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メアリー探険記  作者: Yuri
2/16

1、灰色の空

 これは、私が無使用建築物探検家として、様々な地を探索した記録の一つである。

 このとき行った探険は、ちょうど十二月だった。

                      Ⅰ

 車内のフロントガラス越しに少し見上げると、灰色の空だった。その中から白いものが降ってきていた。雪だ。しかしすでに激しく降っており、視界は悪い。それだけでなく、通っている場所が山道なのでどこを見ても真っ白である。


 木を切る業者がよくこの地に足を踏み入れていたようだが、近頃は誰も足を踏み入れないので、雪が積もり道という道がない。

 私たちのチームはみなランクルで移動していたが、道が悪いのに無理やり進んでいたため、車内で頭を打っている人もいた。


「いって!あたたたた……」

 助手席に座っている宗平が声を出した。彼は痛そうに頭のてっぺんをなでているようだった。

「大丈夫?」

 運転席から私が義務的に声をかける。道が悪すぎて彼のことをきちんと見ることはできなかったが、そんなに痛手でなさそうなのは声で分かっていた。

「ホント痛いんですよ。この道なんとかならないですかね」

「そうね」

 私はそれだけ言うと運転に集中する。

「それだけですか?」

 宗平はそれしか言わない私に物足りなさを感じたのか、そのように答えた。私は彼を横目で見ると二言だけ言った。

「舌噛むわよ。話したかったら、後の子供たちでも起こして話しなさい」

 私が運転するの車には、三人の六~九歳の子供たちが後ろの席で毛布に包まれて眠っている。だが、この揺れにもびくともしない。

 彼はちらりと子供たちを見たが、すぐに目の前の道なき道を見た。

「……ちぇ」

 彼の残念そうな態度を感じると、私は少しほほ笑んだ。


 現在二十七歳で十一年も経験を積んでいる私は、こういう現場で黙っているのは得意だ。元々話さないし、作業に集中する方が好きだから。だが、まだ十八歳の彼を見ていると微笑ましかった。自分の父親の家業に憧れて、私と同じようにこの世界に入ってきた青年。沢山のことを見て聞いて、学んで、早く立派な無使用建築物探索家になりたいと思っているのだろう。だから、何かきっかけを作って私と話そうとしているのだが、前述した通り残念ながら私はお話は得意ではない。


 しかし彼は、この世界に入ってきてまだ三か月だ。焦る必要はない。それにあと少ししたら、ローテーションをして私の隣ではなく、他のベテランの探険家の助手席に乗るだろう。そうすれば、色々なことを話せるはずだと思った。


 無使用建築物探険家。私たちの家業はそう呼ばれている。


 私たちは世界中にある、使用されていない建築物を探すのが仕事だ。だが、何故そのような仕事があると言えば、使われていない建築物にてよからぬことを起こす人間がいるからである。人が使っていない建物及び、施設を利用した組織の創設の阻止。そのように言ったほうが分かりやすいだろうか。だから、私たちは外側では探険家とか、そんな風に言われているが、実は正式に政府から命令を受けて動いているのである。


 今回は北の大地にて、使われていない建物があるため、それを見てきてほしいと言われた。私たちの仕事はほとんど探索であり、破壊ではない。実際にそこに人が住んでいるのか。住んでいるのならば、それらの人物はどういう人物なのか。それを確認するのが仕事なのである。ただ、緊急を要する場合は、突入し早急にその組織を破壊する場合もある。つまり、危険な仕事でもあるわけだ。だが、私たちが他の組織とは違うのは十五人前後のメンバーに子供連れで行動するというところだ。それはある意味で、相手を油断させるためでもある。


 そして、十歳前後の子供たちはすでにこの仕事がどういうものかを知っており、危険時にはどのようにすればいいのかわかっている。また、私たちが使っているランクルは特殊で、必ず子供用の非難用シェルターがある。そのため相手がとんでもない爆弾を持ち込まない限り、彼らは安全である。本当に危険であると最初からわかっている場合は、現場に連れていくことはないのだが、探険家とかいう家業は子供と親が離れ離れになってしまう時間が必然的に多くなってしまうため、子供を連れていきたいと思っている親は、普通に現場に連れてくる。そしてそれが政府が掲げている教育方針により許されているのだ。

 ただ、私だったら連れてこないと思う。それはある意味で子供が人質としてとられても任務を優先させろ、と言っているようなものだ。もちろんチームにいる子供は全力で守るが、それが自分の子供だった場合冷静でいられるか分からない。まあ、私は自分に子供がいないどころか、そもそも結婚すらしていないのだが。


「……った!」


 あまりの道の悪さに、一度大きく揺れた。すると、とうとう三人の内一人が起きたようだ。ウェーブのかかった茶色い肩まである髪に、好奇心旺盛な黒い瞳のアスカである。アスカは助手席のヘッドレスにしがみついてしばらく寝ぼけていたが、何が見えたのだろうか、


「なにあれ!」


 彼女は突然目の前の何かを指差し、エンジン音に負けない大きな声を上げた。

「なに?」

 私は、彼女の指の先に見えるものを見ようとした。しかし、私の目にはまだ映らない。

「いででっ」

 宗平はアスカに自分の髪をつかまれているようで、先程とは違う痛みを訴えていた。

「アスカ、何が見えるの?」

 私は真っ白い世界の中で彼女が何を見ているのか分からなかった。もう一度目を凝らす。

「ほら、まえにあるよ!白いけむりのなかに、大きなたてもの!」

 アスカは喜んでいた。彼女が喜ぶたびに、宗平は髪を引っ張られていたようだが、それどころではない。トランシーバーで私の後続に続いている仲間に知らせなければ……と思ったその時だった。目の前に大きな建物が立ちはだかった。ずっとひどく降り続ける雪を見ていたせいか、霧があったことを見落としていたようだった。

 私はトランシーバーをとって仲間に知らせる。


「こちらメアリー。目標発見です、どうぞ」


 今回の無使用建築物はこれか…。


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