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受付嬢はダーティ

 20件中18件の依頼を終え、町に戻った俺とリリー。ギルドで依頼されていたものを全て納品するついでに、とある人物を問い詰めることにした。


「こんにちは、依頼品の納品でしたら向こうの窓口をご利用ください」

「その前に色々聞きたいことがあるんだよ、アンタに」

「申し訳ございません、今は勤務中ですので私個人に対する私的な用事は勤務時間外にお願いできますか?」

(やべ、多分依頼のことで文句つけにきたなこいつら。勘弁してくれよメンドくせーな)

「それがさほど私的でもないんだよ」

「あなたの勤務態度でちょっとお話ししたいことがあるんです!」


 俺はすっとぼける受付嬢を捕まえて、最初に連れてこられた部屋にテレポートで強制連行した。


「うわ、アンタこんなこともできんかよ。ホントすげぇな、で何の用?」

「逆に何の用だと思う、呼び出される筋合いなら色々あるんじゃないか?」

「しらねぇよ、せいぜいあんたにランクについて何も教えなかったこととか、超高ランクの依頼をしれっと混ぜたことぐらいしかねぇよ」

「バッチリ自覚あるじゃないですか!」


 リリーが怒鳴るが一向に恐れ入った様子もなく、表情一つ変えずに続ける。


「いやアンタならいけそうだなって。だってあの鉱石をしかも高純度の塊を指で砕くってヤバイじゃん、絶対Sランクでも余裕でしょ」

「……何やったんですかイズハさん」

「いや頭ぐらいのコレの塊をこう、指でピンって砕いたら凄く褒められた」


 そう言ってポケットからあの時ついでに貰っておいた破片をリリーに見せると、分かりやすく顔の色が青く変わっていった。

 リリーが俺の指を引っ掴み、まじまじと観察し始める。


「本当に大丈夫ですか⁉︎ 指の関節とか爪とか感覚あります⁉︎ 今握ってるの分かります⁉︎」

「わかるわかる、ってか今普通に動いてるから大丈夫だ」

「ホントバカップルだなアンタら、わざわざイチャつくとこ見せに来たの?」

「まだカップルじゃありません!」


「まだ」ってなんだ「まだ」って、どうやらパニックになっているらしい。

 パニックのあまり俺の指を握ったまま放心してしまったリリーをメインフロアに置いてきて、二人だけで話を続けた。

 実は前にこの女と話したときに少し気になる情報がテレパシーで聞こえてきたのだ。



「他にも何か話してないことがあるんじゃないか?」

「へぇ、流石に鋭いねアンタ。名前なんてったっけ?」

「イズハだ、何度も聞いてるだろ」

「生憎興味ない人の名前は覚えない主義でね、アンタは覚えといてやるよ。ちなみにアタシの本名はアンジュ・スライ、覚えといて損はないよ」


 アンジュはタバコのようなものに火をつけながら言った、表情は接客時の穏やかな笑顔のままなのが不気味さを助長する。


「生憎俺も同じ主義でね。それで、隠していることを教えてもらおうか?」

「この国じゃ違法だからおおっぴらには言えないが、闘技場って知ってるかい?」


 そう言ってニヤリと笑みを浮かべる、どうやら詳しく知りたきゃ金をくれと言いたいようだが、そうはいかない。


「……なるほど。このギルドの地下深くの魔法陣からそこにワープできて、そこで他の冒険者と勝負して勝ったら相手のランクと自分のランクを入れ替えること、もしくは相手から多額の賞金を貰える訳か」


 彼女は初めて接客用の優しそうな目を見開いた。


「驚いた、アンタ人の考えてることも読めるのか」

「本当はお前の口から聞きたかったが、生憎金に困っててね。銀貨十五枚どころか一枚だって払えないんだよ」


 アンジュがせびろうとした金額までズバリ言い当てると、観念したように首を振った。


「そこまで見抜かれちゃ仕方ないね、でも流石に情報持ち逃げは酷いんじゃないか? この情報も本来表には出せないんだから、せめてアンタが何者かくらいは教えて欲しいもんだね」

「俺は異世界から来た超能力者だ。他人の心や未来を読んだり、相手がどこにいようがその場から動かずに潰したり燃やしたりできる」

「それはアタシへの牽制のつもりか?」

「さぁ、どうだか。リリー待たせてるんでね、また拗ねられても面倒だ」


 そして俺は部屋を後にした。

 最初からあいつが裏情報に詳しいちょっとヤバいやつだとは知っていたが、あの清純そうな見た目からは誰が想像できただろうか。多分作者もどうしてこうなったと思っているに違いない。




 メインフロアに戻ると、やはりリリーが拗ねていた、どうやら納品は済ませてしまったらしい。


「本当二人は仲良しさんですね、良いことですよ全く。……ところでタバコ吸いました? なんか臭い」

「いや気のせいだろ」


 リリーが不快そうに顔を歪めたので、咄嗟に復元能力で服の匂いを元に戻して誤魔化す。


「イズハさん、早くご飯食べに行きましょうよ! せっかくこんなにまとまったお金が手に入ったんですから!」


 オススメの店へ行く道中も彼女はキラキラした目で小さな袋を見せびらかしてくる。


「ほらほら銀貨15枚ですよ! あ、ちなみに銀貨1枚は銅貨10枚分ですからね、銅貨150枚ですよ! ワクワクしちゃいますね!」

「あんまり金を持ってはしゃぐな、みっともない」

「だってこんな大金手にしたの久しぶりですよぉ〜! あぁこのずっしりくる感じ、幸せの重みですね……」


 袋に頬擦りしながらウットリとため息をつく。実は守銭奴なのか、はたまた浪費家か。


「普段どんな生活してるんだ……」

「あ、まさか私が貧乏だとか思ってませんよね⁉︎ この世界の価値観が分かってないイズハさんに教えてあげますけどね、この世界では1日に銅貨10枚あれば生活はできるんですよ!」

「ちなみに俺のこの服はいくらだ?」

「全部合わせて銅貨4枚ってところですかね、私のローブは冒険用なのでちょっと奮発して銀貨2枚ですけどね!」


 そう言ってリリーが広げた真っ白なローブは、冒険用にしては薄そうだが。防御面は大丈夫なのか?


「何か特別な効果でもあるのか?」

「この服は天使のローブといってですね、着用者が回復魔法を使うときに魔力の消費を抑えてくれるんです!」

「まるでお前のために作られたローブだな」

「やっぱりそう思います? 私もこれ買った時……あ、ココですココ! お肉が美味しい店!」



 どうやらリリーのオススメの店【マンドラ亭】に着いたようだ。

受付嬢さんをこんな風にしたのは誰だ!俺だった

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