表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メアリー探険記  作者: Yuri
4/16

3、役割

「どうするの?」


 車に戻ってきた私に、アスカが尋ねた。


「さあな」


 すると宗平がそっけなく答える。本当は会議に参加したかったのだろうが、私に念を押されてまでここにいろと言われたので、拗ねているのである。彼は窓越しに外を見ていた。

「宗平に聞いているんじゃないもの」


 アスカはあたりまえでしょ、という感じでいう。

 彼女は一度言ったことは二度言わない。何度も聞くとうるさいといわれるからだ。大人たちが返事をしてくれたならば、ラッキーだし、返事が返ってこないのなら黙っている必要があるのだ、と思っているのである。それに本当に伝える必要があれば、ここの大人たちは子供に対してでもきちんと向き合って話す。そしてそれをここにいる子供達は、皆分かっている。


「呼び捨てにすんなよな」

 宗平は見た目は大きいお兄さんだが、中身は子供である。

「メアリーはそんなこと言わない。朝美だって、ザックスだって、椎名だってそうよ?何で宗平だけそんなことにこだわるのよ」

 宗平は八歳の娘に色々言われて嫌そうな顔をしていたが、

「俺のところはそう言う文化なの。年上なら名前の後に〝さん〟ってつけるんだ」

 と、珍しくまともに答えた。

「そうね」

 私は宗平が少しかわいそうになったので、作業をしていた手を止めてアスカに教えてあげた。

「宗平の母国ではそれが礼儀なのよ。ね?」

 私は宗平に同意を求めた。すると彼は嬉しそうに笑った。

「そうです」

「朝美も同じ国の出身みたいだけど、あの姿を見れば分かるわよね。彼女は三つの国の血が混じっているから、そういうことは気にしないのかもしれない。でも、自分の文化とかを大事にできる宗平は素晴らしいのだと思うわ」

 私がそう言うと宗平は照れくさそうに笑ったが、

「でも、ここではそういうことを持ち出さないほうがいいんですよね」

 と、少し悲しそうに言った。彼もそういうことでつっかかることはよくないことは、分かっているのだろう。

「そうね」

 私も困った風に笑った。

「だからね」

 とアスカに向かって言う。

「宗平がそういってもあまり怒らないであげて。周りの大人がみんな宗平よりも年上だから、〝宗平〟、〝宗平〟っていうけれど、あなたたちがそう言うのは慣れないみたいだから」

 アスカはしぼんだ花のようになっていたが、

「分かった」

 と言った。自分の行為が悪いものだったと反省しているようだった。

「文化が違うから、アスカが落ち込む必要なんてないわ。宗平のことも大切にしてあげてってことなのよ?」

「……分かった」

 アスカは頷いた。

「仕方ないからそういうことにしておく」


 そしてぱっと顔を上げて恥ずかしそうにしながら言うと、そーへいさん、と彼のことを呼んでみた。宗平も彼女の心遣いが分かったのと、彼女の言い方が新鮮でくすぐったかったようで笑っていた。


「さて」と私は二人に言った。「作戦を開始します」


 すると二人の顔が瞬時に引き締まる。さすがだな、と思った。光の息子宗平と、リサの娘アスカ、あと今回一緒に乗ってきた二人の子供は、椎名の息子たちである。しかし彼女の息子たちは何とタフなのかいまだに起きないし、起きる様子もない。


「まあ、この子たちは寝ても、寝ていなくても置いていくつもりだから。アスカは私と一緒に行動」

「ラジャー」

 アスカは頼もしく返事する。こういう状況には慣れっこなのだ。それに加え自分が役に立つことが嬉しいようだった。

「そして宗平は」

 彼は自分に訪れるチャンスを待っている顔をしていた。だが、私が言ったことは彼を失望させたようだった。

「残って頂戴」

「なんで!?」

 彼の表情は引きつっていた。彼はこの仕事についてから、まだ一度も現場に潜入させてもらったことがない。それが不満なのだろう。

「アスカはよくて俺がダメな理由はなんですか?」

「アスカはカモフラージュ。相手を油断させるための」

「そんな、危険だ!」

「今までだってやってきたことだわ。知っているでしょ?こんなのはしょっちゅうあることよ。リサにも許可はとってある」

「だからって!」

「宗平、聞いて。あのね、あなたがここにいないと作戦は始まらないのよ」

「へっ?」

 険しい顔をしていた彼はその言葉にふっと、表情を緩めた。

「あなたの役割は二つ。ギオルグの合図と同時にこの車の移動と、外部の状況をトランシーバーで私に伝えて欲しいの」

「え……あ、はいっ」

「ギオルグは私たちが出るときを見計らって合図を出すから、彼の指示通りに車を動かすの。そして外の状況を伝えるときは、私が外の様子を知りたいときと、外の様子が少しでも変化した場合。雪は落ち着いているけど、いつまた吹雪くかもわからないし、それ以上に何が起こるか分からない。だからこそ、正確な情報が欲しいの、分るわね?」


 私はじっと宗平を見た。彼は少しの間ポカンとしていたが、だんだん私が何を頼んでいるのかが分かると、顔が紅潮していった。自分の発言を恥じているようだった。


「分かります」

「それから椎名の子供たちもお願いね。彼女は車で待機しているグループだけど、忙しくてここには来れないと思うわ。ただ、あなたと役割は同じのはずだから、分からないことは聞くこと。いいわね」

「了解です」


 私は彼の任務を担った充実感を感じている顔を見たら、嬉しかったのかもしれない。自然と頬が緩むのが分かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