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プロローグ

「どうなってやがるんだ! ここは安全じゃなかったのか!?」

「わからねぇよ!! とにかく逃げるしかねえ」


 二人の男が、当てもなく戦火の中を逃げ惑う。

 ぜいぜい、と大きく息をしながら、偶然捨て置かれたおんぼろのジープを見つけた。


「こいつだ。こいつで逃げよう!」


 男の一人がジープへ駆け寄ろうとした瞬間だった。

 一閃――

 男のすぐ脇を雷撃が走り抜け、ジープに直撃する。

 爆発。真っ赤な炎に包まれ、ありとあらゆる部品をまき散らし、燃え上がる。

 足を無くした男たちは、もう終わりだと悟り、弱々しくその場にへたり込んだ。


 すかさず、どこからともなく現れた特殊部隊が二人を取り囲んだ。

 自動小銃、カービン、短機関銃。様々な装備を取りそろえた特殊部隊が、二人を確保する。

 二人はうなだれていた。自分達が築き上げてきた祖国が、わずか一瞬でここまで堕ちたことを信じられなかったからだ。


「なんで、どうして……我が国が……」


 ぶつくさと言いながら、捕縛された二人はどこかへ連れていかれる。

 捕縛された人物は、彼らだけではなかった。


 ある建物を中心に、特殊部隊が包囲し、手当り次第この国の役人たちを確保しているのだ。

 その建物は、ここ中南米に位置するバルベルデ共和国の行政機関の役割を担っている。


 その建物内、奥深くで一人の男、バルベルデ共和国大統領――ジェイプス・サイモンが喚き、叫んでいた。


「どうなっているんだ! 農民の反逆か? それともどこかの連合国の侵略か?」


 でっぷりと腹を膨らませた四十代後半と思われるその男、サイモンはひどく激昂していた。自分が腰かけている椅子の肘置きを拳で叩きながら、部下に怒鳴り散らしている。


「わかりません……。ですが、我々が押されているのは確実です」

「なんとかしろ、武器をあるだけ出せ! 戦車も出して構わん。格安で買い叩いたT-54があるだろう!?」

「いえ、実はその……」

「なんだ!?」


 部下らしき男は一筋の汗を流し、こう答えた。


「陛下、“わが軍は、既に全兵力を出し切っております”」


 つまり現在、こちらの兵力は全て蹂躙されてしまい、手の打ちようが無い、とそう部下は言ったのだ。


「なっ…………」


 サイモンは思わず言葉を失った。

 兵力が尽きた? あれだけ蓄えておいた兵力が?


「私が、農民やゲリラの進攻を阻止するために、あらゆる国からかき集めた兵器がもうないと。そう言うのか? お前は」


 部下はこくり、とただ一度頷く。


「陛下、私は降伏すべきだと思います」

「いいや、ならん。それだけはならん」


 彼は立ち上がると、後方の戸棚からライフルを取り出し、ただ一つだけある木の扉へ銃口を向ける。


「ここは私の国だ。私の、私による、私のための国だ。国民はみな、私のために働き、死ぬようにできているのだ! ここをおめおめと渡すわけにはいかん!」


 部下の声は届かない。最終防衛拠点としているこの部屋まで追い込まれたことが、彼を相当追い詰めたのだろう。部下との会話はかろうじて出来ているが、その目はだいぶ錯乱している。


「さぁ、どこからでも来い! 侵入者め! こいつを眉間に叩き込んでやる!」


 黒く光るライフルの銃口は、変わらず扉へピタリと向けられている。

 その時、サイモンの挑発に呼応するようにその扉が吹き飛んだ。

 轟音と共に飛び込んできた扉が部下に激突し、もろともに壁に衝突する。


「……!? おい! お前まで倒れるな!」


 サイモンは銃口はそのままで、足で軽く蹴りながら部下を起こそうとするが、反応が無かった。完全に伸びているようだ。


「バルベルデ共和国大統領、ジェイプス・サイモンですね?」


 今はなき、扉の向こうから声がした。だが、声の主は立ち込める煙と砂埃のせいで彼からは見えない。


「くそぅ!」


 声を認識した途端、彼はがむしゃらに引き金を引いた。

 発砲。

 火薬が破裂する音と共に射出された弾丸は、煙の中へ飛び込んだ。

 だが手ごたえはなかった。なにか金属のようなものにぶつかり、空しく跳弾する音だけが返ってくる。


「……!」


 煙の中から現れた“それ“を見て、サイモンは目を見張る。


「な、何故だ! どうしてそんな……」


 糸が切れた人形のように、その場にへたり込んだサイモンは叫ぶ。


「こんな“少女一人“に、どうして我々がやられるのだ!?」


 そのまま彼は、泡を吹いて倒れてしまった。

 それと同時に、特殊部隊のメンバーが二人、駆け込んできた。


「終わりましたか?」


 一人が少女に質問する。

 だが一見、少女と判断するには難しかった。

 全身を鎧騎士のように銀の鋼で包まれた彼女を少女と判断する材料は鎧から剥き出しになっている凛とした顔と、純水のように透き通る碧眼しかなかった。



「ええ、終わりました。私の任務はこれで終了ですので、帰投させていただきます」

「はい、お疲れ様でした」


 二人が少女に敬礼し、その場の後処理を始めた。

 彼女は悠然と、まるで何もなかったかのように、その建物から出ていく。


 おもむろに無線を取り出した少女は、連絡を取り始めた。


「姉さん、無事終わりました」

『そう、じゃあ寄り道せずに帰ってきてね。槍花(そうか)ちゃん』

「わかりました」


 それだけ交わして、槍花と呼ばれた少女は無線を切った。




 独裁国家、バルベルデ共和国。この国は、3月25日に完全に陥落し、独裁政治は終わりを告げた。

 たった一人の少女によって――


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