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予知夢、再び

 目を開けると、リリーが目の前に立っていた。

 俺はすぐに理解した、これは予知夢だと。


 しかし今度はどんな予知だろうか、まさか目の前でリリーが死んだりしないよな?


「あの、イズハさん」


 リリーが顔を赤く染めて何やらもじもじしている、これってまさか愛の告白的なやつか?


「イズハさんはその……私のこと、女として見てくれますか? もし見てくれるんだったら、その……私の心、読んでください」

(……キスしたい)


 ……愛の告白だった。


 いやいやいくら何でも発展しすぎじゃないのか⁉︎ 確かに今も多少は想いを寄せられてはいるが、いきなりこれはないだろう。一体何年後の予知だ?

 まあ分からないことを考えてもしょうがない。問題はこの後俺はどうするのかだ、想いに応えるのかそれとも保留か……。

 予知夢はあくまで疑似体験、今の俺にはいつか俺が取る行動をその時の視点で見ているしかできないのがもどかしい。


 俺がそっとリリーの肩に手をかける、ということは想いに応えるのか? 俺は別にリリーのことは嫌いでもないし、数年経てばこういう感情が湧いてもおかしくはない。

 リリーがびくりと一瞬肩を強張らせ、ゆっくりと目を閉じた。この時の俺もかなり緊張しているのか手の震えと動悸が止まらない、ゆっくりとお互いの顔が近づいて……


 そこで突如空間が激しく歪んで、プツリと意識が途絶えた。


 ◆◆◆


「イズハさ〜ん! 起きてくださーいっ!」


 うるさい声にイライラしつつ目を覚ますと、リリーが俺の布団をバサバサと引っ張り回していた。

 さっきまであんなに艶っぽい顔をしていた人と同一人物だとは思えないくらいの笑顔で。いやこっちが平常運転なんだけども。


「あ、起きましたねイズハさん! おはようござっ……な、何ですか? なんか近いんですけど」


 せっかくもうちょっとで結末が見えたのに、コイツが余計なことをしなければ……なんだか無性に腹が立ったから腹いせに頰をつねるpy。


「いひゃーい! ひゃんででひゅひゃ!」

(いたーい! なんでですか!)

「なんとなくだ、別に怒ってない」

「いたぁ……絶対怒ってるじゃないですか!」

「そんなことより何か用があって起こしたんじゃないのか?」

「あぁそうですそうです! 実はですね、『今日の午前10時ちょうどに迎えをよこすのでモディロニア城に来て欲しい』って手紙が入ってました!」


 城だと? 何故そんなとこに……。

「パス、めんどくさい」

「うえぇ⁉︎ いやいやダメですよ、ちゃんと行かないと! 王様直々のお呼び出しなんですから、ちゃんと正装で! ちょうどお金もありますし、新しい服買いに行きましょう!」

「いや元の世界のブレザーでいいよ、これよりはマシだろ」

「だからダメですってば! なんでそんなに無精なんですか! ホラもう服買いに行きますよ!」


 結局リリーに引きずり回されて、村人Aのような服から貴族Aの服に着替えさせられた。危うく髪までセットさせられそうになったので10時までバリアの中に閉じこもって待つことにする。





