東京—ワシントンDC国際電話
過去が……過去が容赦なく作者をぶん殴る……orz
「仕掛けの発火点がわかった。
……うちだった」
「What's⁉
うちの何処がそんな馬鹿な事をしたのよ?」
「……お嬢様の託宣。
それを過大評価して欧州の魔女たちに漏らした馬鹿がいる」
「話が見えないわね。
もっとわかりやすく言って頂戴。ミスター岡崎」
「グルジアの政変とウクライナの大統領選挙。
ロシアの裏庭でのボヤだが、そのレポートを見たお嬢様が静観したろ。
あれが引き金だった」
「……ああ。一昔前なら予言者なり聖人なりと呼ばれかねないお嬢様の神がかり的な読みを知っていたら、その選択に意味が付随するでしょうね」
「そして、お嬢様は身の安全を確保するために、米ロ諜報機関を身内に入れている。
この選択が漏れた先で発火したんだよ。
『お嬢様はロシアの裏庭で反ロシア国家ができると読んでいる』と」
「OH……」
「ロシアはこれを知って是が非でもウクライナを親ロにする為に過度な介入に踏み切って墓穴を掘り、ロシアの勢力圏を削りたい欧州のその筋はお嬢様に全賭けしたいがその金がマネーロンダリング事件で止まった洗濯機の中ときた。
確実に勝てる博打にオールインしたくて、借金までして無理に金をかき集めようとしたのがあのタンカーお嬢様だ。
ウクライナのガスパイプラインを押さえてしまえば、ロシアから欧州のガスの流れをほぼ掌握できる。
もちろん、悪さをして粛清されたオリガルヒたちはウクライナではまだ元気に活躍しているから、ロシアはウクライナを自国の影響下に置きたがっている。
それは欧州側から見れば、ウクライナを勢力圏に置けばロシア経済を締め上げる事に繋がるから、こんな格好のチャンスを見逃す訳もない」
「どいつもこいつも勝手に自己解釈した上に自国の利益の為に好き勝手動いて……」
「南イラクができたのもタイミングが悪かった。
桂華資源開発の主な収入源であるロシアのガスはパイプラインを通って欧州に売られ、その売却代金で湾岸の石油を買って日本に運んで売る事によって換金されている。
南イラクの石油権益の半分をうちが握った事で、ロシアのガスに依存しなくてもいい体制ができたんだ。
欧州側はロシアのガスに依存しているがそこで上前をはねている俺たちの事を良くは思っていないから、お嬢様を欧州に取り込んだ上で、このロシアのガスを管理したがっている。
この仕掛けの本命は、お嬢様、いやムーンライトファンドが握っているロシア国債とその代金として支払われ続けているガスなんだよ。ミズ・サリバン」
「なるほど。
欧州の市民団体がロマノフ家の財宝で騒いだのは、お嬢様の口座に眠るマネーが狙いだったと」
「馬鹿な話さ。
お嬢様もうちもグレートゲームのメインエリアは米国大統領選挙と睨んでゲーム板でゲームしていたのに、その隣のゲーム板はそんな俺たちの動きを勘違いしてバカ騒ぎに興じてやがる。
で、そっちはどうなんだ?
ロバと象の椅子取りゲーム?」
「波乱がなければ、現職逃げ切りの可能性が高いわ。
上院も下院も知事選すら波乱は許容範囲内で収まるはず。
お嬢様の身に何か起きるなんて飛び切りの波乱がない限りは」
「やっぱり、アラスカのあれは効果があったのかい?」
「大ありよ。
うちはフロリダ州に政治的影響力を行使して現職当選の決定打になってたから、お嬢様の旗がどちらにつくかは関ヶ原の小早川秀秋なみに注目されていた。
あれでフロリダ州を共和党が取りそうだと分かると、バージニア州をとっても足りなくなるから、民主党側は決戦地をオハイオ州に絞らざるをえなくなったわ。
けど、民主党の金城湯池であるカリフォルニア州が共和党知事になった事で、一定のサポートをしなければならず、全力で勝負に行けないのよ。
私もこの仕事がなかったら、今ごろ民主党員としてヤケ酒を飲みながら次の転職先の為に履歴書を書いているわよ」
「米国人から関ヶ原と小早川秀秋の名前を聞くとはね……
で、そっちの馬鹿どもがお嬢様をかどわかす可能性は?」
「ゼロとは言い切れないわ。
リターンがあまりにも大きすぎるから、どうしても馬鹿とギャンブラーがバカ騒ぎに乗ってしまう。
多分、半日でも平日にお嬢様が行方不明になったら、ニューヨーク・ロンドン・東京市場のどこかで大暴落が発生し、誰かが巨万の富を得ると同時に、勝手に掛けられたCDSが発動して巨万の富を得た誰かなんて比べ物にならないぐらいの尋常でないマネーが転がり込む事になる。
これが一応本命と思っているわ。
そして、その富ですら、本命の賭け札には金額が足りないとみている。
賭け金の総額はお嬢様を巻き込むのだからさぞ大きいのでしょうね」
「ああ。欧州の使用するガス全てのアクセス権だ。
桂華資源開発で簡単な見積もりを出したが、軽く1兆円を超えてきたよ。
ロシアと欧州を直接結ぶ海底パイプライン。
『ノルドストリーム』は」
ノルドストリーム
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0