地区大会 応援活動
下品シリーズ その3
発想が下品なのに、書いてゆくと下品でなくなってゆく罠。
クイーン・ビー。
元々は米国スクールカーストの言葉なのだが、それ故にその伝統も受け継ぎ色々なものを受け入れてカスタマイズしてきたこの国らしいというかなんというか。
「Let’s Go 学習館! Go Fight Win! Let’s Go 学習館! Go Fight Win!」
つまり、クイーン・ビーとその取り巻きによる各種地区大会の応援活動である。
ちなみに各種地区大会の応援は、各学年各クラスのクイーン・ビーが持ち回りで担当することになっている。
そんなわけで、放課後の体育館に集まって応援練習を行うことになったのだが……。
まあ、なんだ。うん。
正直、色々と言いたいことはあるんだが、とりあえずこれだけは言わせて欲しい。
スケベである。いや、もうホント、これはセクハラと言ってもいいかもしれない。
だってさ、なんかこう、胸の谷間を強調するようなポーズとか多いし、太ももを強調するようなミニスカート。もちろん見せパンの上にそれを堂々とやっているから余計に性質が悪い。
思春期真っ盛りな男子生徒が体育館入り口から食い入るように見ていることからも、その効力は察することが出来るだろう。
「おーい。瑠奈ちゃん。無視は駄目だと思うの」
「そうですよ。瑠奈さん。そろそろ現実を見ないと」
気づけよ!明日香ちゃんに薫さんよぉ!!
わざと無視しているって事によぉぉぉ!!!
「何で私呼ばれたの?」
「多分生贄だと思う……私じゃ無理だし」
私の後ろでひそひそ話に花が咲く高橋鑑子さんに栗森志津香さん。
もちろん、鑑子さん以外は全員チア衣装である。
クイーン・ビー。クラス女子を統括する女王蜂だが、一つの巣に女王蜂が二匹居ればそれは喧嘩になる訳で。
色々水面下で奔走したが、こういう時に鞘当てが発生する明日香ちゃんと薫さんのクラス2-E。
同じクラスで中立を気取っている鑑子さんは巻き込まれの仲裁役で、なんと志津香さんは見事2-C代表を勝ち取り女王蜂に成ってこの場所に居たりする。
そう。クラス代表。これで壮絶に明日香ちゃんと薫さんが揉めていた。
中等部二年のチアガールは、まだ慣れていない一年や進学を考えないといけない三年と違って応援活動の主力である。
そして、各クラス六匹の女王蜂を前に出してのチアリーディングはもはや伝統であると同時に、女王蜂の晴れ舞台である。
ここで退いたら女がすたるとばかりにバチバチ火花を散らしていた二人を華麗にシカトして、私は鑑子さんと志津香さんを交えて事態の収拾を図ろうとする。
「で、あれどうする?」
「まだキャットファイトになっていないだけマシじゃない?」
「私があの立場なら、闇討ちを真剣に考えていたわ。出なくてよかったわ。ほんと」
ガチトーンで言い切る志津香さんと鑑子さんに事態の深刻さにやっと気づく私。
額に浮き出る汗を拭く事も忘れて二人に確認する。
「そこまでなの?」
「そこまでなのよ。瑠奈ちゃん。
多分瑠奈ちゃん、日頃からカルテット侍らせているから気づいていないけど、ここでのアピールでジョックを捕まえるのって、お家繁栄の為にも大事な仕事なのよ」
当たり前のようにすっと入る明日香ちゃん。
このあたり仲の良さが裏目に……話がそれるので解説。
クイーン・ビーに相当する男性側のスクールカースト頂点をジョックという。
日本で言うならば、野球部やサッカー部のエース格という奴で、日本だと当然文武両道が求められるイケメンという訳だ。
家同士のお見合いも大事だが、文武両道の男を捕まえて家に入れるのも女の仕事。
ましてや自分の花婿候補を狭い選択肢の中から選ぶ以上、真剣になろうというものである。
「だったら何で薫さんがこのエロ衣装着て出張ってきているのよ?
