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洞窟、スライム、盗賊

 何とか優男もといクズ男を撒けたはいいが、つい勢いで依頼を受けてしまったな。とりあえず依頼内容をチェックしないことには始まらないか。


 ビッグスライム:ランクA:報酬金貨12枚


「スライムですか、まあAランクとなればこういう魔物になりますね。大丈夫そうですか? イズハさん」

 リリーが不安げな表情で尋ねる。スライムというとRPGで序盤の敵として超有名なアレじゃないか、それがAランクだと?


「その顔は分かってない顔ですね」

「ご名答、何をそんなに不安がっているのかさっぱり分からん」

「いいですか? スライム系統の魔物は液体状で、プルプルしてる奴です」

「うん、それはなんとなく知ってる」


 こっちの世界ではもはや世間一般の常識だよな、「ぷるぷる ボク わるいスライムじゃないよ!」のあれだ。


「まぁそんな体なだけあって物理攻撃はほとんど効果なし、オマケに魔力の塊みたいな生き物なので魔法も効きにくい。レベルがかなり高くないとほぼお手上げ状態になってしまう冒険者泣かせの魔物、それがスライムです」


 この世界のスライムはそんな強敵なのか、液体状の敵っていうと急に強そうに聞こえるのは何故だろう。


「出没場所は? それとできれば倒し方」

「えっと昨日行った焼け石の洞窟のさらに深部へ行くと水脈があって、そこの水源の地底湖に出没するんだとか。倒し方は……物理で微量をちまちま削るか一気に燃やすとか?」

「ま、倒し方は土壇場で何とかするか。一度行ったことがある場所なのはありがたい」


(よし、リリーちゃんとあの男がいるのはこの辺だな)

 む? この声は優男風勇者じゃないか。結構近いな、早いとこ移動してしまおう。

 テレポート!



 やれやれ、もう少しで追いつかれるところだったな。しかしなんで場所が分かったんだ? 変態特有の嗅覚でもあるんだろうか。


「イズハさん? 何で目閉じてるんですか?」

「千里眼を使っている間は目を閉じないといけないんだ。それよりココの地下に目標がいるんだな?」

「はい、本の情報が正しければ」


 地面に向けて目を凝らし透視を発動する。一層二層三層……四層目に水脈を見つけた。一度見たのでもうテレポートの範囲なのだが、洞窟探検というものにロマンを感じるのは男として至極当然だろう、少なくとも俺はそう思う。

 そんな俺の高揚感と裏腹に、さっきからリリーが鞄を漁りながら青い顔をしている気がするが。


「その……照明になるもの持ってくるの忘れちゃいました」

「何だそんなことなら心配ない、“フォトンキネシス”で照らせばいい」

 試しに全身から光を放って周囲を照らしてみせる、ちょっと眩しすぎるか?

