「せい」騎士団
「頼みたいことがある」
「お断りします」
即答すると王様が玉座からずり落ちた、コントか。
「早いね⁉︎ 言う前に断る⁉︎」
王様からの頼み事というのは『聖騎士団への入団』と『ヴェルデ姫とのお見合い』、申し訳ないがどっちも勘弁してくれ。
「聖騎士団も姫の見合い相手も他を当たってくれ、というかあの三勇者の中からじゃダメなのか? 特にあの優男とかいい感じじゃないか」
まぁ中身は置いといて、の話だけどな。中身で勝負するなら他二人のほうがマシだろう。
俺の答え及び代替案に王様が深いため息をつく。
「わしだってそうしたいのは山々だけど……お主なら言わずとも分かるだろう?」
「聖騎士団はメンツの癖が強くて入りたがらず、姫は結婚する気が全く無い」
「そういうこと……だから頼む! せめて片っぽだけでも考えてみてはくれんか⁉︎」
そう言って王様が土下座せんばかりの勢いで懇願してきた、流石にここまでされてはバッサリ切り捨てるのも気がひける。
「とりあえず今回の護衛が終わってから考える」
「分かった! でも本当に考えておいてくれよ⁉︎ 忘れてたとかいうなよ⁉︎」
はいはいと適当に返事をして逃げるように広間を出た。どうやら本当に切羽詰まっているんだな、一国の王の威厳は無くとも責任はあるのか、お疲れ様です。
リリーが待っている部屋がそのまま俺の部屋になるらしいので、早速向かうと……リリーと一緒になんかいる。
「あ、イズハさん! 私ヴェルデ姫とお友達になっちゃいました!」
なんでこいつは面倒な方向に交友関係を広げていくんだろう。
この二つ結びで小生意気そうな眼をしたはつらつ娘がヴェルデ姫か。年齢は俺やリリーと大差なさそうだが、やはり姫は結婚も早々にしないといけないんだな。
「あなたが今話題のイズハね! 昨日の試合みたわよ、あなたひょっとして賢者か何かの孫だったりする? もしくはありふれた普通の職業の……」
やめろ! 怒られちゃうだろ作者が! ……いや何を言ってるんだ俺は、というか妙にメタ的な発言多くないかこの作品。この発言自体もそうだけども。
「俺は魔法使いでも賢者でも手品師でもない、ただの超能力者だ。というかリリーに散々聞いただろ」
「すごーい、本当に頭の中読めるんだ! じゃあ私が何しにこの部屋に来たかも当然分かってるでしょ?」
「……聖騎士団への勧誘だろ、モディロニア聖騎士団隊長ヴェルデさん」
「ご名答! じゃあほら行くよ、リリーちゃんも!」
「いや聖騎士団の隊長とか聞いてないんですけど⁉」
ヴェルデに手を引かれて強制連行されたのは、舗装されてない剥き出しの土の地面にボロボロの木の柱が立ててある、おそらく兵士たちの訓練場と思わしきスペースだ。現にグループで走り込みや打ち合いをしているのが見える、さっきの兵士長が号令をかけているようだ。
「紹介しよう! こいつらが我がモディロニア王国聖騎士団の頼れるメンバーだ!」
「……三人、ですか? 他のメンバーさんは……」
「一人遅れてるみたい、私を入れて五人だよ!」
見た目はどう見ても聖騎士って感じじゃないぞ、一人パジャマじゃないかそれ。
「では左から順に自己紹介!」
一人目が前に出る、深々とローブを羽織り持っているのは杖……ということは魔法使いか?
しかし前に出てから一向に喋らない、癖が強いとは聞いていたがまさか無口キャラか?
「こっここぉここんっっここおぉぉ」
突如謎の奇声を発しながらガタガタと震え出した。いや怖いな。
「だ、大丈夫ですか⁉︎ 発作ですか⁉︎」
「いや彼女あがり症なんだよね、よくあることだから気にしないで。名前は【シア・オーガラ】役割は前衛の切り込み要員、よろしくね〜ハイ次」
まさかの前衛。魔術師かと思ったら戦士だった、あとよくあることだと分かっていたなら何故前に出させた。
透視でローブを透かして見ると、確かにそこには鍛え抜かれた肉体があった、ここだけは戦士だな。
続いて眠そうな目を擦りながら出てきたのはパジャマの男性、持っているのはウサギのぬいぐるみ。やる気あんのかこいつ。
「んぁ……あぁ。えーっと【シーマ・ネルソン】、よろし……くあ~ぁ…」
欠伸をしながら自己紹介を済ませたかと思うと、その場に立ったまま眠り始めた。
「……いや寝ちゃった! 何の人ですか⁉︎」
「えっとね、こいつは魔法のスペシャリストで、特に状態異常の魔法がすごくて〜、その気になればこの国中の人を眠らせることもできるよ」
「意外とすごい人だった! よろしくお願いします」
「Zzz……ん〜知ってる……Zzz」
テレパシーを使ったが本当に寝ているようで、聞こえる思考もちょくちょく途切れる。
「ぬぅぅ……もう我慢ならん! 起きろシーマ!」
そういって、三番目の一際背の高い女騎士が顔を真っ赤にしてシーマに強烈なアッパーを叩き込んだ。
しかしシーマが寝ているとは思えないほどの反応速度で防御上昇魔法をかけたために対してダメージはなさそうで、その様子を見て女騎士は更に怒りを露わにする。
「ん〜、俺の詠唱の勝ち〜」
「貴様ァ……またしても……」
「お、落ち着きましょうえっと……騎士さん! 冷静に冷静に!」
「そうそう、シーマが寝るのは自然の摂理みたいなものだし怒っても仕方ないって」
