表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/39

リリーの受難

今回はリリー視点です

 〜リリーside〜



 個性強めな聖騎士団さんたちと別れた後、イズハさんは「ちょっと野暮用がある」といってどこかに行っちゃって、仕方ないから一人で薬草採集の依頼を受けました。

 一応寝泊りをお城のお部屋でしてくれればいいとのお達しだったので他の勇者さんたちも依頼をこなしに行ってしまったようです。


 ギルドの前で一度大きく深呼吸をして、逸る気持ちを抑える。

 前まではレベルの低さゆえに戦闘能力皆無で、一人ではろくに冒険なんてできなかったけど、今や私はレベル29ですから!

 しかもイズハさんが持たせてくれたこの真っ赤な竜の契約石のお陰で(ところで何と契約したんですかね?)、ゴブリン程度なら一人で追い払えるようになりました!


  それに私いつも思うんです、いくらなんでもイズハさんに頼りすぎなんじゃないかって。

 実は以前、イズハさんがこの世界に住むと決めた理由を聞いたことがあるんです。そしたら元いた世界では力を狙われたり利用しようと企む人たちがいっぱいいたから面倒になったんだそうです。

 それを聞いたときひどい人たちもいるもんだと思うと同時に、ひょっとしたら私もイズハさんにそういう風に見られてるかもって思ったわけです。

 なので今回はイズハさんに頼らずとも、私一人でも大丈夫ってところを見せるために依頼を完璧にこなすつもりです!


「依頼受けに来ました! ア……ローラさん!」

 おっと危ない、今の言い直しはセーフ? ちらりと様子をを窺うと、アンジュさんの袖からナイフの先端らしきものが……。

「リリーはほんと危なっかしいな、アタシもアンタを手にかけるの気が引けるからさ、気をつけてよ」

 ひぇぇ……ゴブリン程度なら大丈夫でも暗殺者相手は無理! アンジュさんが出しかけたナイフを袖の奥にしまい込んだのを確認して冷や汗を拭っていると、アンジュさんがいつもの調子で話し始めました。

「あれ? 今日イズハは一緒じゃないんだ、じゃあ簡単なやつにしないとね」

「いつもランクに見合ったやつにしてください!」

 抗議したらはいはいと流されちゃいました、シンシアさん呼んじゃおうかな。

「アンタはランクより低いやつにしとかないとね、これなんかどうよ」


 なになに……

 コショウタケ採取:推奨ランクD:銅貨10枚


「分かりました! 私が引き受けます!」

「張り切ってんなぁ、そんなにイズハといるのが嫌だったか」

「へ!? いやそういうわけじゃ……むしろ一緒に居たいっていうか……じゃなくてその……」

「分かってる分かってる、お前はイズハにゾッコンだもんな、一目瞭然」

「そ、そんなんじゃ……ない、かもです」

「あーはいはい乙女乙女、さっさと行けよ恋する乙女さん、愛しのダーリンのために頑張ってこい」

「っ……! ローラさんのバカー!」


 もー! アンジュさんはいっつも意地悪です! 何が愛しのダーリンですか! 流石にそこまで考えたことないです!

 ……でももし、もしもですよ? 私とイズハさんが一緒になるようなことがあったら……多分イズハさんの性格的にそんな呼びかたしたら鼻で笑われるでしょうけど、呼んでみたりしてもいいのかなって……あーもう! アンジュさんが余計なこと言うからまた変なこと考えちゃった!


「よう嬢ちゃん、一人かい?」


 頭に浮かんだ幻想を振り払うように勢いよく振り向くと、立っていたのは知らない男の人。誰でしょう、イズハさんの知り合いかな? 笑顔が似合う、見た感じいい人そうですね

「はい、そうですけど……どちら様で?」

「アンタいっつも黒髪の死んだ目した兄ちゃんと一緒にいるだろ、そいつはどうしたんだ?」

 黒髪で死んだ目、イズハさんですね。

「今どこかに行ってて……イズハさんに何か用でしたら、私でよければ伝えておきますけど」

「あー……いや嬢ちゃんでいいや、ちょっと頼みたいことがあってよ、来てくんねぇか?」


 おや珍しい、私に頼み事ですか。


「いいですけど……私なんかでお役に立てますかね」

「いやいやむしろ嬢ちゃん一人の方が助けるぜ、こっちだこっち」


 そうして招かれるままどんどん路地裏に……あれ、行き止まり? 周りには人の気配もないし、ひょっとして騙された⁉


「……あの、私戻りますね」


 そういった途端、さっきまで気の良さそうな笑顔がみるみるうちに不気味な笑みに。どうしよう……


「何でだ? 俺はお嬢ちゃんに頼みがあってここまで連れてきたのに」

「や、やっぱり私じゃ力不足でしょうし……」

「心配すんな、お前さんはただじっとされるがままにされてりゃいいんだ」


 されるがまま? それってまさか……なんで気づかないの私のバカ! いや落ち着いて冷静に……相手は一人、


「……こんなとこで何しようってんですか」

「大丈夫、ここじゃ何もしねぇよ、ここじゃな」


 そう言われた直後、頭に何か被せられました。いや女相手に二人がかりって! 

