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青い牙 part3

 深夜二時。寒空の下で一人の少女、盾賀美槍花はとある銀行の張り込みをしていた。


今夜、新代町のこの銀行で宿主による犯行の可能性があるから監視し、逐一報告すること。それが今回の槍花の任務となる。


 日時は既にてっぺんを回っているため、たまに瞼が重くなってくる。だが、彼女は銀行からは決して目を離さない。

 張りつめた弓のように、全神経を集中させる。


(それにしても……)


 どうして、今回は銀行なのだろうか、それがわからなかった。

 美鈴の言う事だから、間違いはないだろう。だが今までの行動は、ただ破壊衝動に駆られたように見える。

 それが今になってどうして……?


 なるべく周りに気づかれない様に、銀行から見て死角になる木の裏にしゃがむ形で隠れていた。

 おかげでコンクリートの冷えた冷気が彼女の体を冷やしていく。

 鉄矢と戦った夜程ではないが、やはり寒さが応える。事前に缶コーヒーを買っておけばよかったと、今更ながら後悔する。


 定時連絡の時間が来たので無線のスイッチを入れ、槍花は姉である美鈴と連絡を取り始めた。


 待つこと2コール。


『寒いね~槍花ちゃん』


 寒さに体が震えている槍花とは裏腹に呑気な美鈴の声が聞こえる。

 きっと彼女がいる作戦管制室の方はほどよい暖房で温かいだろう。

 それにくらべて自分はどうだ。寒空の下、ただひたすら縮こまっている。


(全く。人の気も知らないで……)


「そう思うのでしたらこんな夜中に駆り出さないでください。まったく」

『そう言われてもねぇ。文句は敵さんに言って欲しいかな』

「……そうですね」

『も~お願いだからブーたれないでよ~。後でホットミルク、作ってあげるから』


 ホットミルク。そのワードに反応し、槍花の眠気が少しだけ飛ぶ。

 彼女の好物の一つだ。甘いものに目はないが、その中でもホットミルクは冷え切った体に砂糖の甘さと牛乳のコクが染み渡るところが、彼女が気に入っている理由だ。

 あれはいいものだ……。寒空の下で飲むと、より甘味が増す気がする、


 任務後のホットミルクの妄想に酔いしれていると、一人の男が銀行の前に立っているのを見つけた。

 肩甲骨あたりまで伸びた髪と長身の男だ。

 降り切ったシャッターの前でただただぼうっと突っ立っている。


 宿主だろうか?

 槍花はすかさず相手に気づかれないように息を潜め、近くにあった植込みに隠れる。


 だがここまでは事前に調査をしてくれた美鈴の情報通りだ。

 声のトーンを落としながら、美鈴に男の存在を通告する。


「姉さん、見えますか? あの男」

『……こちらでも確認ができたわ。あの男、目標である宿主の可能性もあるわ。気を付けて』

「了解しました」


 植込みの裏から男に察知されないよう、物陰から物陰へ移りながら、槍花は少しずつ距離を詰める。

 だいぶ距離を縮めたが、こちらからだと男の背中しか見えない。せめて横顔だけでも確認したいが、これ以上接近すると感づかれる可能性が高い。


(さて、どうしましょう……)


 どうやって男を取り押さえるか、それともまずは相手の出方を窺うべきか、そんな事を考えていたところ、槍花の脳裏に全く関係ない一つの疑問が生じた。


 寒いのだ。

 いや、事実今夜の空は肌寒い。 

 だがそれ以上に、まるで冬空の下にでもいるかのように、気温が下がっているような気がした。


 肩をさすりながら槍花は周りを見渡すと、植込みに少し霜が付いているのを見つける。

 真冬の夜中ならまだ理解できるが、今は春だ。どういうことだろうか……。

 すると、突然美鈴の声が飛んできた。


『……槍花ちゃんッ! 周辺の気温が急激に下がっているわ。おそらく奴の能力よ!』


気のせいではなかった。

とっさに男の方へ目を向けると、男を中心に白い霧のような物が漂っている。

 最悪の可能性が当たってしまった。宿主だ……!


 「姉さん、出ます!!」


 すかさずアンバーを取り出し、変身の準備に入る。

 起動〈リバース〉 トリケラトプス――

 光の拘束が解け、白銀の甲殻を纏う。

 そのまま躊躇なく槍花は男の元へ飛び込んだ。


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