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村人サイキック

 すっかり冷めてしまった朝ご飯をパイロキネシスで温め直しながら、今日の予定を考える。


「ごめんなさいイズハさん。八つ当たりなんて……イズハさんは慰めようとしてくれてるのに、私ったら」

「分かったから早く食べてしまえ。せっかく温め直したんだ、また冷ます気か?」

「あ、ごめんなさい……」


 うーん、やりづらい。

 さっきから謝罪か自責しかしてないぞこいつ。うるさいのは嫌いだが朝からしんみりされても困る。

「30秒以内に食べ終わらないとまたハグだな」

 それを聞いたリリーが急いでパンを口に詰め込み始めた、そこまで嫌かオイ。

 そんな俺の視線に気づいたリリーが慌てて弁明しだす。

「違うんですよ? 嫌じゃないんですけど、やっぱりその恥ずかしいというか……っていうかそんなに抱きつきたいんですか!?」


 顔を真っ赤にして腕を振り回すリリー。よしよし、なんとか調子が戻ったな。

「それで、今日はどうするんだ? 昨日はAで余裕だったし、いっそのことGランクの依頼でも受けてみるか?」

「勘弁してくださいよ、身が持ちませんから、私の。今日は神殿でイズハさんの天職を授かりに行こうと思っていたんですけどね。どうです? ずっと無職でいるのもアレですし」

 “天職”か。たしかステータスに補正がかかったり、専用のスキルが覚えられるんだっけ? どこまでもゲームっぽい世界だな全く。

 ただ俺は無職のままの方がいい気がする。今のステータスでさえぶっ壊れているのに、そのうえ補正なんてつけたら大変なことになるぞ。

「あんまり気が進まないな。今でさえ持て余している力を、これ以上強くしたくはない」

「でも無職だと何かと不便ですよ? 一部施設が利用できなくなったりしますし、周囲に与える印象もよくないんですよ」

 この世界もニートには厳しいんだなぁ。俺はまだ学生だけど。

「補正が無いか、弱い職はあるのか?」

「うーん……確か農民や商人あたりは戦闘時の補正が弱かった気が……。すみません、行ってみないと分からないです」


 仕方ない。ずっと無職というのもなんだか締まらないし、農民とか無難でいかにも弱そうなやつにすればステータスも問題ないだろう。




 城下町を出て歩くこと数十分、丘の上の神殿に辿り着いた。

 透き通った湖に囲まれるように中央に鎮座した神殿の見た目は、どこかで見たことがある。

 三角屋根を支える白くて太い柱が特徴的な、パルなんとか神殿とそっくりだ。

「そういえば中に入ったやつが出てこないな、監禁か?」

「物騒なこと言わないでください。中で天職が決まると、あの魔法陣から自動で外に出されるんです。出入口一緒だと混雑しちゃいますからね」


 混雑するほど狭い出口には見えんがな。視線を少しずらした先にある魔法陣、どうやらそこが出口的な役割を果たしているらしい。

 出てくる奴らを見ていると、理想の天職だったのか意気揚々とした奴から、そうでなかったと見るだけでわかる奴もいる。


 列が消化され扉が近づき、いよいよ俺の番になった。

 近くで見ると更に重厚さを増した扉が、ゆっくりとひとりでに開く。

 リリーに続いて中に入ると、外から見たよりずっと広い空間が広がっていた。古ぼけた外観とは打って変わって、床も柱もまるで出来たばかりのようだ。上から伸びた出所の分からない謎の光が、中央あたりに女神と思わしき像を照らし、周りを羽虫のようなものが飛んでいる。


「なんか虫がいっぱい飛んでるな、燃やすか?」

「ダメですよ、アレは……」

「虫じゃないわよ失礼な! アタシたちは妖精!」

 いつのまにか羽を生やした小さな人間が、顔を真っ赤にして俺の肩で仁王立ちしていた。

「悪い、小さくてよく見えなかったから。それにしてもアイツらよりやけに大きいなお前」


 像の周りを飛び回っている妖精は本当に羽虫程度の大きさだが、こいつは手のひらくらいの大きさだ。個体差か?

