選択 part3
「それじゃあ、改めまして。初めまして、わたしは盾賀美美鈴。この『D.I.N.O』っていう組織で作戦司令官兼、技術顧問を担当しています」
「…………だいの……?」
鉄矢にとって、それは聞いたことない名前だった。
「ま、簡単に言えば正義のために頑張ってます。って感じの組織です!」
「はぁ……」
「姉さん、説明があまりにも雑です」
槍花の軽いつっこみなどおかまいなく、美鈴は話を続けた。
「そしてこちらがわたしの妹、盾賀美槍花ちゃんでーす」
いえーい、等と盛り上がってる美鈴とは裏腹に、槍花は『全く……』などと呟きながら頭を痛めている。
(……それにしても、この子もしかして……)
眉をひそめる鉄矢を見て、美鈴はピンポンピンポーンと高らかに宣言しながら答え合わせをし始めた。
「ご想像のとおり、君の大学でちやほやされていたかわいこちゃんです!」
「ちやほやされたくてされたわけではありません……」
陽気な顔をしながら両手を槍花の肩に置く美鈴とは裏腹に、槍花の顔はどんよりとしていた。
重く沈んだ槍花の表情を見かねた鉄矢が声を掛ける。
「……なんか、嫌な事でもあったんですか?」
「いえ、お構いなく……」
「?」
「そして私たちは、仲良しシスターズでーす」
話をぶった斬り、わーいと、はしゃぎながら美鈴は槍花に抱き着き始めた。
「ああもう! 暑いです! うっとおしいです! 離れてください姉さん!」
両手を存分に使い、槍花は本気で引き離そうとしているが、断固として美鈴は離れない。
両手の甲で顔をグイグイ押されながらもなお動じない彼女からは鋼の意思を感じる。
「なんか、随分と仲がいいんですね」
ちょっといい匂いがしそうなその光景を、鉄矢は至極どうでもよさそうに眺めながら言う。
相変わらず槍花は美鈴から離れることに必死だ。
「その通り! 槍花ちゃんはわたしにとって目に入れても痛くないほど大好きな妹です! 槍花ちゃんは?」
「……べっ、別に。普通です」
「えー!? そんなこと言われたら……よよよ」
どこぞの時代劇ぶりにわざとらしく泣き崩れる美鈴を見て、槍花はややヤケクソになったらしく――
「ああ! もう、わかりましたよ! 大好きですよ!」
耳まで真っ赤になりながらそう叫んだ。
どうやら過剰なスキンシップも本気では嫌がってはいないらしい。
目を輝かせながら走り回る美鈴と、真っ赤になりながら震えている槍花。
一体、この茶番からいつ解放されるのだろうか。
そんなことを思いながら、鉄矢はただただほとぼりが冷めるまで、姉妹漫才を数分眺めていた。