長文タイトルでチートになろうと思った件についてですが何か? ①
ちなみに私は長文タイトルとかチートとか大好きです
リリーのオススメの店“マンドラ亭”は、他の店と比べると年季が入っているというか古ぼけていて少し狭く、来ている人も他より少ないように見える。頼むから味のせいとかでなく時間帯が悪いだけであってほしい。
「イズハさん、こっちですよ!」
リリーはいつの間にやら空いているテーブルを確保していた、といってもほとんど空いてるけど。
言われるままに席に着くとパタパタと店員らしき女性が水を持ってやってきた。見た目から察するに大体20代後半だろうか、癖毛と豊満な胸の元気なお姉さんといった印象だ。
「あらリリーちゃん、久しぶりね!」
「ファイナさん! えへへ、ちょっとお金に余裕ができたので!」
顔なじみなのはそれだけしょっちゅう通っているからか、それとも客の出入りがよろしくないからか。
「お金に余裕ってことはいつものアレね? ところでこの子は誰? ひょっとして彼氏さん!?︎」
「違いますよ、私の頼もしい仲間です!」
「どうもイズハです、リリーとパーティ組んでます」
「あら、せっかくリリーちゃんにも春が来たと思ったのに。お姉さん残念」
くっそどうでもいいところでこの世界にも四季の概念があることが判明した、言い回しだとかも元の世界と大差ないようだ。
「もー! 私とイズハさんはそういうのじゃないです! そういうのは自分で見つけますから! ほっといてくださいよ!」
「でもピッタリだと思うけどなー、いつもバタバタしてるリリーちゃんとこの状況でも冷静に水を飲むイズハくん」
この状況というのはどっちのことだろうか。リリーが騒いでいる方か、それとも俺の目の前で豊満な胸がユサユサと重そうに揺れていることだろうか。
チラチラ俺の顔を見ながら含みのある笑みを浮かべているあたり狙ってやっているようだ、引きちぎってやりたいが食事前に血を見るのは嫌だから我慢してやるけど。
「ファイナさん! イズハさんを誘惑しないでください!」
「ごめ~ん、つい癖で!」
癖ってなんだ、痴女なのか。ちなみにリリーも透視で見た限りでは結構ある方だが、少なくとも元居た世界では巨乳に分類される方だと思われる。
なんで見たのか? いつも人に会ったら武器やカメラの所持を警戒していた頃の癖だ。性欲は無いことはないがこれは決して私欲のためじゃないぞ。
「リリーちゃんまたバタバタしてる~」
「バタバタしてませんよ!」
「してるだろ、現在進行形で」
「してませんったら!」
リリーがバタバタしながら否定する、だからその手と足をやめろってのに。
「とりあえず埃が立つからお前は動くな、動きがうるさい」
「ほらほらピッタリじゃない、パーティから始まる恋だって珍しいものじゃないし!」
(でもこの子私のおっぱい攻撃に全く反応しなかった辺り純粋か慣れてるかどっちかね。慣れてるんだったら私が犠牲になってでもリリーちゃんを守らなきゃ、純粋なら先に私が色々女の子の悦ばせ方を指南してあげなくちゃ)
今日の昼に出会って組んだばかりだぞ、始まるにしても唐突過ぎるだろ、刷り込みか。
そんでリリーを守るとか言ってるけど単に自分が食べたいだけだろ、欲求不満か。
うんざりして目を逸らすと、壁にかかった黒板に色々メニューが書いてあるのが見えた。
左からマンドラステーキにマンドラオムレツ、マンドラフライとマンドラ……ってどんだけマンドラ推してるんだ、まぁマンドラ亭だし仕方ないといえばそれまでだが。
あまり腹が減っていないのでとりあえずマンドラスープとかいうのでいいか。
「俺はマンドラスープで」
「はいはい、リリーちゃんはいつものでイズハくんはスープね。どうやらリリーちゃんの方が随分食いしん坊さんみたいね?」
「そうみたいだな、まだ昼食を済ませて3時間ほどしか経っていない気がするけど気のせいかな」
「むぅーっ! いいじゃないですか! 美味しいものを美味しく食べるくらい!」
リリーが完全にヘソを曲げてファイナに背を向けてむくれる、子供かな?
「あらら、からかいすぎちゃったかな? お肉少しオマケしてあげるから、ご機嫌直して?」
「本当ですか!?︎」
言われた途端目を輝かせてファイナに向き直る、だから子供かって。
ファイナが厨房に戻っていってしまい暇になったので、料理が来るまでの間にリリーに色々教えてもらうことにした。
「そういえばイズハさんはまだ無職でしたね、一応“天職”は授かっておいた方がいいと思いますよ?」
「冒険者はお前が言うその天職とは違うのか?」
「違いますよ、冒険者はあくまで“職業”ですから、“天職”によって授かったスキルなどを活かした仕事を“職業”というんですよ」
スキル? あぁアレか、あのチョイスとか加減を間違えたら一気にクソみたいな展開になるアレのことか?