「しかし姫……いや団長! 客人の前で寝るなど騎士としてというより人としての問題が……」
「でもさ〜、今この二人は君の自己紹介待ちだよ? それはいいの?」
「ぐっ…そ、それは……」
「それに人前で大声で怒鳴るっていうのもいただけないな〜、ましてや殴るなんて野蛮だな〜、ローズ野蛮だな〜」
「そ、そうだった……私はなんて愚かなことを……聖騎士とあろうものがこのような失態を犯すとは……」
そういってボロボロと大粒の涙を零しながら俺とリリーに跪いた、いや重いよ。
「わっわたじはっ……グスッ……「元」モディロニア王国聖騎士団、ヒグッ……「ローズ・シルディ」だっ……戦闘時は主に盾役をしていたっ……ズビッ」
「も、元……? 現役じゃないんですか?」
「いや……今日限りで私は引退すると決めた……私のような野蛮人、聖騎士を名乗る資格などない……っ」
まさかの目の前で聖騎士団が一人欠ける事態、なんなんだこの聖騎士団。
「ごめんね〜二人とも、この子もよくこうなるんだよ、真面目でいい子なんだけどね」
「いや堅すぎるだろ、柔軟性皆無か」
リリーが一生懸命ローズを慰めている。
「ローズさんはとっても正義感が強いんですね、いいことだと思いますよ?」
「で、でも……みんなの前でッあんなごどじでッ……みんなのお手本にッならなきゃなのにっ……」
「よーしよーしローズはいい子いい子、次は頑張ろうね〜」
「……うん、頑張るッ……」
幼稚園児か、真面目というより頑張り屋の幼稚園児じゃないか。
「おーい、ブラザーたちぃー! お待たセイ、イエー!」
一人の男が城の窓から飛び降りてきた、華麗に着地した男はどうやら聖騎士団の一員らしい。
「イェーイ! ヴェルちゃんヘイ!」
「カルちゃん遅いよヘイ!」
二人がハイタッチをする、ノリが軽い。
「ゴメーン、ナンパするのに手間取っちゃって! でもこの様子を見るにかなりグダってんじゃなーい⁉」
「もーグダグダだよ〜、シアは吃るしシーマは寝るしローズは泣くし、まぁこれが平常運転なんだけど!」
「だよねー! これが俺たちらしさだもんねぇー!」
そういってまたハイタッチを交わす、トコトン軽い。
「じゃあ自己紹介タイムといきまショータイム! 俺は【カルロス・スプリント】! 取柄は足、ラピッド! 金髪がチャームポイント! 趣味はガールハント! 出会う運命君と! イェア!」
韻を踏むな、でしれっとリリーの手をとるなコラ。
「君超可愛いね! 名前なんていうの?」
「え、えっとリリー・ナオセルっていいます、よろしく……」
「よろしくぅリリーちゃーん、ねぇリリーちゃんって彼氏とかいる感じ? もしよかったら今度一緒にご飯でもどう? 可愛い子と一緒にご飯食べたいな〜」
「あ……ご飯くらいでしたらまぁ……」
チョロいなおい、絶対その日のうちに抱かれる奴。
「やめとけリリー、それはナンパの常套句だ、その日のうちに食われるぞ」
「ワーォボディーガード! でもよくいうじゃない、ご飯もアソコも冷めないうちにって!」
「じゃあ俺が冷ましてやろうか? 物理的に」
いうと同時に足元一帯を凍りつかせる、が流石に速さ自慢するだけあって躱されてしまった。
「おぉー超クールじゃん? でもそのスピードじゃ俺には追いつかないぜボーイ?……あれ、どこに」
テレポートで背後に回り込み、キョロキョロと辺りを見回すカルロスを羽交い締めにした。
「後ろだぞメーン? リアクション遅いんじゃないか?」
「ワーォこれはたまげた! とんでもねぇスピードと気配のなさ、一流って感じじゃん?」
当たり前だ、瞬間移動に速さなんて無い、強いて言うなら0秒だ。
「……ところでなんで捕まえたの? 愛の抱擁?」
「俺じゃなくて、とあるお方の愛のムチだ」
「遅刻の理由がナンパとは、いい度胸をしているなぁ相変わらず。その度胸だけは見習いたいものだ」
先ほどまで泣いていたローズが般若のような顔になってゆっくりと迫ってくる。
その形相を見たカルロスが焦ってもがく。
「ちょちょ離して離して! えっと……誰君?」
「イズハだ、あの世でも覚えといてくれ」
「死ぬ前提⁉ いやマジで死ぬ死ぬ死んじゃうって!」
「俺の仲間をナンパした罪は重い」
「いやいやあれは出来心っていうか……だって可愛かったんだもん!」
「よかったな、治療は可愛いあの子にさせてやるよ」
「マジで助けて! ヴェルちゃん! シアちゃん! シーマ! リリーちゃん! ローズ様!」
助けを求めた相手はみんな目を逸らした、唯一返事をくれたのはローズだ。
「あぁ、せめてもの情けだ、一撃で終わらせる」
そういって拳を固く握る。
「待って待って! 拳しまって! ちょっ……
ローズの拳が飛んでくると同時に俺はテレポートで離脱、ローズの渾身のボディーブローがカルロスの腹にめり込み、カルロスは窓から飛び降りてきた軌道をなぞるように窓へと戻っていった。
「これが……聖騎士団」
ちょっと違うな、エイリアン揃いの惑星騎士団だ。
「え~……、というわけでイズハ君にリリーちゃん、入団してみない?」
「「お断りします」」
俺とリリーは同時に深々と頭を下げた。
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