5、パーティー
「行くもん」
「でもね、アスカ。あなたに危険が及ぶかもしれない。あなたに何かがあったら、リサが悲しむ」
「分かるもん」
アスカが私の手を握る手に力を込める。
「でも、行きたいもん。役に立ちたいもん」
「……」
アスカは宗平とは少し違うのだが、一度与えられた任務を取り消そうとすると駄々をこねる。それは、母親の仕事に役に立ちたいという気持ちからなのかもしれない。私は、ギオルグに言った。
「ここはデータ上は人が居ないことにはなっていますが、もしかしたら組織の人間ではない、人がすでに住んでいる可能性も捨て切れません。そのため家主などにうっかり出くわしてしまった場合は、彼女がいてくれると無断で立ち入った言いわけをするのに役に立つと思うので、連れて行っても構わないと思います。それに、なによりアスカはちゃんと私が責任を持って守ります」
「そうか」
「ですがその代わり、私の所にもう一人ついてもらえると助かるのですが…」
「だったら俺が行くよ」
エドワードが軽い調子で立候補する。
「僕でもいいよ」
エドワードに続いて、セドリックが手を挙げる。
「メアリーは人気があるね」
椎名が笑って言った。彼女の知的な黒い瞳が、不敵ににやりと笑う。
「でもエドワードの場合は、細かい雑務をしなくて済むからよ。メアリーは細かい雑務も、現場での戦いも上手いからね」
朝美はエドワードが考えていることを当てたようだった。エドワードは悔しそうに唇を突き出しながら言った。
「それじゃあ、俺じゃなくてセドリックかよ」
「あ、でも実践的なことを考えたなら、僕じゃなくてエドワードのほうがいいかもしれないね」
セドリックは、遠慮がちに言った。
「僕はそこまで射撃とかに自信はないから」
エドワードはまだ口を尖らして言う。
「だったら何で言ったんだよ」
「サポートだからね。全面的に守るのは無理だけど、メアリーのサポートならできると思ったんだ」
エドワードはセドリックの言葉を噛みしめながら、難しいことを無理して理解しようとしている顔を私に向けた。
「なに?」
「どっちにすんだよ」
エドワードは私に決めろという。
「決めるのは私ではなく、リーダーであるギオルグだわ」
私はエドワードに言った。
「だけど、現場で使うのはお前だぞ」
「でも…」
私は困りながら、ギオルグを見た。彼は真剣そうに頷いた。
「私が最終的な判断を下すが、メアリーはどちらを連れていったほうがいいと思う?そこは確認しておきたいところだ。お前はいつも物事を冷静に見る力を持っている。私が一人で決めるよりいいかもしれない」
私はギオルグをじっと見た。それでいいのだろうか。
「どうするんだ」
エドワードは早く決めろと急かす。私は彼を一度睨んでから考えていることを言った。
「そうですね…。私はエドに同行してもらった方がいいと思います」
メンバーは皆意外そうな顔をしていたが、一番驚いていたのはエドワード自身だった。私は理由を続けて述べる。
「セドリックは自分で言うほど射撃の腕は悪くないです。むしろ、かなり正確に目標を撃つことができると思います。エドはその点正確さに欠けますし、的にきちんと当てるのは下手だと思います」
途中でエドワードが、私に突っかかろうとするが、ザックスがそれを抑え「まあ、まあ」となだめる。
「ですが、今回はアスカに危険を及ばないように、ということなので、危険をまるで犬のようにキャッチできるエドワードのほうがいいと思います。彼は判断が早いし、行動も速いし、力もある。それがアスカの安全を考えたときに一番良い策だと思います」
「犬…か。なるほどな」
私が言い終わると、ギオルグも同じ意見だったようで、エドワードが私とアスカと行動を共にすることになった。メンバーが一時作戦の最終を確認するためにバラけた時(何故か皆笑っていた)に、エドワードが私に近づいていった。
「犬ってなんだよ」
私の発言に聞き捨てならない言葉があったらしく、エドワードは私に吠えたが、
「そのまんまの意味よ。否定する要素なんて一つもないじゃない」
というと俺は犬と同じかよ…とエドワードはしょげていた。