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メアリー探険記  作者: Yuri
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8、老人

 私が先頭に立ち、ゆっくりと美しい装飾がされたドアを開ける。後ろに続くエドワードは慣れたもので、すぐに武器をとれるように準備をしていた。アスカはエドワードの傍にいて、彼の裾を軽くつかんでいる。


 ほんの少しひらかれたドアの向こうに見えたのは、アスカの言ったとおり、一人の男性がいた。安楽椅子に座り、ゆらゆらとゆっくり揺れている。ときどき、その椅子のきしむ音がした。


「……!」


 そして私はその他にも音を聞いた。アスカが聞いた音である。ぽろん、ぽろんと音がする。私はそれが分かると、「あ」と声を出していた。


「オルゴール……」

「おい、メアリーっ」


 後で止めるエドワードの声が聞こえたが、私は、迷うことなく部屋に入り、その男性の視界に入っていた。やせ細った老人の前に。


「……!」


 彼は驚いているようで、視線が定まっていないようだった。


「なんと…神は私の元に最後のお客を贈ってくださったのか…?」


 老人はそういうと嬉しそうに笑った。


「おじいさん…あなたはなぜこのような所に?」

 私が訊ねる。だが彼はその問いには答えず、逆に質問をした。

「家族かね?」

「え?」

 私はどうして彼がそう言うのかが分からなかったが、よく見たら幼い娘を連れた若い夫婦に見えていたようだった。


「いえ…私たちは」

「そうですよ」

 エドワードは私が否定しようとすると、彼はアスカを抱き上げ私の傍に立った。

「そうか、そうか。長旅であったことだろう」

「……」   

 私はエドワードが何を考えているのかわからなかった。だが、すでに違うとも言えなかった。


「幸せかね?」


 老人は聞く。


「ええ」


それに対してエドワードが平然と答える。こういうことに関して、私は上手く答えることはできない。仕方なくエドワードに任せ、私はただ黙って聞いていた。


「綺麗な奥さんだね」

 老人はまるで眩しいものを見るかのように、目を細めた。

「僕にはもったいないでしょう?」

「いいや」と老人は首を横に振った。「お似合いだよ」

 エドワードはさり気なくアスカにフードを被せた。彼女は金髪碧眼の私とも、金髪に灰色の目の彼とも似ていないからだ。


「ここのお屋敷には他に誰かいないのですか?玄関でお声をおかけしたのですがお返事がまるでないんです」

「それはすまなかった。何分ここに私以外の人が来ることがないものだから、エントランスから離れた部屋にいても平気だと思ってここにいたんだ」

 すると老人は悲しそうな顔をした。白髪の髪に、青色の瞳。小さな顔に大きな鼻が目立つ人は言った。

「それでも昔は…ここに多くの人が集まる別荘だったんだよ」

「だった?」

「そうだよ」

 そう言って彼は遠い先を見るように言った。

「昔はよくここに沢山の人が来ていた」

「……」

「しかし、こんなところに来る人はだれ一人としていなくなってしまった」


「なぜです?」


 と私は聞いた。


「可愛い奥さん、こんな不便な土地に誰が好んで来るかね。今の時代、すぐ近くにお店があって、なんでも買うことができる。便利なものも、おいしいものもなんでも」

「でも、おじいさんはここにいます」

 老人は力なく微笑んだ。

「私はここが好きだからね」

「ですが一人でいるなんて…寂しくないのですか?」

「ああ」

 老人は遠くを見るように目を細めた。

「とても寂しいよ」

「……」

「ある時までは私の息子達も親戚も来ていたんだ。だけど、それが少しずつ減っていってね。随分前にもう私と妻以外は来なくなってしまった。そして二年前までは妻とともに来て、毎年掃除もして、質素ながらも料理とプレゼントも用意していたんだ。子どもたちのためのプレゼントと、私の妻のためのをね」


「渡せないのに?」


「ああ。でもマリアにはあげたよ。一年に一度のプレゼントをね」


 マリアとはきっと彼の奥さんの名前なのだろう。感慨深くなったのか、彼は自分の妻の名前を愛おしそうに呼んだ。


「では、奥さんは?」

 ただ、二年前という言葉が気がかりだった。そして、彼が答える言葉は予想するには簡単であった。

「亡くなったよ」

「…そうですか」

「微笑んで天国に行ってしまった。それからだね。私ももう歳だから、ここで人生を終えようと思ったのは」


 彼は立ち上がると、ゆっくりとおぼつかない足取りで窓のほうへと歩いた。

 そして手には何やら美しいクリスタルのようなものを握っており、それを大切そうに両手で持っている。


「何を考えているんです?」


 エドワードが言った。

 それは私も聞きたい。

 彼は本当にここの所有者だったのだろう。だが、政府が確認したところでは、もうすでにこの別荘の持ち主はいないことになっている。こんなに愛おしくこの建物を想っているのに、なぜ手放したのかが気がかりだった。

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