「イズハさん、まだこの辺は明るいのであんまり輝かれると眩しいです」

 まぁ確かに入口の光がここまで届いているな、フォトンキネシスの出番はまだ早いか。

「この辺りはまだコウモリぐらいしか出ないので、頭上に気をつけておけば大丈夫かと」


 向かってくる敵をサイコキネシスで丁寧に捻り潰しながら、奥へ奥へと進んでいく。

 本当は衝撃波を放つ方が手軽でいいのだが、勢い余って壁まで届いてしまったら非常に危険。そういう理由で捻じ切る方向にしている。

 歩いているとだんだん光が届かなくなってきた。

「そろそろ俺が光源になった方がいいか」

「俺が光源ってなんだか不思議な言葉ですね。それじゃあお願いします」


 フォトンキネシスを発動させると、壁や天井にある鉱石に反射して洞窟内が青く輝いた。

「この鉱石はなんだ? 金になるならいくつか採っていこうか」

「それは“ブルークリスタル”ですね。青属性の武器や防具を作るときには使われるもので、そこまで希少ではないですが汎用性が高いので需要はありますよ」


 儲けになるようなのでテレキネシスを使ってクリスタルを引っこ抜き、鞄に入れておく。

 ちなみにこの世界にも“異空間パック”という、アイテムがいっぱい入る便利アイテムがあるらしいが、かなりの高級品らしい。

「異空間パックは白金貨10枚もする代物ですから、貴族とかベテランの冒険者じゃないと買えませんよ」

 白金貨といえば金貨10枚分だったか。金貨200枚……銅貨に換算して2万枚か、そこまでして欲しいものでもないな。


 他愛もないことを話しながらどんどん地下に潜っていく。二層目あたりの途中の大きな空洞で巨大な蛇と岩の人形が立ちふさがってきたが、サイコキネシスで爆散させておいた。

 あとから聞いた情報によると、大きな蛇はタイラントスネーク、岩の人形はブルーゴーレムという名前らしいが、まぁどうでもいいだろう。




 そろそろ30分ほど経つ頃だろうか。ずっと歩き通しでリリーの顔に疲れが見えてきたので、少し休憩を挟むとしよう。


「すみません私のために……回復魔法が疲労に効けばいいんですけどね」

 リリーが足のマッサージをしながら言う。どうやらマッサージの心得もあるらしい、いつか頼もう。

「気にするな、俺も少し休みたかったところだ。それにもうすぐ水脈にたどり着くぞ」

 透視するとあと一層跨いだ先に水脈が見える。

「そうですか、ならもう休憩切り上げましょう」

 リリーが立ち上がるが、まだ疲れが取れていないのか動きがなんだかぎこちない。

「リリー、足を出してくれ」

「こうですか?」


 俺はリリーの足に触れ、念を込める。

「あ……なんか気持ちいいです、超能力ですか?」

「“ヒーリング”だ、怪我も治るし疲労も取れる」

「わぁ! なんだか足がすごく軽くなりましたよ!」

 リリーが嬉しそうにピョコピョコと跳ね回った。


「もう歩けそうか?」

「はい、今なら地平線の果てまで歩けそうな気分です!」

「いってらっしゃい、俺は地底湖にいってるから地平線の果てから戻ってきたら教えてくれ」

「冗談ですよ! 私も行きますってば!」





 そんなやりとりから約20分後、ようやく地下水脈まで辿り着いた。あとはこれを辿って地底湖を目指すのみだ。


「そういえばイズハさん、あの勇者さんたちは今何してるんですかね?」

「知らん、そのうち一名に関しては知りたくもない」

「じゃあ他二人の様子は見れたりします?」


 確かに俺としてもあいつらの動向は少し気になっていた。テレパシーで俺のことを知らないのは分かっているが、万が一奴らが俺を欺くほどの超能力者だったりしたら何かと面倒だ。

 さっそく千里眼を発動してみる。不良の方は黙々と単独で依頼をこなしているようだ。妹さんは見つかってなさそうだけど、とりあえず順調そうだな。

 次に無気力勇者の様子を覗き見る。どうやら無事に盗賊たちにボコボコにされて……無事じゃなかった。


「ちょっとここで待ってろ、すぐ戻るから」

「え? どこ行くんですかイズハさん!」

「人助けだ、1分で戻る」


 テレポート!



