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朝イチ、ドラゴン

 目が覚めたら見知らぬ天井が……いや、リリーの家か。


 昨日は結局この世界に伝わる昔話を見てだけで終わってしまった。しかも神様だ何だと信憑性に欠けている、おとぎ話としか思えないような。

 時間を確認するとまだ朝の5時。リリーはまだ寝ているため、物音を立てない様に宙に浮かべて布団を畳んでしまう。

 千里眼で自分を見下ろして、寝癖の付いた髪を整える。しかし無意識で体からあふれる念動力のせいで、抑えたそばから跳ねてしまった。

 泊めてもらってるのだから、朝飯でも作ってやろう。そう思って倉庫の中を確認してみたが何も無い。

 ちなみにこの世界では木箱のような“異空間倉庫”が主流である。見た目の大きさは人が一人入れそうなものだが、中が異空間になっていて大量のものを出し入れできるようになっている。


 さて、なぜわざわざ早起きしたのかというと、元の世界で日課としてやっていたことを済ませるためだ。そのためには周囲に被害がでないところに移動しないとな。




 テレポートしてきた場所は、平原のど真ん中。

 今からするのは所謂体力テストだ。俺の超能力はじわじわと日々成長しているため、ちゃんと自分の力を把握しておく必要がある。

 もしこれを怠れば、ある日くしゃみした拍子に城下町が消滅、なんてこともあり得る。

 それに今までとは違い、レベルという概念が存在するのも不安の種だ。もし俺のステータスが超能力に反映されるとしたら、成長速度がえらいことになってしまう。

 俺は辺りを見渡し、近くに生物がいないかを確認する。こんな朝早くだが、意外と他の冒険者たちは活動を開始しているんだな。それともリリーが寝坊助なだけだろうか。


 とりあえず安全は確保したし、テストを開始するとしよう。




 ――30分ほどのテストの結果分かったことは2つ。まず1つは「超能力に少しだがステータスの影響が出ているかもしれない」ということ。普段より若干大きめに成長している感じがあった。

 そしてもう1つは「むやみに力をぶっ放すのはよくない」ということ。何故なら気持ちよく寝ていた体長20メートルほどのドラゴンと対峙するはめになるからだ。

 周囲に点々といた冒険者たちは、竜の姿を見たからかそれとも俺が大暴れしたからか、気づくと誰一人いなかった。

 赤というより真紅という表現がふさわしい鱗のドラゴンが、こちらを見据えている。


(我の眠りを妨げるとは万死に値するぞ人間)


 ふいに頭の中に声が響いてきた。なんとドラゴンもテレパシーが使えるらしい、今までテレパシーは使う側だったからなんだか新鮮。


(悪い、起こすつもりはなかった。自分の力を試していただけなんだ、分かってくれ)

(ほぅ、力試しか……。しかし相手がいないんじゃ退屈ではないか?)


 おっと、こいつは戦うの大好き系ドラゴンらしい。

(悪いが遠慮させてもらう、朝っぱらからドラゴン相手に暴れまわる趣味はない)

(奇遇だな、我も早起きする習慣など無いが、何処かの誰かが大地を揺るがして大暴れしたせいで叩き起こされたんだがな?)


 なるほど叩き起こした責任を取れと、しかし朝っぱらから戦うのはめんどくさい。どうすれば納得するかな……そうだ。


(分かった、じゃあこうしよう。俺が今からお前を動けないように拘束する、もし30分以内に解けたら相手してやるよ)


 その提案を聞いたドラゴンが鼻で笑う。

(なんと人間が我を試そうというのか? 面白い、30分と言わず5分で受けて立とう)

(いいのか? 短い方は俺としては助かるが)

(フン、自分の力を過信する愚かな人間に偉大なる竜の力のほんの一部を見せてやろう)


 そう言って余裕綽々といった表情で地に伏せたドラゴンを、サイコキネシスでがっちり拘束する。リリーは俺のステータスはドラゴンと張り合うといっていたが、果たして本当にそうだろうか。



 ***



 あれから5分経過したが未だにピクリとも動かない、最初のうちは「なかなかやるな人間」とか「少しだけ本気を出すか」とか言っていたが今では完全に無言だ。


(おい、5分たったぞ)

(ぐっ……さ、30分だ! 本来はそのような約束だったろう!)

(お前が自分で変えたんだろ、自業自得だ)

(ぬぐぅぅぅっ! あ、今指が少し動いたぞ!)

