12、雪崩
「早く乗ってください!」
私はエドワードが下りた後、急いで下に降りるときに使った機械と、それにくくりつけられているフィーネトレッドを回収した。
そして、宗平が荒い運転をするランクルに乗り込む。彼は運転しながら、助手席のドアを開け、私をひっぱりあげてくれた。
その時丁度斜面に積もった雪の均衡が崩れたようだった。地響きに似た音を立てながら、白い雪は全てを飲み込んでいく。
そしてそれに追いつかないように、宗平は最後尾でランクルを必死で操っていた。
「宗平!もっと上手にクラッチつなげられないの!?」
だがあまりにひどい運転だったので、天井にも窓にも頭をぶつけてしまう。そのため、文句をつけるのだが、
「これは僕のせいじゃなくて、この雪道のせいですよ!」
彼は負けじと言い返した。
私はこの場所から出るのが一番最後であったので、一番最後まで宗平は私のことを待っていた。雪崩が来るかも…というかもう来てしまっているのだが、よく我慢できたと思う。私は、彼が今必死に運転している姿を横目で見て、なんだかんだ言いながらも頼もしく思っていた。
アスカはというと、その揺れる車内の中で必死に後ろを向き、あの建物が雪崩に巻き込まれる様子を見ていた。そして、私もドアミラーからその様子を見ていた。そしてあっという間に灰色の建物は雪に埋もれてしまった。
私たちは雪崩が来ない場所まで来ると一度降りて、建物の様子を遠くから見ていたが、もうこの建物は使い物にならないことが確認されたので、すぐに引き上げることになった。
朝美は改めて私に雪崩が起こった理由を教えてくれた。ただ、霧が少しでも晴れてくれなかったら、私達はこの雪崩に巻き込まれていたかもしれないと言った。
「命拾いしたわね。天は我を見捨てなかったか」
朝美は運命とか幸運とかは信じない人だけれど、たまにこういう経験をするとそう呟く。
それから今度は私が彼女に、屋敷で出会った老人の話をした。すると彼女は、少しの間じっと私を見ていたが、その後私の肩をぽんぽんと叩き颯爽とギオルグが運転する車に戻っていった。ただ、私とアスカは前方の車が走り出すまで外にいて、あの建物があった場所を見ていた。
「……」
宗平は外に出ると震えるほど寒いと言っていたが、私は何故か心が温かくて、それほど寒さを感じなかった。もしかしたら、それはアスカも同じなのかもしれない。
「おじいさん、幸せ…だったのかな?」
アスカは泣きそうな声でそう言った。
「どうかな」
私はダウンのポケットに入れていたクリスタルのオルゴールを、手のひらに載せて見つめた。
「わからない。けど、私達に会ったときは幸せそうだったよ」
アスカも同じようにあの老人からもらったプレゼントを握っていた。もうすでに開けてあり、髪留めであったことが分かる。
「……」
私は再出発するまで、アスカと共にその建物があった場所を見つめた。そして何度もあの老人の優しい温かな笑顔がよみがえる。私が部屋を出る前に見た、彼の最後の顔はきっと忘れないだろう。