お見合い確定なんだから、出なくていいでしょうに?」
「瑠奈さん。私たち華族が大名公家の成れの果てって忘れているでしょう?
どんなに恥ずかしい格好でも、その既得権益から転がり落ちたら、全て『舐められる』んですのよ」
私のぼやきに明日香ちゃんと同じくすっと入ってガチトーンで説明してくれる薫さん。
この間両者笑顔なのに、目が全く笑っていない。
「で、どうする訳?
応援の振り付け六人用なんだけど?」
完全部外者だからこそ緩衝材として引きずり出された鑑子さんが私と志津香さんに振る。
女王蜂の争いだからこそ、その仲裁は女王蜂にしかできない。
そして、この面々を見ての通り、中等部二年の女王蜂は私と私の知り合いで過半数を押さえているので、私が仲裁できないと私すら蹴落とされかねない女の戦い。
なお選んだ場合、選ばれなかった片方からかなーり怒りを買うのが既に分かっているので、実に選びたくない。
それを察した鑑子さんが容赦なく決定権がある私に振るが、それはそれで困る。私だって命は惜しい。
だから、何とか二人の意識を逸らし、かつ状況を打開する必要が……
「振り付け六人が問題なら、七人用に変更すれ……ひっ!?」
何気ないつぶやきに揃って振り向いた明日香ちゃんと薫さんに志津香さんが怯えるが、明日香ちゃんと薫さんの顔は真剣だった。
がしっ!と志津香さんの右肩を明日香ちゃんが、左肩を薫さんがしっかりと掴み、傍から見ても仲良しのように見えるから困る。
「志津香さん。ナイスアイデア!
六人が駄目なら七人にしてしまえばいいのよ!!」
「栗森さん。貴方の見識にこの朝霧薫感服いたしました。
その英知に感謝を」
「いや、六人の所七人にするって負担っ!?」
今度は私の方を同時に向く明日香ちゃんと薫さん。
怖いって。マジで。
目が笑っていない、笑顔をこっちに向けないで!
「あら。大丈夫ですよ。瑠奈さん。
私たちは六人で踊りますから」
「そうよ。瑠奈ちゃん。
ただ、一人だけ、別振り付けでQueen of Queenをやってもらうだ・け・で」
Queen of Queen。女王の中の女王。
六人の女王蜂を率いるとても目立つ役所。
もちろん、六匹の女王蜂の戦争になるので、過去壮絶に揉めて役を消したといういわくつきの役というのは後で知った事。
「大丈夫ですよ。瑠奈さん。
私たちがサポートしますから」
「そうよ。瑠奈ちゃん。
残りのみんなにも私がお話通しておくから」
「……ふぁいと。桂華院さん」
栗森さんの苦笑ぎみの声で悟った。逃げ場などないという事を。
かくして、多くの青少年の思春期を歪ませたとアングラ雑誌に書かれる羽目になった応援活動、通称『March of the Queen』がこの夏東京の地区大会で花開く事になる。
「お嬢様。気づいています?」
「何を?」
その日の帰り道。
車の中で橘由香が苦笑しつつ真相を告げる。
「あの場の押し付け、事前に筋書きが出来ていた事を」
「知っていたわよ。明日香ちゃんも薫さんも長い付き合いよ。
あんな土壇場で醜態を晒すなんてする訳ないじゃない。高橋さんと栗森さんもグルなんでしょう?」
あれも他の女王蜂相手に例外を押し通す為の政治である。
何も知らない私は、うろたえて、押し流されて、一番目立つ所を『押し付けられた』。
「知らないふりをするのも友人として必要でしょ?
そういう事にしておきましょう」
どんだけ裏でやりあったのやら。
それを思うだけでくっくっくっと笑いだす私に橘由香は肩をすくめただけだった。
米国のスクールカーストについて
https://america-info.site/school-caste
Queen of Queen
なんとなしに検索したらお馬が引っかかる。
あのキングの娘か!?
応援団キングを何故思い出さなかった!私!!と悶絶しながらあとがきを書いている。
https://db.netkeiba.com/horse/2002102476/




