p.s.帰り道での会話
帰りのランクルの中で、宗平との会話を思い出したのでここに付け足しておくことにする。
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「そういえば、ひどいじゃないですか!メアリーさん!」
私はあの灰色の建物から帰っている途中で、宗平の大きな声で起こされた。ただでさえ、今まで寝ていた椎名の息子たちが起きてうるさいのに、そんな大声はうんざりである。それにその中でようやっと本格的な眠りに入るところだったのに、なんという邪魔をしてくれる。
「なにが」
だから私は不機嫌な声で返事をした。彼が少し怖気づいたのが分かるが、納得がいかないことがあるのだろう。唇を結び、覚悟を決めて私に言った。
「メアリーさんとの通信は僕一人だったんじゃないんですか?あれ、すっごい任務だと思ったのに!」
ああ…。そういえば私は、宗平に私に外の状況と、私の状況を伝えろとかいったなあ、と思った。あれはもちろん必要な任務だったわけだが、彼は現場に赴くことや一人で責任を負うことが真の探険家だと思っている。しかし実際は責任を分散したり、現場の後方支援もとても大事なことだ。だが、彼はそれを分かっていないため、それを分からせる必要があった。
それに加え、あのままだと彼がいつまでもうるさくしそうだったので、あのように言いくるめてやりすごした。でも、トランシーバーで会話するんだから皆に会話が筒抜けなのは、当然のことだ。それがむしろ、仲間内で裏切りなどを監視する役割を果たしているのだ。彼はそこが分かっていない。
「僕はメアリーさんに信頼されていると思ったのに!」
悔しそうに言う。私は肘をついて、窓の外を見た。一週間後はクリスマスイヴだ。今年は街にも雪が降って、ホワイトクリスマスになるのかもしれない。
「ちょっと聞いてます?」
私は窓から宗平に目を戻すと言った。
「聞いてるって。そんなに私とおしゃべりしたいって、私のこと好きなわけ?」
そういうと彼は何を言っているのか最初は分からないような顔をしていたが、突然顔を真っ赤にした。
「そそっそ、そんなわけないじゃないですか!」
「そんなわけないなら、いちいちそんなことを聞かなくていいでしょ」
「いやだから僕はそんなことを言っているのではなくて―…」
そして案の上、
『メアリー大変ね』
「え……あれ、し、椎名さん…?」
無線のスイッチは、椎名の子供達のせいでONになっていた。
『宗平、後で覚悟しなさいね』
私たちの会話は、トランシーバーによって皆に聞こえており、宗平はその後椎名にこっぴどく叱られたのである。
「あーもー!すみませんでした!」