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選択 part4

 漫才も終えたところで、三人は本題に戻ることにした。

 さて、という掛け声と共に美鈴が大型モニターを起動する。

 モニターには尻尾にこぶ状のものが付いた四足歩行の大きなトカゲらしきものが映る。

 頭は小さく、鋭利な牙もない。背中にはごつごつとした鎧のような物が付いている。


「なんだこれ……恐竜?」


 だが鉄矢が夢で見たのとは違って、その恐竜らしきものに獰猛さは感じられない。むしろ、草食恐竜のような大人しい印象を感じさせる。


「単刀直入に言います。君は内に秘めていた“この恐竜”の能力を覚醒させてしまったの」


 そう言いながら、美鈴はモニターの恐竜を指さす。

 恐竜の能力――その言葉の意味を、鉄矢は全く飲み込めなかった。


「信じろって言う方が無理よね……。槍花ちゃん、アンバーを起動してくれる?」


 訝しむ鉄矢を見かねて、美鈴は槍花に声を掛けた。

 美鈴の指示に従い、槍花はアンバーと呼ばれた、琥珀色の丸い金属を握りしめ、小さく呟く――


「起動〈リバース〉 トリケラトプス」


 彼女を中心に無数の光の細かい筋が現れ、収束し、光の拘束が解ける。

 瞬間、全く別の姿が現れた。

 白銀のパワードスーツのようなものを纏ったその姿は、女性らしさを表すスリムなシルエットだ。だがその反面、恐竜の力強さを感じさせるデザインだった。

 全く別の姿へ変身した彼女を見て、驚きのあまり鉄矢はあんぐりと大きく口を開けている。


「……なんだよこれ……」


 俯き、わなわなと体を震わせる鉄矢を見て、二人は固唾を飲む。


「超、かっこいいじゃん!」

「「……は?」」


 さながら槍花の姿は変身ヒーローのような姿だ。幼い頃にこういった見た目の人物が戦う特撮番組をみていた鉄矢にとって、たまらない物があった。

 残念ながら、盾賀美姉妹にはその男の本能は理解できなかったらしい。二人にとって、目を輝かせている彼はあまりにも滑稽に映っていた。


「いやこれ、ほんとなに!? やべえよこれ。かっこいいなんてもんじゃないよ! 好き! 超好き!!」

「そ、そうですか……それは良かったですね……」


 興奮のあまり、槍花の姿を無遠慮に観察する鉄矢。そんな彼を見て、槍花は苦笑いをすることしかできない。


「あの……ごめんね? お楽しみのところ申し訳ないけど、話し続けていい?」

「……あ、すいません。つい」


 息が掛かりそうなほどの距離で見つめていた鉄矢を、美鈴はやんわりとなだめる。相変わらず槍花はドン引きし、これ以上絡まれたくないと言わんばかりに変身を解いた。


「こほん。とりあえず、君もこんな感じで変身できるようになったの」

「え、俺も変身できるんですか!?」


 ずずいっと、身を乗り出して美鈴に迫る鉄矢。さっきの反省はどこに行ったのだろうか。相も変わらず、彼の興奮は治まり切らない。


「えっと、まぁそうなんだけど、その話はまた後でね。話、戻していいかしら?」

「あ、すいません」


 二度目の注意で、ようやく鉄矢は落ち着きを取り戻した。


 

「こほん。私達はこのD.I.N.O――ええと、正式名称は“Dinosa wepon Inter National Organization”といいます。で、君みたいに恐竜の能力――“ディノサウェポン”に目覚めた人間、即ち宿主。彼らの安全の確保と監視を目的に活動しているわ」

「はぁ……」

「ここまでは理解できたかしら?」

「なんとなく、ですけど……。表面上は理解したつもりです」

「なんとなくでも大丈夫よ。じゃあ話を続けるわね」

 

 鉄矢の返答に納得したのか、特に解説を挟むこともなく美鈴は次の話題へ移った。


「君は恐竜についてどのくらい知ってる?」

 

