表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メアリー探険記  作者: Yuri
7/16

6、潜入

私たちは、建物の目の前に立った。

 五階建の大きな屋敷。コンクリートで固められた灰色の壁が、私たちの前に立ちはだかる。

 壁の所々に装飾がされているのが、壁についた雪の盛り上がりで分かる。ただ、何をかたどったのかはわからない。そして、窓には吹雪の際に雪が吹きつけられたのだろう、窓のほとんどが覆い隠されている。そのためセドリックが窓から中を確認してきた跡だけが少し見えた。 


「……」


 私はこの建物を目の前にして、ある感情が強くなっているのを感じていた。

 それは、寂しさ。

 ここに来る道中でも風景に寂しさを感じたのだが、何故かこの建物を見るとより寂しさがこみ上げてくる。それはここに白と灰色という二色の色しかないことが原因なのだろうか。


「では、行きましょう」


 朝美は言った。それぞれが、慎重で真剣な面持ちで中に入ってゆく。私はアスカが緊張で生唾を飲む音を聞いた気がした。そしてここに入った仲間は、みんなちりじりに散った。

 それから暫く歩いたが、私を含めて七人が入ったというのに静かである。建物が大きいせいかもしれない。


「なんだか悲しい建物だな」

 ふとエドワードがそんなことを口にした。

「なに、突然」


 私たちは四階の担当だった。彼は、四階にある三部屋目を見終わった後に、そんな言葉を漏らした。当然、何を言っているのか、と思ったのと同時に、自分と同じようにエドワードが思っていたのが意外だった。


「今まで見た部屋、すべてベッドがあった」

「そうね」

 私はそっけなく返事をする。どうやらエドワードは私とは違うところをみて、寂しいと感じたらしい。

「部屋の装飾がやけにこっている。カーテンも、壁に掛けられている絵も、クローゼットもすべて」

「みたいね。それに人がいなかった時期が長かったにしては、綺麗に片づけてあったけど。それが?」

 そういうとエドワードは私に顔を向けた。真面目な目だった。

「みんな子供部屋だ」

「……?」

 私は彼が意図することがよくわからず、首をかしげた。

「ここは、沢山の子供が出入りする場所だったんだよ」

 彼は眉をよせて悲しげな表情でつづけた。


「大人にしては小さなベッドに、可愛らしい部屋。つまりここは多くの子供を持つ人の家だったか、今時期のようなクリスマスやニューイヤーを迎えるときに、家族や親戚が集まる場所だったんじゃないかって思うんだ。

 それが、いつからか使われなくなった。

 こんなに人が集まる場所だったのにもうここには人が来ない。

 人を迎える場所だったのに、もう人が来てくれないんだ。だから、悲しいって思った」


 私はエドワードをじっと見つめた。彼は感情的になるような人間ではないし、同情もほとんどしない人間だ。それなのに珍しく、ここに住んでいた人のことを思っている。そしてこの建物のことを思っている。


 でも、それは私も同じだった。


「そうね」


 今まで感じていた寂しいという感情。なぜそう思うのかはまだよくわからないが、この建物からは何かを感じる。別に霊とかそういうものは信じてはいないが、人が住んでいた場所には思いがある。

 そしてこのように秘境の地で、多くの人が来るのを今も待っていると思うと切なかった。


「私も、ここに寂さを感じるわ」

 胸の前で手を握る。するとエドワードが

「抱きしめてやろうか」

 と、ふざけたことを言ったので、

「そういうこと少しも思ってないのに言わないの」


 冷たい目で睨みながら言い返した。すると、エドワードは声を殺しながら、子供のように嬉しそうに笑った。だが、私にはなぜ彼が笑ったのか、よく分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