ブリキヒーロー part7
槍花がアロタイプの男に再び敗北し、すぐには動けないほどの大怪我を負った。
美鈴がそれを知ったのは彼女が男と戦った直後、鉄矢を監視していた部下からの緊急連絡だった。
今日分のデスクワークを終え、一息ついていたところに、間髪無く訪れる悲劇。
それを聞いた美鈴は冷静に、しかし怒鳴り散らすように部下に指示を飛ばしていた。
「急いで槍花の保護と、取り残されている人の救護に回って。凍ってしまった人はまだ助かるわ。現地の警察に協力しなさいッ!」
作戦管制室内で無線用のヘッドギアを常に耳に当て、必死にモニターとにらめっこしながらあれやこれやと走り回る彼女だったが、内面は妹が重篤状態に陥ったことに取り乱していた。
槍花が重傷を負った。
揺るがない事実。
彼女をここまで追い込ませてしまったのは自分だ。
理解していた故に、自身の無力さを呪うしかない。
代われるものなら代わってやりたいくらいだった。
どうして彼女ばかり、こんな残酷な目に合わなければならないのだろうか?
こんなまだ、年端も行かない少女に、世界はどれだけ不幸を与えれば気が済むのだろうか。
これもすべて、ディノサウェポンなんかがあるせいで……。
だが彼女のことばかり気にしてはいけない。
今は現場の保護の協力、治療、状況の確認に努める必要がある。
今自分が為すべきことは上官としての義務と債務だ。今すぐにでも槍花の元へ駆け付けたかったが、かなわぬ願いだった。
ここまで来て改めて、美鈴は今置かれた状況を振り返った。
まずは槍花だ。
部下の報告通りなら、彼女はしばらく戦うことは出来ない。
次に、彼女がいないうえでの対策法――はっきり言って、ない。あの恐ろしい力は現在の科学力でどうこうできるものではない。
「ここまでなのかしら……」
八方塞がりだった。打つ手なし、完全な詰みだ。
立場上、人の上に立つ人間として諦めることができない。しかし、この状況には美鈴も流石に弱気になっているのも事実だった。
ポケットに入れていたアンバーを取り出す。アンキロタイプ、鎧鉄矢のアンバーだ。
なんとなく行ってしまった一連の動作に対し、自分が彼をどこか心の奥底で頼ってしまっている一面を垣間見た気がしてしまう。
ヒーローでもなんでもない彼に、くだらない期待を寄せているのだろうか。
……いや、そんな考えは捨てよう。
この場は作戦管制室代表である、この盾賀美美鈴が引っ張らなければならないのだ。
私は宿主と戦える力など何も持っていない、無力な存在だ。槍花が戦えない状況で、それを再び痛感した。一人の少女に戦うことを押し付けてしまった汚い大人の一人だ。
だが、私はヒーローでなくても、戦う。別に力を持って戦うだけが戦ではない。人間にはそれを超越することができる知恵と言う名の可能性があるのだ。それを生かすためにこの十年、全てを費やしてきたのだ。
「よしっ」
深呼吸をし、気を取り直す。
槍花はしばらく戦えなくなった。彼女の命令無視が招いた事態ではあるが、姉として、仲間として彼女の全てを責め立てることはできない。
彼女もたった独りで現地にて戦い続けてきたものとして、押し迫られる義務感があったのだろう。元はと言えば、彼女をヒーローにおだて上げてしまった私たちに問題があったのだ。
……いや、正確には自分たち一人一人の弱さが招いた事なのかもしれない。
今はただ、彼女の意思をくみ取り、指揮を執り続けるしかない。
終わりの見えない、希望なき戦いに美鈴は赴き続ける――




