選択 part2
リビドーを燃え滾らせた結果、残酷な結末をもたらした鉄矢の哀れな姿に、盾賀美美鈴は額を手で覆いながら大きくため息をついた。
「気持ちは分かるけど、流石に女の子の裸をガン見するのは良くないと思うわ」
「はい……ずびばぜんでじだ……」
ボコボコに腫れた顔になりながら、鉄矢は被害にあった少女、盾賀美槍花へ謝罪する。しかし、彼女は目も合わせず、一切口を開かない。
(そりゃそうだよな……)
勢いに任せてあんな行動を取ってしまったが、やはり相手にとっては屈辱でしかないのだ。知りもしない男に穴が開くように体を見られたら、怒りに燃え狂ったり、恐怖に戦慄するのは想像に容易い。
彼女の場合は、それはもう鬼の形相のようにキレていた。
「普通、その場で謝るとか、部屋を出るとかすると思うんだけどね。そこは」
「…………もう、なにやっても許してもらえないと思って――」
ギロリ、と槍花が鋭い眼で彼を睨みつける。開き直るな、次は命はないぞと言いたげに。
そこで彼は姿勢を正し、思わず滑ってしまった口を閉ざし、もう一度謝罪に移る。
「……本当にすみませんでした。許してくれ、とは言わないです。もう豚箱にぶち込むなり、指を詰めるなり、なんなりとしてください」
「反省はしているのですね」
冷たくはあるが、理解は示してくれている彼女の口ぶりに、鉄矢は少し期待をする。それもただの期待で終わるのだが。
「じゃあまず、その首を断ってもらいましょう」
「それは勘弁してください……」
流石に死ぬのは嫌だった。加えて、『じゃあまず』という口ぶりから察するに、自分には死より恐ろしい地獄が待っているのだろうか。
「乙女の柔肌を見て、まだそんなこと言えます?」
「グッ……」
言い返せなかった。なので――
「ああもうわかったよ! やりゃあいいんでしょ、やれば!」
やけくそになった鉄矢が近くにあったカッターナイフを手に取り、そのまま自分のはらわたへ向け――ない。
寸でのところで、その手を止める。
「………………止めないの…………?」
「いえいえ。そのままどうぞ。思いっきりブスリと逝っちゃってください」
「冷酷ッ!? 残忍ッ!?」
どこぞの芸人ばりにノリがいい槍花。そして、精神テンションがコントモードに移っている鉄矢。ヘンテコ空間を作り上げている二人を見て、美鈴は言葉通り馬鹿を見るかのような目で見ていた。
「…………槍花ちゃん。許してあげてとは言わないけど、そろそろお話しさせてもらっていい?」
「……わかりました」
このままだと埒が明かないという事で、槍花が折れる形でこの場はひとまず収めることにした。