長文タイトルでチートになろうと思った件についてですが何か? ②
マンドラ亭からリリーの家に移り、ようやく一息つく。
「……疲れましたね、イズハさん」
「あぁ、そうだな」
マンドラ亭では散々だった。
あの後ファイナが戻らないので心配した店主が出てきて、なぜこうなったかを聞かれ三つ目の石像が完成。そしてそれを起こすためにあの手この手をつかい苦労の末蘇生。
何とか食事は出てきたものの、マンドラゴラという人型のあいつがまんま入っているという異常な見た目に食欲は失せ、味も可もなく不可もない程度。少なくともリリーのスープとは比較対象にも及ばないような味だった。
あの店での収穫は俺のぶっ壊れステータスのみである。
「イズハさん、もう一度ステータスをよぉーく見せてください」
「はい」
イズハ・フカシギ 無職
Lv,10
HP1000000
MP10
~戦闘能力~
「攻撃」:150000
「防御」:150000
「魔導」:100025
「魔抗」:100025
~基礎能力~
「力」:100000
「耐」:100000
「賢」:100000
「魔」:50
「速」:100000
「愛」:50
改めて異常な数値のステータスをまじまじと見て、自然と二人同時に溜息がでた。
「なんでこうなったんですか」
「分からん、俺だって知りたい」
「最早ボス級のステータスですよコレ、恐らくゴーレムとか」
「ゴーレムか。ちなみに確認しておくと、魔物を倒せばレベルが上がるって認識でいいんだよな?」
「そうですけど、まさか知らずに10もレベル上げてたんですか? 一体何をどれだけ倒したんです?」
「確かゴブリンの大群と冠オーク、あとは人食い花とか他にも色々」
リリーの目が見る見るうちに死んでいくのがわかる、そんなに強いやつだったのか。
放心した笑みでリリーが話す。
「冠オーク……多分キングオークですね。普通ならBランクが五人がかりぐらいで倒すやつ」
「俺のステータスってどのくらい凄いんだ?」
リリーが遠い目をしながら答えた、目線はこっちに向いているが明らかに俺を見ていない。
「そうですね……こんだけの「力」があれば、シールドストーンが砕けるのも納得ですね、ざっくり言うとドラゴンと余裕で渡り合えるくらいです」
ドラゴンの強さがイマイチピンとこないが、まぁ多分火を噴いたりする大きなトカゲみたいなもんか。
それにしてもまさか異世界に来て本当にチート能力に目覚めるとは、そもそもチートは元から持ち合わせているというのに。
「なぁリリー、このステータスっていうのは、レベル1の状態がその人の元々の身体能力って認識でいいのか?」
「まぁそんな感じですよね、それでも1万ですけど」
なるほどな、そう考えたら案外妥当な数値かもしれない。
てっきり異世界でチート能力でも手に入れたのかと思ったが、元々の俺の身体能力を数値化したらこうなってしまった訳だ。……だからなんだという話ではあるけども。
「どうやらこの数値はただ俺の身体能力を忠実に表現しただけらしい」
リリーはもはや驚きもしない。
「イズハさんって超能力なしでもこんな感じなんですか」
「多分な、まぁ爆弾の爆風を目覚ましに叩き起こされたこともあったし」
「どういう状況ですかそれ」
「元の世界では結構色んなとこに狙われてたんだ、命と力と」
もちろん狙ってきた組織はもれなく全部消し去ったが。
「それは大変でしたね、怪我とかしなかったんですか?」
「どうだったかな、せいぜいかすり傷程度だった気がする」
リリーの心配そうな視線が刺さる。どうにもリリーは少し心配性というか世話焼きというか……心からの心配は悪い気はしないが、なんだか照れ臭いな。さっさと別の話題に切り替えよう。
「ところでさっきまで話していた“天職”について続きを教えてくれないか?」
「はい、天職っていうのは名前の通り天から与えられる加護のようなもので、その授かった天職に応じてステータスにボーナスが付与されたり、固有のスキルを使えるようになります。まずギルドカードの職業ってとこを見てください」
ギルドカードを取り出し、“無職”の文字に触れる。すると文字が歪んで“補正”と“スキル”という文字に切り替わった。しかし現れた文字に触れても何も起こらない、バグってるのか?
「多分イズハさんは補正もスキルもないんじゃ無いですか? 無職だから」
なるほどな、そういうことならこれ以上強くなっても困るし、このまま無職でいい気もする。
「ちなみにお前のステータスはどうなんだ?」
「私のはこんな感じです」
リリー・ナオセル 治癒師
Lv,12
HP36
MP96
~戦闘能力~
「攻撃」:5
「防御」:3
「魔導」:24
「魔抗」:26
~基礎能力~
「力」:4
「耐」:2
「賢」:12
「魔」:24
「速」:6
「愛」:240+120
レベルのわりにやけに低く感じる。俺のが高すぎて感覚が麻痺しているのか、それとも単純に弱いのか。
「これが普通か? なんかえらく低いような気がするが」
「いえ全く、どっちかというと弱い方ですね、“愛”以外は」
やっぱり弱いのか、レベル12でこの攻撃力だもんな。だがさっきから強調している愛だけは異常に飛び出ている、この「+120」は一体何だろう。
「これがさっき説明したステータスのボーナスですよ。治癒師を天職にすると「愛」のステータスが半分程度上昇し、回復魔法の消費MPが半減します」
「ということはそのローブの効果と合わせて、MP消費4分の1で回復ができるじゃないか」
「まぁそうですけど、そもそも回復魔法は傷つかない限り使う必要が無いですから。それにそこそこ強い人たちが傷つくような所に行ったら、一番最初に死にかけるの私ですし」
回復役としては非常に優秀だが、それ以外が弱すぎて話にならないということか。せめて防御が高ければ盾役としてなんとか成り上がれそうなもんだが。
「まぁイズハさんのステータスなら残り2つの依頼もなんとかなるでしょう。私はご飯の用意してますから、あとはお任せしますね」
どうやらリリーは完全についてこない気でいるようで、晩御飯の準備に取り掛かろうとしている。いやさっきステーキ食ったろ。
「リリーも着いてくるか? 雑魚倒してレベル上げすれば強くはなれるだろう?」
リリーが驚いて顔を上げたが、その表情は少し暗い。
「え! ……いえ、遠慮します。私のステータスではゴブリンですら倒せるかどうか」
「俺が魔物倒して、お前のレベルを上げるっていうのはできないのか?」
「そりゃあ確かに同じパーティですから、イズハさんが魔物を倒せば私のレベルも上がりますけど……」
「なるほど、それじゃまるで成果を横取りしているようで申し訳ないと」
これまた真面目と言うか何というか……まずレベルを上げないとしょうがないだろうに。
「あんまり人の心を勝手に読まないでくださいよ」
「仕方ないだろ聞こえたんだから。それに別に成果なんて俺はどうでもいい、むしろお前のレベルを上げないと万が一の時が不安で仕方がない。俺がこの世界で頼りにしてるのはお前なんだ」
「私を頼りに、ですか?」
「当たり前だろ? リリーは俺の唯一の仲間なんだから」
リリーのポンコツさ加減には呆れているが、持ち前の知識と純粋な性格は十分信頼している。
……それにリリーの境遇になんとなく俺と近いものを感じている、少しだけ。
「リリーの知識があったから薬草採集もあんなに早く終わったんだ、十分頼りにしてる」
リリーはしばらく固まっていたが、表情がだんだんといい笑顔に変わっていく。
「……分かりました! 存分に頼ってください!」