 急に視界が遮られたのと息苦しさでもがいていると、何か揉めている声が聞こえました。


「おい、早く眠らせろよ! まだ暴れてんぞ!」

「やってるよ! “ラジ=スリープ”!“ラジ=スリープ”! あれ、おかしいな……」

「もういい! 俺がやる!」


 力づくで地面に組み伏せられて首を押さえつけられたと思ったら、ガツンと頭に衝撃。薄れゆく意識の中、ひたすら自分の軽率さを呪いました。




 気がついたのは荷馬車の中、手枷が重いし多分殴られたであろう頭が未だに痛い……

 どうやら私は誘拐されているようです、他にも二人の女の子がいますね、一人は寝ていますからもう一人のうずくまっている女の子に声をかけてみましょう。


「あのー、大丈夫ですか?」


 女の子が怒った顔で私に言いました。


「大丈夫か!? むしろアンタの頭が大丈夫!? いちいち聞かないでも見たら分かるでしょ!? この状況で笑顔で大丈夫なんて言う馬鹿アンタぐらいじゃない!?」


 ひぇぇ怒鳴られた、怖い人だなぁ。


「そんなに怒らないでくださいよ、リラックスしましょう」

「殺すぞテメェ! 本当に頭逝かれてんの!?」

「でも怒鳴っても落ち込んでも多分状況は変わりませんよ? それでも怒鳴りたいなら止めませんが」

「……アンタはなんでそんなに落ち着いてんの?」


 なんで……? たぶんあれですかね。


「……そうですねぇ、私がいじめられっ子だったから、慣れちゃったんですかね?」

「まぁそんな呑気な性格ならいじめられて当然かもね」

「それもありますけど、私魔法がろくに使えなくて、いろんな人に虐められたんです」


 私は彼女に昔あった色々なことを話しました、ゴブリンの巣窟に置き去りにされて半裸で逃げてきたこと、冒険中ずっと全員の荷物を持たされたこと、依頼の報酬を分けてもらえなかったこと、足手まといだったとか難癖をつけられて手に入れた貴重な素材を横取りされたことなど、色んなことを話しました。


「それで何とか3日間の間、飲まず食わずで生き延びたわけです」

「あんたなかなかハードな経験してんのね……」

「はい、でも今は頼もしい味方がいるので大丈夫です!」

 イズハさんほど頼もしい人はきっと他にはいないでしょうね!


「……その人のこと信じてるの?」

「そうですよ?」

 おでこに手を当てて、ゆっくり首を振って大きくため息を吐きました、イズハさんも呆れた時によくやります、それ。

「あんたが誘拐された理由分かるわ、どうせ知らない人について行ったんでしょ」

「なんでわかったんですか!?」


 まさかこの人もテレパシーが……!?


「……なんでそんなに人を信じられるのよ」

「なんで? うーん、なんで……?」


 なんででしたっけ、なんか理由があったような……あ、思い出した!


「信じた方が楽しいからです!」

 あ、そのジトってした目もイズハさんよくやります。

「……はぁ? 何言ってんのよ、馬鹿みたいというか馬鹿ね」

「なんかいつかこんなことを言った気がするんですよね〜、いつだったかなぁ」


 誰かに言った気がするんですよね、多分9歳ぐらいの頃だった気がする。


「……次からは気をつけなさい、次があるか分かんないけど」

「大丈夫です、きっと私の仲間が助けてくれます!」

「そんなに信じてるの?」

「もちろんですよ、お互いに信じると誓いましたから」


 あの日のことを思い出すと未だに胸が熱くなってドキドキしちゃいますね、キャー恥ずかしい!


「誓った? あぁ、そういう相手……お気の毒」



 しばらく談笑していると馬車が止まったので私たちは急いで気絶したフリをしました、しかし叩き起こされて歩くように言われちゃったので、屈強な男の人たちに引っ張られて歩きます。

 どんどん階段を下っていって、運ばれた先には女の子たちがいっぱい……鞭で叩かれたり顔を殴られたりしています、どうやらここは奴隷調教施設のようですね。


「三人連れてきた! 誰か手空いてるやついないか!?」

 汗臭い男の人が私の顔を覗き込みます、イズハさんと同じ生き物とは思えない気持ち悪さですね。


「おぉ、こいつ中々上物じゃねぇか! いいもん捕まえてきたな!」

「いや、前から目付けてたんだよ、なんか彼氏みたいなやつが急に出てきたから諦めかけてたけど、なんとかなるもんだな!」


 彼氏……イズハさんのことですかね、周りから見たらそういう風に見えるのかな。


「おいおい、ひょっとしたらそいつが探しに来るかも知れないぜ?」

「無駄無駄、こんなに離れてんのに追いつくわけねぇだろって、すぐに調教してやるよ」

「でもお前まだ別の奴隷仕込んでたろ? そいつはいいのか?」

「なぁーに、今日そいつやって明日からこいつにみっちり仕込めばいいさ」


 馬車で話してた女の子が目に涙を浮かべてます、私は大丈夫ですよ、我慢できます。

 そういう風にアイコンタクトしたはずなのに、伝わらなかったのかな? ふるふると首を振っています。

 そして彼女が突然暴れ始めました。


「なんだこいつ! 大人しくしろ!」

「あんただけでも早く逃げて! これ以上辛い思いする前に逃げて! 待ってる人がいるんでしょ!?」


 あぁ……なんだか変な誤解を与えていますね、誓ったって言ったのがいけなかったのかな、それにもう逃げる必要はないですよ、もう()()()()()()()から。


「やっと来たんですか? イズハさん!」

 

感想ブクマレビューお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