まぁ俺の超能力は既にクソみたいなチート性能な訳だが。
いや待て、なんだ「展開」とか「チート」って、漫画とラノベの見過ぎだ。
「まずは天職についてですが、神殿にいって最初に適性検査を受けるのが一般的です」
(ってこれも本来ならギルドとかで説明してほしい案件なんだけど……)
申し訳ない、俺が無知なばっかりに。ただ責めるならあの受付嬢を責めてくれ、その時は俺も加勢するから。
「受けなくてもいいのか?」
「受けなくてもいいですが、前にも言ったように人にはそれぞれ適性がありますから受けておいた方がいいと思いますよ、タダですし」
「その適性っていうのがそもそもよく分からんのだが」
「まぁいわゆる能力値の伸び方ですね。……まさかステータスの見方すら説明されてないとか?」
やはりあったかステータス、絶対あると思ってたんだ、なろうならもはや言うまでもなくある。
ん? 「なろう」? なんの話だ、俺はこれ以上何になろうとしてるんだ? 神ぐらいしか行き着く先が見当たらないが。
ステータスのことなど当然教えてもらっていない、リリーも俺が答える前に察したのか額に手を当て溜息をついた、誰だってそうなるか。
「はぁ……なんなんですか、あの受付さん。とりあえずギルドカードを出してください、そんで名前の所に触れながら「表示」と言ってください」
言われたままに言ってみると、カードの面が渦巻いて何やら色々な文字が浮かび上がってきた。
左上からHPとMP、恐らく“体力”と“魔力”といったところだろうか。
そして下の枠には“攻撃・防御・魔導・魔抗”の四つが表示されている。
攻撃と防御は大抵のRPGで見たことがある。しかし後の2つはあまり見かけないな、流れ的に“魔法攻撃”と“魔法防御”だとは思うが。
そしてその四つとは別枠に書いてある“力・耐・賢・魔・速・愛”の6文字、これらは一体何を表しているんだろうか。
「えっとですね、その6つがステータスの基礎になっています。まず“攻撃”は文字通り相手に与えるダメージのことで、“力”の数値と“速”を半分にした数値を合計したものが“攻撃”の数値になります、そして“防御”は“耐”の数値と“力”の半分の合計で物理的なダメージを軽減してくれます」
うーむ、拭えぬゲーム感。分かりやすいっちゃ分かりやすいけど、とりあえずちょっとだけ凝ってみたというか、小学生が頑張って考えたシステムみたいだな。
「それで最後の“愛”はちょっと他とは違ってですね、回復魔法や補助魔法の性能が数値の分だけ上がるんです」
「数値の見方はどうするんだ?」
「カードを手でこう、拭く感じで一回撫でてください」
リリーの言う通りにカードを撫でるとさっきまで文字が表示されていた部分が数字に置き変わっていた。
イズハ・フカシギ 無職
Lv,10
HP1000000
MP10
~戦闘能力~
「攻撃」:150000
「防御」:150000
「魔導」:100025
「魔抗」:100025
~基礎能力~
「力」:100000
「耐」:100000
「賢」:100000
「魔」:50
「速」:100000
「愛」:50
……ナンダコレ?
待て待て待て! 嫌な予感がする、どうみても“異世界に転生したらなんかとあるチート能力を手に入れちゃってハーレムになった件についてですが、僕なんかやっちゃいました?”を引き起こす能力値だろこれ!
ふざけるな! もうチートは持ってると言うのにこれ以上増やしてどうする!
頭を抱えて悶えつつも、俺は冷静に今までそんな素振りを見せていなかったか振り返ってみた。
まずい、「僕なんかやっちゃいました?」は既に通過している、恐ろしく硬い鉱石を気付かずにデコピンで壊すというトンデモ行為を!
俺の頭の中はたちまち『ハーレム』と『なんかやっちゃいました?』に埋め尽くされ、平穏な日々という希望が崩れ行く現状に頭を抱えた。
「嫌だ嫌だハレームなんてまっぴらごめんだ俺はただ超能力をひた隠しにし続けるストレスから解放されてちょいちょい力を使いながら笑いあり涙ありの人間らしい日々をの過ごすだけでよかったのにどうしてそうなる……」
「怒涛の早口!? イズハさんしっかりしてください!」
「あぁ悪い、少し絶望してただけだ。……ところで、このステータスというのはレベル10だと、普通ならどのくらいなんだ?」
そうだ、まだ俺が異常と決まったわけじゃない。ひょっとしたらレベルが1上がるごとに1万上がるのが普通かもしれないし……自分でも何をバカ言ってるんだと思うが、その可能性に賭ける!
「そうですねぇ、伸びが普通と判断されるのは大体5くらいですから、大体50くらいじゃないですか?まぁ私は「愛」の伸びだけは異常なので今レベル12で240になっている訳ですが!」
「1レベルごとに20上がるだけでも異常なんだな。なるほど分かった、もうどうとでもなれ」
俺は頭を抱えるのをやめて天井を仰いだ。案の定異常であることが分かった以上もうどうしようもない、もうどうでもいい。
「イズハさんももったいぶらずに見せてくださいよっ!」
「はい、俺のレベル10のステータスをとくと見やがれ畜生」
「さっきから情緒おかしくないですか? まぁステータスは見ますけど。えーっと……ん? え? は?」
リリーは2、3度目が発火しそうなほどに擦って俺のステータスを見直し、そこからは微動だにせず石像と化してしまった。
そこでタイミングが良いのか悪いのか、おっぱ……ファイナがステーキとスープを持ってきてくれた。
「二人ともー! 仲良くお喋り中にゴメンなさーい……あら? リリーちゃんが……死んでる」
リリーがゆっくりとカードを持った左手だけを動かしてファイナに俺のステータスを見せる。
「あら、イズハくんのギルドカードじゃない? ステータス見ても良いの?」
「……ダメとは言いませんが先にその二つを置いてください、そして椅子に深く腰かけてゆっくり慎重に見てください」
そうして完成した二つの石像の前で俺は途方に暮れた。
「俺なんかやっちゃいました? ってか、あー笑える」
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