邂逅 part5
一瞬の白。
そして白飛びの世界に再び訪れる黒の静寂。
激情に身を任せてさんざん暴れまわった槍花が、やっと落ち着きを取り戻した。
自分の犯した行為を思い出し、青ざめる。
……しまった。ついカッとなってしまい、“第一形態”相手に本気になってしまった。
(……死んでないでしょうか……?)
宿主が相手なら、どんなに高出力の攻撃を受けてもアンバーが強制的に変身を解除させることで死には至らないようになっている。
そうはいってもやっぱやり過ぎた。
流石に罪悪感に見舞われ、先ほどまで対峙していた武田の元まで歩み寄り、槍花は状態を確認する。
そこにはぼろ雑巾のように焼け焦げた武田が倒れていた。
生きているだろうか? いや、生きてなければ困るのだが……。
その場にかがみながら、ツンツンとその辺の枝でつついてみると、少しだけ反応した。
気絶しているだけのようだ。ただしばらくは一人で動くことはできないだろう。ベッドのお世話になるのは明らかだった。
ひとまず目標の一つを達成したと判断し、槍花はディノサウェポンのヘッドギアに内蔵されている通信装置を通して、美鈴と連絡を取り始めた。
「武田爪ノ助の無力化に成功しました。続いて鎧鉄矢の保護に向かいます」
『よろしく~☆』
通信を切り、槍花は今まで蚊帳の外だった鉄矢へ向き直る。
(さて、と……。どう対処しましょうか)
彼の衝動に満ちた赤黒い眼と視線が合った。
全身から鳥肌が立ちそうなほど獰猛な眼。明らかに我を忘れている。
人間離れしたその姿を改めて観察し、槍花は冷や汗を一筋垂らす。
――凶悪過ぎる。これが本当に、大学で一瞬出会った彼なのだろうか?
「本当にバケモノみたいですね……」
彼女の言う通り、実際“それ”はとても同じ人間には見えなかった。
口から牙を覗かせ、だらしなくよだれを垂らすその姿はまさしく“バケモノ“と形容せざるを得ない。
――咆哮
この世のどの獣にも当て嵌まらない、弦楽器の音色を重く、重く引き伸ばしたような咆哮。
その咆哮の主である鉄矢が、空に向けて雄叫びを上げこちらへ突進してきた。
猪突猛進。二人の間にいくつか並んでいる車に肩や腕をぶつけながらも、真っすぐ向かってくる姿は、言葉通り猪のようだ。
「はぁ……」
なんと単調で、浅ましい。
思わず、わざとらしさすら感じるほどの大きなため息を漏らしてしまった。
浅知恵すら感じられない、ただ力に任せた猛攻に彼女は呆れていたのだ。
私はただ、呟くだけでいい
「――蒼雷三双」
三双から駆ける猛虎のような青白い雷光が彼を包む。
直撃した雷撃が天に向け一本の光柱を作り上げた。
夜に眠った町が、その一瞬だけ病院を中心に昼を取り戻したように輝く。
やがて光の柱は空の闇に呑まれて消える。それは、盾賀美槍花がこの場を収めた証であった。
「任務、完了ですね」
鉄矢はいつもの人間の姿に戻り、その場に倒れていた。暴走が解けたのだろう。
出力は抑えたので武田のように焼き焦げるような外傷はなく、彼は気絶しているだけだ。
「鎧鉄矢の鎮圧に成功しました。回収班の手配をお願いします。武田爪ノ助はどうしますか?」
『彼の能力が気になるわ。確保して』
「了解しました。武田の確保を――」
――いなかった。少し目を離した隙に、武田が倒れていたはずの場所には何もなかったのだ。
奴がいない。そんな馬鹿な! あの状態で動けるはずは……
「すみません、姉さん。武田を、取り逃がしました。……他の誰かが彼を回収したかもしれません」
『ッ!? してやられたわね……。今は仕方ないわ。武田の情報はこちらで今後調べることにしましょう。まずは帰投して頂戴。お疲れ様、槍花ちゃん』
「……了解しました」
しくじった。私が油断していたあまりに、奴を取り逃がしてしまったのだ。
……逃がしてしまった以上、ここで悔やんでも仕方がない。
煮え切らない気持ちを抑え、槍花は鉄矢を回収班に任せてその場を離れた。




