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メアリー探険記  作者: Yuri
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2、作戦会議

「こんなに大きいものだったかな…」


 今回結成されたチーム(といってもいつもほとんど同じ)のリーダーであるギオルグが、ある意味感嘆の声で、だが不安そうな声でいった。だが、それはマフラーで口が隠され、くぐもった声だったからそう思ったのかもしれない。なにせ防寒具で顔をぐるぐる巻きにされた中で露出されていたのは、細い眼と赤い鼻だけだったから。


 私はチームの先頭を走っていたが、トランシーバーで報告した後、少し道を戻り後続と合流した。ランクルは六台あって、必ず一つの車には二人の人が運転席と助手席に座っている。うち、二台にはめいいっぱいの生活用具と医療道具が詰め込まれており、内一台には武器と燃料。残りに人とその他に詰められるものが入っている。


雪はここに来る道のりよりも随分落ち着き、やわらかく降っていた。しかし寒さは変わらない。とはいえ、燃料の無駄を省くために車のエンジンを止め、その車ごとの代表者も集まった。


「そうね、こんなんだとは聞いていないわ」


 ルージュの口紅を塗りながら朝美は言った。ニット帽から薄茶色の髪が少し見える。スカイブルーの瞳がこの場所とよく似合っていたが、名前とはあまり似合わない。

 彼女は低い大人の魅力的な声で発言をつづけた。

「情報が違っていたのかしら?」

 今度は色見の薄いサングラスをかけた、体格のいいザックスが言った。

「道を間違えたとか?」

 彼はあまり寒くないのか、ジャンバーを羽織り手袋をかけているだけだった。

「でも、こんな雪の中に建物なんて、そんなに沢山あるものかな?」

 セドリックが言った。彼の顔は寒具でほとんど隠れてはいるが、声はいつもと変わらずよく通る。

「確かになあ…」


 ザックスが答える。彼は体格と少々強面の顔とは少し違っていて、性格は素直で単純である。そして自分の意見にはあまり執着しない。元々、頭で考えるよりも勝手に体が反応する方が向いているのである。

「では、やはり間違っていないのでは?」

 最後に口を開いたのはセナである。彼は寒そうにして、冷えた風にさらされた頬が赤くなっていたため、私は見かねて、彼に自分のマフラーを巻いてあげた。

「あ、すみません。ありがとうございます」

 するといつもは冷静沈着な彼はもっと顔を赤らめた。マフラーを貸さないほうがよかったのだろうか。

 その時、セナはぽそっと呟いた。

「温かい…」

 私は一言もしゃべらなかったが、彼は嫌そうではなくむしろ嬉しそうだったので、そのままにしておいた。


 私よりも五つ歳下の彼は、データー収集がうまいのでいつもこの会議に出される。本当は彼と一緒に乗っているエドワードのほうがここに集まるべきなのだが、話し合って決めることは面倒なようで、そういったことはセナに任せっきりなのである。そして多分エドワードはマフラーは持ってきているかもしれないが、出すのが面倒でセナのものを借りたのだろう。悪い人間ではないが、時折メンバーに面倒をかける。


「寒いわよ」

 そう言って私の傍に来てくれたのは朝美だった。彼女は貸してしまった私のマフラーの代わりに、自分のネックウォーマを貸してくれた。

「大丈夫よ」

 と言いつつも、彼女が今までつけていたそれは温かかった。

「いいから」

 彼女は私よりも四歳上である。いつもやることに口出しはしないのだが、いつもさりげなく助けてくれる。それが彼女の優しさである。

 するとそれを見ていたギオルグは朝美に、わしのを使うか?と言ったが、朝美は当然、結構です、と言っていた。ザックスはそれじゃあ、俺のだったら受け取る?とかいっていたが、朝美に、馬鹿じゃないの?と飽きられていた。


「それじゃあ」と脱線気味の会話を私が戻す。「入りますか、あの屋敷に」


 あの建物は〝屋敷〟…そう言うのにふさわしかった。灰色がかった壁が上にも横にもそびえている。まるで主人に忘れ去られた今でも、忠実に待ち続ける犬のようでもあった。


「そうだね。それが仕事だし」

 セドリックが言う。メンバーはみんな頷いた。

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