予兆 part3
「いや~、何とか間に合った~~」
大学の最寄り駅の改札を出て、腕時計を見て時間を確認する。針は8時17分を指している。いつも通りの電車に乗り、乗り換えも予定通りできた。これなら今日の説明会には間に合いそうだ。
そのまま駅のロータリーを渡り、通学路を歩く。通学路にはまばらに同じ目的地を目指す学生らしき姿が見える。
大学の校門に着くと、なにやら野次馬が出来上がっている。それも相当の量だ。出入り口を塞いでしまい、キャンパスに入れないほどの学生たちが、その場を埋め尽くしていた。
「なんだろう……?」
不思議に思った鉄矢は、とりあえず人だまりの一番外側まで向かい、野次馬の会話に耳を傾けた。
「すげえなあの子、他の女の子とは比べ物にならないくらい可愛いな!」
「きっと彼氏いるんだろうぜ? どこのサークルに入ってるのかな~。俺、声かけようかなー」
「やめとけって。お前なんかじゃ釣り合わないって」
野次馬の会話を聞く限り、どうやらこの先に女の子がいるらしい。それもこんな人ごみを作り上げてしまうほどだ。
だがしかし、始業式が始まって間もない頃ならこのような話題が出てもおかしくないが、今はもう一週間は経っている。入学して早々、その大学が気に入らなくて転入してきたのだろうか。
どちらにせよこの人ごみを掻き分けて進まなければ、鉄矢は未来永劫説明会に参加できないのは決定づけられている。
ここは強行突破、鉄矢は人だまりの中に飛び込んだ。
「すいませんッ! 通ります!」
野次馬たちに押しつぶされそうになりながらも必死に人ごみの中を進み続ける。
ひしめき合う肉壁が急に途絶える。鉄矢はそのまま勢いに任せて進んだため対応できず、前方へつんのめった。
「うぉっ!?」
間抜けな声を出しながらもなんとか両手をついて地面との衝突を避ける。
四つん這いになった彼の目線の先にはスラリと細い足が見えた。
そのまま頭を上げ、目線を少しずつ上げていく。
「…………」
少女と目が合った。
整った顔立ち、肩にかかるほどの青いショートヘア、透き通るような碧眼。
そんな可憐で高貴な少女に、思わず目を奪われる。
「…………ぉ……」
呆気にとられ、またもや鉄矢は変な声を零してしまった。
少女と目を合わせる事数秒、いや十数秒だったかもしれない。
このわずかな時間――そう、彼の時間は確実に彼女の物になっていた。
「やっべえ! もうこんな時間だっ!」
野次馬の叫びに鉄矢は我に返る。
(そうだ、こんなところで油を売ってる場合じゃない。はやく説明会に行かないと。)
立ち上がり、鉄矢は少女の横を通り抜けそのまま教室へ向かうため走り出した。