(だからなんだ、俺は拘束が解けたらっていったんだけど)


 それから結局30分ほど待ってやったが、結局動いたのは指一本と口が少しだけ開いたぐらいだった。


(はい終了、まぁそこそこ健闘したんじゃないか)


 終了の合図とともに上から押さえつけていた拘束が解除され、ドラゴンが自由になる。地面を見るとくっきりドラゴンの跡が残っていた。

 負けた腹いせに暴れ出すんじゃないかと警戒していたが、ドラゴンはしばらく呼吸を整えた後項垂れてこう言った。


(恐れ入った、まさか人間に我が力で負けようとは……。いや、我は自分の力に胡座をかいていたかも知れない。先ほどまでの尊大な態度、どうか許してほしい)


 俺も大概自分の力を過信しているところがあるから、人のこと……いや竜のことを言えないがな。


(いや、俺も実際ただの人間とは生物としてかなり違うからな。そんなに気を落とさなくてもいいだろう)

(そうだろうな。あの拘束も最初は風の魔法かと思ったが、解除魔法で打ち消すことができなかった。一体どうやって拘束したのだ?)

(俺のは魔法ではなく超能力だ、まずさっきお前を押さえつけてたのはサイコキネシスと言って――



 ***



(なるほど、元いた世界では力を発揮する機会がなかったのか。そんな素晴らしい力をもったいない)


 素晴らしい力ねぇ……まぁ便利ではあるけど。


(だから俺はこの世界では生き直すと決めたんだ、何事にも縛られず自由に生きるために)


 ドラゴンは俺の決意にゆっくりと頷いた。

(それがいい。しかし人間は何かと窮屈でいけない、いっそ竜にでもなればもっと自由になれるぞ?)

(そいつはゴメンだ、そんなでかい図体じゃ満足いくまで飯を食うのに苦労しそうだし。そろそろ帰るよ、同居人を起こさないと)


 俺が立ち上がると、ドラゴンに呼び止められた。


(待てイズハ、我との“契約”に興味はないか?)


 契約? ゲームとかでもよくあるな。ドラゴンと契約を結んで召喚したり、新たな力を手に入れたりするやつか?


(別に興味はないな。力を求めてるわけじゃないし、そんなデカいペットも欲しくない)

(ぺ、ペット……。いやいやイズハ、嫌ではないんだろう? なら契約してはくれないか?)

(何でそんなに契約にこだわるんだ? ……なるほど、強いやつと契約を結べばそれだけお前に箔が付く訳か)

(いやまぁ……そうなんだが……ダメか?)


 いやそのゴツい顔で甘えてくんな、ただただ気持ち悪い。キャラがあってなさすぎる。

 とはいえ確かに嫌ではないし、異世界デビューついでに契約デビューするのも悪くない。


(分かった、お前と契約するよ。でもどうすればいいんだ?)


 そう頭の中で宣言した瞬間俺の胸から一筋の光の線が伸び、ドラゴンの胸からも光の線が伸びて二つが交わった。


(我、そして主人となるものが互いに契約を承諾した。これで竜の契約は完了だ)

(そういえばエサ代とか考えてなかった、トイレの場所はその辺でいいとして……)

(おい、ペット扱いするのはよせ)

(冗談だ、ところでお前の名前は? もしかして俺が決めるのか?)

(もしかする通り、主人が決めるものだな)


 なるほど、やっぱりペットにつけるならポチかタロウ辺りはどうだろうか、なんてことを考えていたらあいつが露骨に嫌そうな顔をしていたので流石にやめておこう。


(真紅の鱗……クリムゾンから「クリム」はどうだ?)

(フン、安直だな。ポチとタロウよりはマシだが)

(……ポチリムかクリタロウにするか? もしくはタロムゾンかクリポッチ)

(クリムでお願いします)

(うむ、素直でよろしい)


 ドラゴンにクリムと名付けた途端、何やら小さな赤い宝石のような物がクリムの胸辺りから俺の元にゆっくりと飛んできた。


(それが我との契約の証だ、それがあればいつでも我と会話できるし呼べば召喚もできる。持っているだけでも基礎ステータスにボーナスがつく優れものだ)


 ステータスを確認すると


 イズハ・フカシギ 無職

 Lv,20

 HP2000000

 MP20


 ~戦闘能力~

「攻撃」:300000

「防御」:300000

「魔導」:200050

「魔抗」:200050


 ~基礎能力~

「力」:200000

「耐」:200000

「賢」:200000

「魔」:100

「速」:200000

「愛」:100


 真紅の竜の石:攻撃+50%、赤魔法耐性(強)


 つまり俺の今の攻撃力は実質45万ということか、ってこれ以上上がってもなぁ。

(他の人に持たせてもボーナスは付くのか?)

(契約者が仲間だと思う相手ならな、それ以外の人物が触れば手が焼け爛れる)

 ならリリーに持たせれば戦闘能力もいい感じになるんじゃないか? なかなか良いものを手に入れたな。

(こんなものは手に入るとは、起こして正解だった。これからも起こしに来てやろうか)

(やめろ、もし次起こしたら今度は火を噴くぞ)

 そう言って真紅のドラゴンは大きな翼を広げ、あっという間に風だけ残して飛び去っていった。朝のたった1時間半程度のやりとりだったが中々貴重な体験だったな。



 この時クリムは、自分が不遇な役回りになるなど知る由もなかった。

ドラゴンとの契約って夢ありますよね。

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