選択 part8
それからというもの、週末まで鉄矢と槍花は大学での時間をほとんど二人で過ごした。
彼女はあまり流行に詳しくなかったらしく、鉄矢はあれやこれやと教えてあげていた。
やれ、今はこんな曲が流行っている。こんな芸人が流行っている。この動画がSNSで人気だ。
他愛のない話ではあったが、二人が距離を縮めるには充分だった。
いつも通り、授業を終えた週末の金曜日。
「じゃあ、また来週な」
「はい、またお会いしましょう」
いつも通りの時間、いつも通りの駅前で二人は別れる。
槍花にとって、これまでのごく普通の生活はなかなか心地よい物であった。
(こういった生活も、悪くないですね……)
普通に学校へ行き、普通に友達と談笑し、食事を共にする。それは当たり前のことだが、彼女にとってはとても新鮮で優しい世界だった。
できればこれからも彼と仲良くしたい。そう彼女は切に願っていた。
だが、そんな彼女が享受していた普遍も、ここで終わりを告げる。
電子音。槍花の無線のコール音が鳴り響く。
それは、彼女が普通の学生ではなく、戦士であると警鐘を鳴らしているようだった。
「はい。盾賀美槍花です」
『あ、槍花ちゃん? 大学はどうだった』
盾賀美槍花は、これまでの一週間を思い出す。
鎧鉄矢と一緒に過ごした一週間を。
何気なく、なんにもないただのほほんとした一週間だったが、とても穏やかな物だった。
「楽しかったです。とても……とても」
噛み締めるように、言葉を紡ぐ。
本当に楽しかった。毎日が楽しくて、鉄矢と別れた後の夜なんか、子供みたいに興奮して、なかなか寝付けなかったくらいだ。こんな感覚、遠い昔に置いていってたような気がする。
鉄矢との話は飽きなかったし、彼の事を知れて嬉しかった。何度でも会いたいと思った。
可能であれば、もう少しこの生活を味わいたいと思っていた。だが、それはかなわない願いだ。
『そう……。申し訳ないけど、新しい任務です。とりあえず、本部に来てちょうだい』
「わかりました」
そう、彼女はあくまでも、戦士なのだ。