 知っている事――特別恐竜が好きではなかった鉄矢にとっては大きく、強い生き物くらいの認識しかない。

 加えて、昔見たパニック映画でエリマキトカゲのような恐竜が毒を吐いていたのが記憶に残っているくらいだ。

 誤魔化しても仕方ないと判断した鉄矢は、思ったことを正直に話すことにした。


「でっかい爬虫類ってくらいで、そこまで詳しくはないです」

「なるほどね。じゃあこの恐竜の名前はわかる?」


 どこからともなく取り出した指さし棒で、美鈴はモニターの恐竜を指さす。

 恐竜と言ってもティラノサウルスくらいしか知らない鉄矢には名前までは分からなかった。


「いえ……知らないです」

「これは君が持つ能力の元となった鎧竜、アンキロサウルスよ」


 続けて、美鈴はアンキロサウルスの説明をしてくれた。

 鎧竜、アンキロサウルス。

 白亜紀後期の恐竜の一種。

 背中を中心に尾の先から頭のてっぺんまでを覆う鎧と、尾の先端に大きな骨塊が付いているのが大きな特徴だ。

 アンキロサウルスはその尾に付いた骨塊を振り回すことで、身を守っていたと言われていて、背中を守る鎧は肉食恐竜の攻撃を防ぐことができたと考えられている。


「アンキロサウルス、ですか」


 まじまじとモニターに映る恐竜を鉄矢は見る。

 美鈴から話を聞く限り、自分の身を守れる以上は決して弱い恐竜ではないようだが……。

 しかしなんでこんな鈍そうな恐竜なんだ。どうせならティラノサウルスとかブラキオサウルスとか、もっとかっこよくて強そうな恐竜がよかった。


「なんでアンキロサウルスなんですか?」

「あ、やっぱり男の子的にはティラノサウルスがよかった?」


 鉄矢の思考を先読みしていたのか、間髪入れず美鈴は即答し、説明に移った。

 

「まだ決定的な説はないけれど、発現する恐竜の能力の基準は、宿主が心の奥底に持つ欲望や信念により決められると説と、完全にランダムの二つが有力とされているわ」


 心の奥底。この鎧竜と自分に何か重なる部分があるのだろうか?

 自身の胸に手を当ててみるが、当然返事は返ってこない。


「ちなみに、槍花ちゃんの能力はトリケラトプスね。トリケラトプスくらいなら聞いたことはあるんじゃない?」

「角が二本ある、草食恐竜ですよね?」


 鉄矢の回答に満足げに頷くと、美鈴はポケットから取り出した金属のような、しかし、琥珀のように透き通ったそれを彼女は“アンバー”と紹介し、説明に入った。


「その通り。では次に、このアンバーについて説明するわね。直訳すると、〝琥珀〝のことを指すわ」


 美鈴がモニターの映像を切り替え、一枚のスライドを出す。


「このアンバーを用いて変身できる姿は第二形態まであります。ただし、第二形態だけは、私たちの技術によるアンバーの改造がないと実現しません」


 スライドにはトカゲ人間のような姿と、槍花が先ほど変身した姿が映っていた。


「まず、このトカゲみたいな姿が第一形態。まだ能力に目覚めたばかりで、力の制御が難しく、暴走を稀に起こす人もいるわ。暴走すると我を忘れ、その時の記憶もだいぶあいまいになると、これまでの調査でわかっています」


 スライドの片方の写真の男を指し、美鈴はそう説明した。

 鉄矢にとって鮮明に記憶に残っている姿だ。

 病院で自分を襲った男、リザードマンのような風貌。

 今でもまだ恐怖が抜けきれないのか、鉄矢の体が軽く震えた。

 