 あーあ、まじ笑える。

 異世界で今度こそ幸せに生きようとした矢先、盗賊にボコボコにされて金も武器も全部盗られるとか。

 どんだけ神に見放されてんの俺、いっそのこと殺してくれりゃいいのに。なんでだかまだ意識あるし、ふざけんなよクソが。


「へへへ、召喚勇者もレベル1ならただのカモだな!」

「金だけはたんまり持ってやがるぜコイツ! ご馳走さまでーす!」

 そう言いながら盗賊が俺の頭を踏みにじる、その姿が一瞬クソ親父の姿と重なった。このくらいは慣れてる、意識が飛びそうであんまり痛みを感じない分いつもよりマシかも。

 涙なんて出やしない、前の世界で出し尽くしたんだろうか。助けも期待してない、どうせ来ないって分かっているから。


「ん? 誰だお前、コイツの仲間か?」

 そんな奴いるわけないでしょ、通りすがりの誰かは知らないけどお気の毒。

「仲間ではないかな、拒否されたし。まぁ見てしまった以上他人でも見過ごすつもりはない」

「なんだテメェ、この人数相手に1人で何する気だ? 土下座の稽古がしたいなら手伝ってやるよ」

 そうそう、相手は10人もいるんだから。そこの人も下らない正義感なんて捨てて、早く逃げた方が身の為だよ、こんなゴミなんてほっといてさ。


「生憎俺は落ちてるゴミは拾わないと気が済まないんだ。それにこんな連中10人だろうが1万人だろうが、俺からすれば0と変わらん」

 あれ、思ってるだけのつもりだったけど、声に出てたのか?

「なんだとてめ……グボァ!」


 突風、いや衝撃波が俺の背を掠め、頭が軽くなる。

 ボロボロの体をなんとか起こして霞む目を凝らす。俺の頭に足を乗せていたはずの盗賊は、木に叩きつけられたのか、泡を吹いて気絶していた。


「な、なんだ!?︎ さては魔法使いかコイツ! 早くバリア張れ!」

 魔法の心得のある数人が瞬時にバリアを張る。複数人で張っているため、かなり分厚く強固なものだ。


「念動力は物体をすり抜ける。姿が見えていれば当たる」


 しかし男の魔法は、バリアをすり抜け盗賊たちを無慈悲に吹き飛ばした。


「おかしい! バリアで防げないぞ!?︎ ウグ! く、首が……」


 近くで喚いていた盗賊が苦しそうに首を抑えてもがきながら宙に浮かび上がる、一体何が起こってるんだ?

 宙に浮いた盗賊はしばらくもがいていたが、やがて意識を失ってポトリと無造作に落とされた。体感時間およそ数十秒、先程まで騒いでいた盗賊たちは、全員地面に倒れ伏していた。


「だから言ったろ? 0と変わらないって。さて、あとはお前の治療か」

 これだけの数の盗賊を一網打尽にした主が、こっちに近づいてくる。なんとか体を動かそうとするも、今の俺は立っているのがやっとだ。

 視界が霞んでよく見えない、だがこの声には聞き覚えがある。ギルドであったグイグイくる白いローブの女の相方の男だ。


「そう、その白いローブの女のおかげでお前のピンチに駆けつけられた。感謝しとくんだな」


 ……やっぱりおかしい、俺は確かに何も喋ってないはずなのに会話が成立したぞ? どうなってるんだ?


「俺は人の心が読めるんだ、他にも見えない力を操ったり一瞬でどこにでも移動できる。そんな存在を元の世界で聞いたことはないか?」


 ……超能力者? いやまさか、科学的にありえないだろそんなの。でもそしたらさっきの現象は?


「まぁ今は余計なことを考えるな、すぐ治すからじっとしてろ」


 奴が俺の額に触れると、奴の手を通じて俺の体になにか温かくて心地の良いものが流れてくるのを感じる

 だんだんと霞んでいた視界がクリアになってきた。腕の痣や傷が消えていき、手足から指先にまでしっかり力が入る。

 口の中の血の味が薄れてきて、腫れていた頰も元通り引っ込み、まるで何事もなかったかのように全身の傷が癒えていた。


「なんだこれ……魔法か?」

 思わず呟くと、超能力者と名乗る男は呆れた顔をして額に手を当て首を振った。


「魔法は信じて超能力は信じないのか、一体どういう判断基準なんだ」

「……別に助けてくれなくてよかったけど、一応お礼は言っとく」

「俺に言うな、リリーに言え。あの白いローブの女」

「ふーん、じゃあ伝えといて。俺は帰るから」

「あ、ついでにこれ持ってけ」


 そう言って男から硬貨の入った袋といくつかの武器が投げ渡される、あれ? これってまさか盗賊どもの?


「そのまさかだ。でもコイツらもお前から奪うつもりだった訳だし、奪われても文句は言えんだろ。売って金の足しにでもしろよ」

「……それもそうか、じゃあ遠慮なく」


 町へ向かおうと2、3歩歩いたところで、ふと振り返ると、もうアイツは姿を消していた。

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