寝起きでドッキリ
5/3 繋げました
長いようで短い予知夢から目を覚ますと、俺はまばらに光の差し込む深い森の中にいた。
森の中!?︎ 何故!?︎ いつの間に!?︎ 誰の仕業!?︎ なんて常人なら慌てふためいてひっくり返って頭を打ち付け再び眠りにつく所だろうが、どっこい自分は超能力者。
例えここが目印のない灼熱の砂漠のど真ん中だろうが二次創作あるあるのキスしないと出られない部屋だろうが“テレポート”を使えば、あっという間すらなく自室のベッドにダイブ出来るのだ。
なんで朝起きて森にいたのかの答えは出ないが、大方寝ている間にテレポートが暴発したんだろう。人目の多い街のど真ん中とかじゃないのが幸いだった、という訳で早速家に帰るとしよう。
――テレポート!
……あれ?
テレポート!
テレポーテーション!
瞬間移動!
どこでもド……これは違う!
……おかしい、テレポートが発動しない。
こ、これは予想外の展開だ。流石に慌てふためいてひっくり返って頭を打ち付けることは無かったが少し焦っている。いつもなら念じればすぐに目の前の景色がパッと切り替わるはずなのに、これは一体どういうことだ?
辺りを見渡して、10メートル程離れたところにある大岩にテレポートを試みる。すると瞬時に視界が切り替わり、大岩の上に一瞬で移動できた。
どうやらテレポートそのものが消えた訳では無いようだ、じゃあ一体何故……?
***
――あれから1時間ほど経って、俺は一つの結論に辿り着いた。
“ここは俺がいた世界とは別の世界である”と。
何故そんなぶっ飛んだ結論に至ったか、その経緯を今から細かく説明していこう。
まず、さっきまでの1時間の間に色々テストしてわかったこと、それは超能力自体は消えたわけでなく普通に使うことができるということ。
サイコキネシスは問題なく半径1キロ範囲内の地面を持ち上げることが出来たし、元通りに復元することもできた。
しかし“テレポート”と“千里眼”、“アポート、アスポート”に関しては少し問題があった。
まずテレポートで自分の知っている全ての場所に移動を試みたが、結果は全て不発。学校はおろか、自宅のベッドや公衆トイレにすら飛べない。
千里眼でも見えるのは周囲の景色のみ。アポートによる物体の取り寄せもアスポートによる転送も、そこら辺に落ちている小石などでは上手くいった。しかし自分の部屋のいつも使う筆箱や机は取り寄せられない。
これらの能力には共通して“一度見たことがある”という条件がある、しかしそれらを満たしているはずの場所や物体に突如干渉できなくなったこと。
今まで超能力で時空を超えようと試みたことなど無かった、ゆえに時空を超えてしまうと力が届かないと仮定すればいくらか納得はいく。
二つ目の根拠はさっきまで見ていた予知夢だ。
夢の中で俺は見たことのない草原に寝そべっていた。時間はぼんやりしていてよく分からなかったが、なんだか暗かった気がする。
夢の中にいた少女の服装は白いローブに大きな木の棒と、えらくおかしな格好をしていた。
少なくとも俺がいた世界であんな服装の人はまずいない、いたらそれはコスプレイヤーくらいなものだ。
しかしこれら2つのことを交えただけでは、まだここが異世界だとは断定できないだろう。そこで最後の決定的な証拠、それは……この現状だ。
なんかゴブリン的な生物に囲まれている。
まぁこんな森の中で1時間もガサゴソしてたら獣くらいは寄ってくるだろうと思っていたが、まさか魔物と遭遇とはな。
何故こんなにあっさりと魔物の存在を認めているか? まぁ確かに常人ならドッキリだとかを疑うところだろう、しかし超能力者の俺は“テレパシー”と“透視”のせいで嫌でも大体のことは把握できてしまう。
まずテレパシーで聞こえる心の声はこんな感じだ。
(ニンゲン……オス……クイモノ……メス……ニクドレイ……)
(カネヨコセ……フクヨコセ……イノチヨコセ……)
こんな人間いてたまるか、一概にいないとも言い切れんが。
頭のおかしいコスプレイヤーである可能性も考慮して彼らを透視すると、中の人など挟まずに内臓が露わになる。つまり着ぐるみなどではなく本物の魔物なのだ。
心の声から友好的に接する気などさらさらないことも分かったから、まずは全体の状況把握をしておこう。
千里眼で視点を3メートル程高い位置に上げ、ぐるりと周囲を見渡す。ゴブリン達は大体20体かそのくらい集まっているようだ。
一匹一匹の背丈は1メートル程と小さいがチームワークは中々良いようで、ギィギィという鳴き声で互いに合図を取り合っているのがテレパシーで分かる。
中には杖を持ち魔法的な何かで味方の強化らしきことをしているゴブリンも何匹かいる、さらには2メートル程のボスっぽいゴブリンも。
物理攻撃はまだいいが魔法となると未知の領域だ、ちょっと警戒した方がいいか?
ゴブリン達との睨み合いが数分ほど続き、段々とザワついていたのが止み始めた。奴らの思考が俺への様子見から明確な殺意に切り替わっていくのが聞こえる。
大ゴブリンが雄叫びを上げる、それを合図に周囲にいるゴブリン達が一斉に俺に飛びかかってきて――
ゴブリン達は見えない壁に顔面を激しく強打した、“サイコキネシス”だ。
勢いよく飛び込んできたゴブリン達は予想外の衝撃に転げまわり、後のゴブリン達も次々と飛びかかっては壁に激突して目を白黒させている。
しばらく続けているうちにようやく見えない壁があることに気がついたらしく、ナイフで壁を斬りつけたり棍棒で叩き割ろうと試みる奴が出てきた。
ただ、はっきり言ってそんなことしても無駄だ。このバリアにヒビを入れたいなら最低でもミサイルくらい持ってこい、少なく見積もって30発ほどは要るが。
それでもめげないのか単純に気づかないのか、粗末な棒切れや刃物でバリアに挑むゴブリン達。唯一警戒していた魔法使いゴブリンが杖の先から火の玉を飛ばしたり、大ゴブリンが巨大な棍棒を振りかざして加勢しだす。
それでも単に騒音が増しただけで、バリアは少しも歪まない。魔法は完全に未知の領域だったから警戒して気持ち強めにバリアを張っていたのだが、別に大したことないと分かった以上もう用はない。というかバリア叩きすぎだ、うるさい。
俺は腕を組んだまま、車が吹き飛ぶ程度の軽い衝撃波を周囲に放つ。
バリアを割ろうと躍起になっていたゴブリン達は衝撃波をもろに受け、まるで花火のように肉片が宙を舞う。運良く生き残った奴らは、逃げ出す前に捕縛して雑巾のように捻り切る。
そして僅か20秒の間に立派なゴブリンミンチの山が出来上がった。
少しやり過ぎかと一瞬思ったが、俺の命を取りに来た奴に同情してやる必要もないだろう。そう結論付けて背を向け、颯爽と立ち去ろうとした。がすぐに足を止める。
これだけの量のミンチは森の養分にはなるだろうが、おもわず顔をしかめる程に血生臭い。立つ鳥跡を濁さずというように、散らかしたらちゃんと後始末はしておくのがマナーだ
俺は散らばる肉片をサイコキネシスでかき集め、“パイロキネシス”で火をつけた。
ここまで読んでいただき有難う御座います。
まだまだちょっとづつ更新していきますので
アドバイスいただけたら嬉しいです。