 続けてもう一方の写真、槍花の方を指しながら説明を続ける。

 第一形態と違って、白銀の甲殻包まれたその姿は、どこか荘厳さを感じさせる。


「これが第二形態。槍花ちゃんのように全身をパワードスーツのような物で包んだ状態。恐竜の面影を感じられるのは武器と全身を包む装甲のフォルムくらいね。肌も第一形態の恐竜のようなゴツゴツした肌ではないわ」

「私の能力、トリケラトプスは角を模した槍、“三双”と右腕の盾が特徴になります」


写真に写る自身の得物を指しながら、槍花は説明を付け加えた。

穂先が三つに分かれた独特なデザインの武器だ。

切っ先は丁寧に真っすぐ伸びてはおらず、それぞれが先端に行くにつれ、若干反りあがっている。


 なんとなくそれが、トリケラトプスの特徴である三本角を象徴したものだと、鉄矢は理解できた。

 改めて鉄矢はアンキロサウルスの写真を見つめる。全身を包む甲羅のような鎧と尾先についた槌。これが武器になるのだろうか。


「……そうなると、俺の場合は、また別の武器を持つのでしょうか?」

「そうですね。アンキロサウルスでしたら、鎧と大槌でしょうか」


 鉄矢の予測通りだった。つまり、素人からでも恐竜の特徴が判れば、他の宿主の能力を微量ながら観測できる可能性があるのだ。


「そして、アンバーの出現条件は、能力が目覚めた時になります。鉄矢君のように暴走する場合もあるし、自分が能力を保持していることになんとなく気づいた場合もあるし、様々なパターンがあるわ。ちなみに、君のアンバーは君が寝ている間にこちらで回収しといたわ」


 美鈴が先ほどのアンバーを鉄矢に見せた。おそらくそれが、彼のアンバーなのだろう。


「そして、このアンバーを用いて変身した姿を総称して、わたし達は“ディノサウェポン”と呼んでいます。恐竜の能力を使い、自分の想像力をそのままエネルギーに変え、変身する装置“恐竜型復元変形心象増幅兵器”、それがディノサウェポンです」


 美鈴が紙に“ディノサウェポン“のつづりを書き、鉄矢に見せる。

 普通の人なら良くできた狂人の妄想と吐き捨てることが出来ただろう。だが、鉄矢にはそれが出来ない。

 事実、彼は病院でディノサウェポンらしきものを携えた男に襲われたのだ。

 理解し、信用するしかなかった。


「言いたいことはわかりました。それで、俺は一体どうなるのですか?」


 ここまで話してくれた以上、なにか目的があるのだろう。鉄矢は単刀直入に聞くしかない。


「そうです。ここからが本題。君に一つ、質問があります、鎧鉄矢君。今後の君の事です。君には二つの選択が与えられています」


 美鈴は二枚の紙を鉄矢の前に見せる。

 軽く目を通すと、一枚は今回の事件について一切口外しないという内容。

 そしてもう一枚は、自分の持っている能力を使って協力するといった内容だった。

 所謂、契約書の類だ。前者の内容はすんなり呑み込めたが、後者の“協力する”という言葉に、鉄矢は引っ掛かりを感じる。


「この二枚の紙は今後の君の能力の扱いと生活の方針を示す大事な紙です。まずは一つ、今日まで起こった出来事は口外禁止。私たちの監視の元、普通の生活を送ってもらいます。そしてもう一つ、その能力を使って、槍花と一緒に活動をしてもらいます」

