選択 part5
鉄矢が車に乗り込むのを確認した槍花と美鈴はそのまま作戦管制室へ戻るため、いつも使う連絡通路を歩く。人が二人、並んで歩くだけでギリギリになってしまうほど、その通路の幅は狭い。
「姉さん、これで良かったのでしょうか」
「良かった、というとなにが?」
「いえ、その……宿主になった以上、無理矢理にでも引き込むべきだったのではないのかと思って」
槍花は正直なところ、美鈴が取った行動に賛成ではなかった。
戦えるほどの能力を持った宿主はこのD.I.N.O本部では槍花一人しかいない。
つまりし、戦闘面に関しては、彼女の戦力に頼り切っているのが現状、という事になる。
猫の手も借りたいこの状況に手をこまねいている場合ではないと彼女は考えていた。
「人徳的なやり方ではないかもしれませんが、秘密を知られた以上、そこに付け込んでどうとでも出来たと思います」
その言葉に、美鈴が足を止め、少し厳しい顔をした。
「槍花ちゃんは、そんなやり方を取ってでも誰かの協力を得たい?」
「……いいえ」
当然の回答。そんな姑息な手で、無理矢理協力を得るのは犯罪紛いでしかない。
槍花もそれはわかってはいる。しかし、このD.I.N.Oにおいて真っ先解決しなければならない問題なのだ。
「ま、槍花ちゃんの言いたいことはわかるわ。現にあなた一人に全てを背負わせるわけにはいかないものね」
美鈴が励ますように、槍花の肩を優しく叩く。
「いえ、そんなことないです。姉さんの言う通り、私たちは正しい手段で社会を守る必要があります。……それに――」
自分の意見を通しつつも、こうやっていつも私の心情をくみ取ってくれる美鈴が、好きだった。
できれば、そんな美鈴に精いっぱい協力したいとも槍花は思っている。
「いつもそうやって周りに気遣って、頑張ってる姉さんの力にもなりたいです」
美鈴がそう言うと、姉さんは目を潤ませながら飛びついて来た。
「槍花ちゃ~~~ん!! やっぱりあなたはわたしの妹よ~~~」
「だあああああ! もうっ! 離れてください!」
「やだっ! 離れない!! ていうか今日はこのままずっといましょう! ベッドの中でも一緒よ!!」
「なに言ってるんですか!? そもそもシングルベッドなんだから二人一緒に寝られるのがれるわけないじゃないですか」
「それもそうねぇ……そしたら槍花ちゃんは床で寝ればいいんじゃない?」
「姉さん、一瞬で発言を裏返すのやめてくれませんか? さっきの妹に対する溺愛っぷりはどこへいったんですか?」
いつまでもくっついてくる姉を容赦なく引き剥がし、突き飛ばす。
勢いのあまり、思わず尻もちをついた美鈴がお尻をさすりながら文句を垂れた。
「いった! ちょっと、痔になったらどうするのよ~」
「はぁ……もう一生やっててください」
「もう起きれないー起こしてー」
「29歳にもなって何言ってるんですか、全く」
べそをかく美鈴の手を掴み、引っ張り起こした。
「で、本題なんだけど」
「? なんでしょう?」
「来週も大学行ってね。監視のために」
「 」
残念ながら、槍花の大学潜入はまだまだ続くようだ。