邂逅 part3
一度取った距離を再度詰める。
狙うは奴の腹部。そこにこの右腕の爪をねじ込めばいい。それですべてが終わる。
だがその一瞬を突き狙う為、武田は全神経を研ぎ澄ませる必要があった。
大槌の連撃。縦横無尽、がむしゃらに振り回されるそれを紙一重で避け、時には右腕で受け流し、常に相手の死角を突くよう足は止めずに動かし続ける。
武田の俊敏な動きに対し、鉄矢は少しずつ大槌を操る速度が遅くなる。
やがてその乱れは鉄矢の呼吸に現れていく。じりじりとだがこちらが有利に運んでいる証拠だ。
武田の鉄爪による斬撃と、鉄矢の大槌の殴打による得物同士のやり取り――
武田の鉄爪は鉄矢の大槌を真正面から受け止められるほどの強度は持ち合わせていない。相手の大槌の方が絶対的な物理量を有している。互いに正面から得物を違えたが最後、彼の鉄爪は今はもうすでにない右腕のそれのように粉々になるだろう。
だからこそ、武田はあくまでも相手の攻撃をいなすことに意識を注いだ。あらゆる手を使い、相手の質量による暴力を躱す。
言うだけだと簡単だが、それを実行するのは至難である。
武田はそれをこれまでの人生経験を生かしてこなしているのだ。
加えて、宿主としての経験ははるかに武田の方が上だ。自分の能力の運用の仕方くらいきちんと把握している。
彼は自分の能力が力強いものだとは思ってはいない。むしろその逆、鋭利な得物は兼ね備えている物の、そこから繰り出される一撃で確実に命を刈り取れる保証はない。
故に、武田爪ノ助は闇討ちを主にこれまで生き抜いてきたのだ。ヤクザ、運び屋、マフィア。裏社会の世界を生きてきた彼だからこそ、闇での戦い方は心得ている。
能力を得てからもそれは変わらなかった。人間相手なら、その能力を使えば楽に倒せる。だがその辺で使えば目立つ代物だ。そうおいそれと使うわけにはいかない。最後の最後で、確実に相手を殺せる時、彼はダメ押しで、念には念を重ねる形で、その凶器を使う。
それは宿主同士での戦いでも変わらない。機会を伺い、勝機をつかみ取る。
それが武田爪ノ助の戦い方であり、勝ち筋なのだ。
武田の戦法は着実に功を成していた。力と防御に重みを置き、速さで劣っていたアンキロサウルスと相性が良かったのだろう。
武田が後方へ距離を取り、鉄矢の振り下ろしを避けた時だった。
地面にめり込んだ大槌により動けなくなる鉄矢。
必死に動き、地面から大槌が抜けた瞬間、彼の体は勢いに持っていかれそうになり、こちらへ腹部を見せるように後方へよろめいた。
(ここだッ――)
肉迫。
音もなく、体を相手に寄せ、間合いに入った。
右手の鉄爪に意識を集中させそのまま突き出す。
月の光を吸い込み、輝く鉄爪はその一瞬を逃さない。
はらわたへ目掛けた渾身の突き――武田は勝利を確信した。
はずだった。それは一人の少女によって、阻害される。