邂逅 part2
(どうなってやがる!? ……コイツ、まだ目覚めてないからサクッと殺して、サクッとアンバーを奪えば終わりだと思っていたのに……思っていたのに……ッ!)
ヴェロキラプトルの宿主、武田爪ノ助は焦燥していた。
彼の自慢の鉄爪は木っ端みじんに砕かれてしまった。そのうえ、目標である鎧鉄矢は暴走してしまい、彼には手に負えない状態になってしまっている。
「あああああああああああ……アアアアアアあああ!!」
かつて鉄矢だった者は左手の大槌を振りかぶり、そのまま乱雑にそれを壁にぶつける――
――轟音。たった一度で壁に大穴を穿いたのを指し示すほど激しい音だった。
破片が大きく飛び散り、セメントの粉が舞い散る。
人一人が余裕で通れるほどの大きな穴がぽっかりと空き、そこからは夜空が広がっていた。
病院の壁をぶち破った鉄矢は穴へ飛び込み、その先に続く闇の中へ消えていった。
「逃がしてたまるかよ!!」
暴走はしてしまったが、ここで『はいそうですか』と逃すわけにはいかない。
鉄矢に続き、すかさず武田も穴へ飛び込み後を追いかけた。
穴の向こう側には夜空と、満月と路肩の照明だけが照らす薄暗い駐車場。
そのまま重力に任せ、武田は落下する。
しかし敵は彼に着地の余地すら与えない。
「――なッ!?」
飛び込んだ先、その着地点に彼が待ち構えていた。
ブオンと風を突き破るほどの重い音と共に横凪に振られた大槌が武田の脇腹を捉える。
「ガッ……!」
咄嗟に右手の鉄爪で防御の体制をとり、かろうじて直撃を免れる。
だが、その一撃は武田の体力を削ぐには充分過ぎる威力だった。
脇腹越しから内臓へ伝わる衝撃。腹の内側から絞り出されるように血の塊が口から噴き出した。
全身を伝わる重撃に必死に耐え、体制を整えるために必死にもがく。だがそれも虚しく大槌の勢いまでは完全に防ぎきれなかったため、武田は空へ放り出された。
自由落下に任せたまま固いコンクリートにぶつかる。
コンクリートの地面に大きな穴を空けるだけで収まらず、そのままゴムボールのように武田の体が何度も跳ねあがった。数mほど転がり続けた後、近くに止めてあった車に衝突し、やっとその勢いは止まる。
車のドアが大きくへこみ、ガラスが粉々に砕ける。
「……なんてパワーだよ。まるでバケモノだな」
砕け散った車のガラスを被りながらもなんとか立ち上がり、理性のない獣を見据える。
血より濃い色を持つ深紅の眼――まるで“恐竜“のような鋭い瞳はこちらを真っすぐ捉えていた。
蛇に睨まれたカエルのように、その冷たくも獰猛な視線に思わずたじろいてしまう。
「一筋縄ではいかないようだな……」
武田は汗をぬぐい、距離を取って相手をけん制しつつ、一度頭の中を整理した。
俺の左手は奴の背中に砕かれて使いものにならない。再び使えるようにするためにはもう一度起動〈リバース〉できるまで待つ必要がある。
しかし、再起動には時間がかかり、それを待つ暇はない。だとしたらここで奴を叩くしか術はない。次はないだろう。この能力を狙っている人物はきっと俺意外にもいるはずだ。
他の奴らにとられる前に、ケリをつける必要がある。
……なに、暴走していようが落ち着いていけば大丈夫だ。
アンキロタイプは全身が硬い鎧で覆われているが、その分動きは他の恐竜に比べて遅い。加えて、特に硬いのは背中だけだ。一番柔らかいであろう腹を狙ってやる。
右手の得物を構え直し、呼吸を整える。
「じゃ、行こうか。鈍竜くん」