 時計の針がぴったり10時を指した時、ドアが叩かれた。リリーが櫛とハサミを放り出したのを確認してバリアを解除する。

 家の前に立派な馬車と護衛と思わしき人たち、そしてそいつらの代表っぽい人が待ち構えていた。どうやらこいつが兵士長らしい。


「イズハ・フカシギ殿、お迎えに上がりました」

「はいはい、その前に色々聞いていいか?」

「なんでしょう?」

「まずこの服じゃなくてこっちの地味な服に着替えたいんだけど、問題ないか?」

「いえ、駄目ではないですが。やはりマナーといいますか、できれば正装で……」


 なんかやけに言いずらそうにしているな? ……なるほどそういうことか、コレは面白いな。


「ほら、やっぱりちゃんとした服じゃないとダメなんですよ、イズハさん」

「……じゃあいくのやめた」


 その発言を聞いた途端、慌てて兵士長に呼び止められた。

「お待ちください! 大丈夫です、その服装でも何も問題ありません!」

「えぇ⁉︎ どうしたんですか兵士さん、手のひら返し⁉︎」

「そうだ、こいつも一緒に連れていってもいいか?」

「いや部外者はちょっと……国王陛下はイズハ殿に会うつもりで」

「じゃあやめた。よしリリー、ギルド行くぞ」

 するとまた兵士長に慌てて止められた。

「いえ! 大丈夫です、私の方から伝えておきます!」

「いいんですか⁉︎ ちょっとイズハさん⁉︎」

「よし、じゃあ着替えるからちょっと待っててくれ」

「はい、支度がすみましたらお知らせください」


 ドアを閉めて、俺は堪えていた笑いを向こうに聞こえないように抑え気味に吐き出した。

「クックックッ……あいつらもご苦労だな」

「ていうか一体何が起こってるんですか⁉︎ 手のひらグルングルンしてましたよ兵士さんたち」

「どうやら王様は本気で俺に会いたいらしい、一応任意同行の体でいるけど実際は強制なんだよ」

「……それと手のひら返しとなんの関係が?」

「王様が俺を呼んでるのは昨日の俺の強さを家臣かなんかを通じて見て、是非とも頼みたいことがあるから来て欲しいってことらしい」


 まぁ普通ならどんなに強くても一般市民に声をかけるような真似はしないだろう、その辺も事情があるみたいだけど。

「でもそんな強い相手を呼ぶわけだから、なるべくこっちの機嫌を損ねないように……」

「条件を全部飲んだ、ということですか」

「そういうこと、あーおもしろ」

 あの兵士長の慌てっぷりときたら、まるでコントでも見ているようだ。

「でも、どうしてもイズハさんに頼みたい用事ってなんなんでしょう? まさか戦争でも起こすんですかね」

「俺は伝説の召喚獣か何かか。どうやら姫の護衛らしい、例の三勇者も一緒だ」

 三勇者と一緒というのはとことん気がすすまないが待たせている手前行かないとまずいだろう。




 ――モディロニア城まではさほど距離もなく馬車で数分で到着、兵士長に案内されるままに城内へ進むと既に広間で王様と勇者たちが待っていた。

 ちなみにリリーは『やっぱり私が行くのはマズイ気がします』といって別室で待機している、千里眼で確認するとお茶とお菓子を振舞われていた。羨ましい。


「おお来てくれたか! 待っていたぞ」

 こいつが王様か。なんかデフォルメされたような愛嬌たっぷりというか、威厳は感じないな。

「な、なんでお前がここに⁉︎」

 予想通り優男風ストーカーが狼狽える。

「なんでって呼ばれたからだよ王様に」

「だからなんでお前が呼ばれるんだよ!」


 不良勇者も怪訝な顔で俺を見ていた、無気力勇者も興味なさそうにしているが内心はかなり気になっているようだ。


「まさかテメェも勇者になったのか?」

「いや、実力を買われた。お前らも昨日のあれは見てただろ?」

「あぁあれね……確かにそう考えたら納得、俺を助けたこともあったし」

「いやでも姫の護衛にここまで要りますか王様⁉︎」

 俺に噛み付くのが無駄と悟るや否や、マトイは噛み付く先を王様に向けなおした。おい相手王様だぞ、威厳がなくとも気は使え。


「確かに四人も要らねーと思うぜ俺も」

「二人に同じく」


 他の勇者もマトイの意見に賛成らしい。普通そう思うよな、まぁ王様にもちょっと事情があるんだ。


「イズハ殿にはまだ話していなかったな、今回お主に頼みたいことが……」

「姫様が隣国【ブルニオ】へ行く為の護衛。護衛を厳重にしている理由はモディロニアとブルニオを繋ぐルートにエネミーの目撃情報があったから、そうだろ?」

「おや、馬車の中で既に聞いていたのか。話が早くて助かるなぁ」


 しかし馬車の中に一緒にいた兵士長は首を傾げている。そりゃそうだ、俺が勝手に聞いただけなんだから。


「エネミー……そういうことね、俺は役割が楽になるならなんでもいいけど」

「チッ、まぁ戦力が多いに越したことはねぇか。仕方ねぇ」


 どうやら二人は納得したらしい、ハーレムクズ野郎は未だにモゴモゴ言ってるけど。


「我が娘ヴェルデの要望により明日の朝9時に出発する予定でおる、なので今日は皆城で休んでくれ」

「それなら一つ後で確認したいことがあるんだがいいか?」

「あぁ、イズハ殿はあとで残すつもりだったからな、その時に聞こう」


 そういって王様は勇者たちに解散するように命じた。勇者たちがそれぞれの部屋に案内されていくのを確認して、王様が話を続ける。


「さて、何故お主一人を残したのか教えよう」

「昨日の俺の戦いを見たヴェルデ姫が俺のことを偉く気に入ってるんだろ? 昨日のギャラリーの中に兵士長と一緒に混じってたんだな」

 昨日の気になるテレパシーの正体は姫と兵士長の声だったんだな、昨日と今日だけでも兵士長がいかに苦労人であるかがうかがえる。

「なんと、そこまで把握していたのか、なら単刀直入に二つ、頼みたいことがある」


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