「アタシが大きいんじゃなくて、あの子達が小さくなってるだけよ。本当はみんな同じサイズなの」


 そう言って彼女は一瞬のうちに羽虫サイズに縮小してみせた。思わず感心していると、リリーが早速本題を切り出す。


「妖精さん、この人の天職を授けてもらいにきたんですが。いいでしょうか?」

「ふーん、でもさっきアタシ達のこと虫呼ばわりしたよね?」

「この人はちょっと世間のルールに疎くて、今回だけ大目に見てくれたりしませんかね?」

「へぇ~世間知らずかぁ……どーしよっかなー」

(なーんか陰気で怖い顔してるし、全然喋んないし変な奴。私たちを虫呼ばわりしたのは許せないな~。ちょっとからかってやろ)

 聞こえてるんだよなぁ。というか、聞こえなくてもそのいかにもなにか企んでますよ、な表情で大体わかるわ。


「そうだなー、誠意を見せてほしいかな~」

「誠意? なるほど、金だな。リリー、昨日の依頼の分いくら残ってる?」

「いやそうじゃなくて~、土下座して『羽虫は私目のほうでした、どうかお許しください大妖精様』って言ってよ。そしたら考えてあげる」

(さてこの人間はどうするかな~? 大体2パターンよね。本当にするか、怒って帰るか。まぁ帰ったところで後々困って泣きついてくるんだけど!)


 なるほど、つまりこいつの中では、俺が“今すぐ土下座する”か“後々土下座する”かの二択しかないわけだ。

「断る、誰が土下座なんか」

「いいのかなぁ~? 土下座しないと一生無職だよー?」

 よし、第三の選択肢。“逆に土下座させる”でいこう。そこそこプライド高めの超能力者に土下座を求めるとどうなるか、その身に教えてやる。

「……この神殿、かなり大事なものだよな」

「まさか壊す気? アハハ無駄無駄! この中じゃ魔法も召喚も使えないし、武器も持ち込めませ~ん! せいぜい頑張ってパンチで壊すしか無いね! 果たして何年かかるかな?」

 どうやら察したリリーが妖精たちに呼びかける。

「妖精さん、それ以上煽らないほうがいいかも」

「なんで? だって壊すなんてぜーったい無理!」


 俺はしゃがみこんで、床に一発拳を叩き込んだ。拳が床に突き刺さり、みるみるうちに亀裂が広がっていく。


「ギャーッ! なな何してんのよアンタ! 大事な神殿に!」

「頑張ってパンチで壊してみた、果たして何秒かかると思う?」

 さっきまで完全に俺たちを舐めきっていた妖精の顔が一瞬で赤くなる。

「妖精軍団全員集合! こいつらを捕まえろ!」


 あんなサイズでどうやって俺たちを捕まえる気だ、ガリバー旅行記の真似でもする気か?

 妖精達が何やら呪文を唱え始める、すると妖精達の周りに大量の光の玉が出現した。


「あれ、ここじゃ魔法は使えないんじゃなかったのか?」

「我々妖精軍団はここで魔法を使う権限を持っているのだ! “ラス=ホーリー=バインド=ホーミング”!」


 そう叫ぶや否や一斉に大量の光の玉が、俺とリリーめがけて飛んできた。俺はリリーを抱き寄せてひらりと躱すが、玉はくねくねと軌道を変えて追ってくる。

「イズハさん、“ラス”は最上級で“ホーミング”の魔法なのでかなりしつこく追ってきますよ!“バインド”は拘束魔法なのでダメージはないと思いますけど!」


 リリーの解説を聞いて、どうするか考えてみる。攻略するのは大前提だ。魔法がバリアで防げるのはゴブリンの時で把握済みだし、せっかくだから何かテストしてみるか。

 手近にいた妖精をサイコキネシスで捕まえて、追ってくる大量の光の玉に向けて身代わりに投げつける。すると光の玉に触れた妖精が何かに縛られて地面に落ちていくのが見えた。

 つまり魔法は対象の人物でなくても何かに当たれば発動はするわけだ。


 俺は天井付近で集まっている妖精達のすぐ後ろにテレポートした。当然光の玉はこちらに軌道を変えて飛んでくる、そして思惑通り妖精達が次々と光の玉に捕らえられて落ちていった。