「活動?」

「ざっくりいうと、君を襲った男、武田爪ノ助って名前なんだけど、彼みたいな人物と戦い、接触をし、最終的にアンバーを確保することが活動目的になります」

「……俺が、ですか?」


 自分を襲った男。その言葉を引き金に、一気に記憶が蘇った。

赤黒い眼。全てを裂くような鋭い鉄の爪。破壊された病院の内装。

 あの夜の事を思い出すと、今でも背筋が凍る。あんな殺し合いみたいな事、できるわけがない。


 少なくとも鉄矢にはそんな度胸も覚悟もあるわけがなかった。

 そもそも、自分はあくまでも一般人なのだ。どこかの紛争地域で戦った経験などはもちろんないし、なにか護身術などの教えを得ているわけでもない。

 そんなどこにでもいる人間が、たまたま手に入れた力で戦うというのは、想像もつかないし、なにより恐怖でしかなかった。


「タダとは言わないわ。きちんと見合った報酬も出します。具体的には言えないけど、一生遊んで暮らせるくらいにはお金は出してあげるわ」


 一生遊んで暮らせる。つまり、それは大金に釣り合うくらいの命に関わる危険な仕事になるという事を暗に示している。


「いえ、その……」


 十代の少年にはあまりにも重すぎる内容に、答えることが出来ない。

 戸惑う鉄矢を見て、美鈴はやっぱりね、と言いたげな顔をした。そこに蔑みはない。あくまでも、彼がごく普通の人間として見せる恐怖を汲んだ同情と理解だった。


「無理もないわね。命に関わることだもの。断られるのを重々承知で言っただけよ」

「すみません……」


 頭を下げ、彼は深く謝罪する。

 おそらく自分は槍花のように戦える人物は貴重な人材なのだろう。

 だからただの一般人だった自分にここまで秘密事項を話してくれて、勧誘したのだと思う。

 大きな力を持つのと同時にのしかかる、押しつぶされそうなほどの責任。そして命を賭けたやりとり――

 ――そんなもの、いくら大金を積まれてもそう簡単にできるわけがない。もっと自分より向いている人物がそのうち現れるはずだ。


 そう自分自身に言い聞かせながら、美鈴から渡された〝周りに口外しない〝方の契約書にサインをする。

 鉄矢のサインを確認すると、美鈴は懐からなにか取り出し、ペンを走らせた。


「では、私たちの監視の元、君を帰します。あ、後これは口止め料ね」


 小切手だ。

 生まれて初めて見たそれに鉄矢は目を通し、大学生には充分すぎる金額に目を見張った。


「ええと、桁が一、十、百……こんなに!?」


 あまりにも高すぎる。こんな大金、本当に受け取っていいのだろうか。

「自分がどれだけ深刻な状態に置かれているか、わかった?」


 驚きのあまり、思考回路がショートしてしまった鉄矢はそれどころではない。

 穴が開きそうなほど小切手を見つめている。


「あら、驚いてそれどころじゃないみたいね。それじゃ、お話はここまで。部下にあなたを送らせるわ。もう君に会うことは無いと思うわ。あ、そうそう。念のため、君の行動は現地に情報班を置くことでしばらく監視させてもらいます」


 監視されるのは鉄矢にとってあまりいい気はしなかったが、ここまで教えてもらった以上、仕方のないことと納得することにした。それに、不用意に周りに言いふらさなければいいだけなのだ。


 細かい注意事項を受けた後、美鈴と槍花がD.I.N.O本部の出入り口まで彼を見送った。

 情報漏洩の防止上、目隠しをされて、車に乗せられる。


 車に揺られ一時間以上たったのだろうか。夜中だったためにほとんど眠ってしまい、気が付いたら、病院の前で降ろされて、鉄矢は解放された。美鈴の部下に時間を聞くと、まだ夜中の3時らしい。まだあの出来事から四時間ほどしかたっていなかった。


 病院に入ると、あまりの光景に鉄矢は目を見張った。

 まず、あれだけの騒ぎだったのに、パトカーや救急車は来ていない。

 何もなかったかのように、病院も明かりが一切つかず、静まり返っている。誰にも知られず活動をする組織だから、こういった隠ぺい工作は得意なのだろうか。

 四階の壁も、穴が無くなり綺麗になっていて、武田が壊した廊下もピカピカだった。


 病院に入ると、張りつめていた緊張の糸が急に切れたのか、睡魔が急に鉄矢を襲う。

 そのままベッドに誘われるように、鉄矢は自分の病室に戻り深い眠りについた。


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