめた。


 ***


 そこからはかなり激しい攻防が続いた。

 奴が俺に向けて衝撃波を放つが、俺も同じく衝撃波を放ち相殺する、すると俺の体が突如激しく燃え上がる、がクリオキネシスで氷を生み出し消化する、と今度はテレポートで俺の頭の上に移動してかかと落としを繰り出してくる、がすかさずサマーソルトキックで迎撃……ちょっと待て。


「なぁ、これ勝負つかなくないか?」

『だな、俺も薄々そう思ってたところだ』

 体力も攻撃力も防御力も同じ、使える超能力も対処方法も考え方も同じ、となれば当然そうなるに決まってる。

 ……だがよく見ると、奴の方が若干疲れてないか? 傷も俺の方は軽い擦り傷程度だが、奴はあちこちに打撲痕が残っている。

「このまま続ければジリ貧だが俺が勝ちそうだな、やっぱり続けるか?」

『そりゃお前は……いやなんでもない、それよりそろそろ俺が限界だ、帰らせてもらう』


 そう言うが早いか奴の姿が消えた、千里眼で行き先を確認しようとするがなぜか見当たらず、大きな謎を残したまま奴はどこかに行ってしまった。

 仕方ないので洞窟を出ると、日をまたいではいるがまだ夜中だった。

 色々考えたいが眠くてしょうがない、眠い目を擦りながら俺は布団にテレポートした。

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