「一網打尽、いや多光(たこう)打尽か?」

「なんで!? ここじゃ魔法は使えないのに! ズルいズルい! ひきょーもの!」

「卑怯で結構、魔法が使えないんで魔法じゃない方法で対処させてもらった。じゃあ早速破壊工作の続きに取り掛かるか」


 俺は床に膝をつき、今度は両手を振り上げた。


「ちょっと待ってウソウソ! 土下座しろってのはウソ! 天職も授ける!」

「ですってイズハさん、ていうか流石に神殿破壊はやりすぎですよ」

「別に天職はどうでもいい、ただ人が下手にしか出れないと思って上からものを言うのが気に食わなかっただけだ」

「……だって偉いもん」


 俺は無言で上げていた左手を振り下ろした、亀裂が床を伝って柱にまで広がっていく。


「偉そうにしてごめんなさい! もうしないから!」

「イズハさん? その右手、どうするつもりですか?」

 妖精達は今にも泣きそうな顔になっている、俺を舐めてかかるからこういうことになるんだ。

 せっかくだから右手も振り下ろそうかと思ったが、リリーに咎められたので流石にやめておこう。床に手をつき復元能力を使うと、瞬く間に亀裂が元どおりに塞がっていった。


「すごーい! ピカピカになったー!」

「すごいだろ、じゃあ天職の方頼む」

「はいはーい! こちらへどうぞー!」


 妖精たちに引っ張られ、女神像の前に連れてこられた。


「ではまず適性チェックを始めまーす! それじゃみんな、よろしくね!」

 そうリーダー格の妖精がいうと、小さな妖精たちが俺にまとわりついてきた。チェックといっても何か大掛かりなことをするわけでもなく、ただ小さな妖精たちが俺の周囲を飛び交っているだけだ。ほんとうにちゃんとやっているのか?

 しばらくすると小さな妖精たちは首をひねって、リーダー妖精のところに集まっていった。

「んん~? おっかしいなぁ。なんかやたらステータスが高い気がするんだけど、またズルした?」

「またってどういう意味だ。まぁやたら高いのは認めるが」

 妖精はしばらく頭を抱えて、やがて開き直ったように言い放った。

「これだけ強いんだし適当でいいよ! 強いて言うなら魔法系はやめといた方がいいかも! “魔”と“愛”はそうでもないから! じゃあ選んで!」


 すると目の前に一冊の本が現れた。めくると色々な職業が書いてある、剣士に戦士、盗賊に狩人……いや、戦闘関連はやめておこう。これ以上強くなっちゃ困る。それよりもっと日常で使えそうな……商人か、詳細は……触ればいいのか?


 商人


 補正: 全基礎能力に5%ボーナス, 敵対視されにくい

 初期スキル

「鑑定:モノ」モノの情報を見ることができる

「嗅覚:金」金になりそうなものの場所が分かる


 おぉ、正しく商人の能力だ、「農民」はどうだ?


 農民


 補正: 全基礎能力に5%ボーナス, 敵対視されにくい

 スキル

「鑑定:植物」植物の情報を見ることができる

「田舎道」どんな悪路でも歩けるようになる


 植物にだけ詳しくてもな。、他にもっといい感じのやつは……ん、これは?


 村人


 補正: 全基礎能力に10%ボーナス, 敵対視されにくい

 スキル

「田舎道」どんな悪路でも歩けるようになる


 どういう基準なんだ。農民と村人とかほぼ一緒だろ。厳密に言えば違うが、一緒でいいくらい大差ないだろ。しかし無駄に強くもなくスキルも少ないし、なかなか俺にピッタリではあるな。

「決めた、村人にする」

「はい! あなたは今日から“村人”になりました! それじゃあバイバーイ!」


 天職が決まった瞬間、追い出されるように、というか確実に追い出されたんだろう。テレポートのように外に出されてしまった。別に長居するつもりもなかったからいいけど。


「村人? なんだかあまり馴染みのない職ですね」

 なんだっていい、とにかくこれで無職は卒業した……んだよな?

「どうしました? イズハさん、なんだか微妙な顔して」

「いや……よく考えたら、村人と無職って大差なくないか?」

「気にしたら負けですよ、帰って今日の依頼持ってきましょう」


 リリーは大して気にしていないようだが、俺は妙にモヤモヤした思いを残して神殿を後にした。

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