お嬢様の無駄遣い おまけのなれの果て
酒田に旅行に行ったのとリアルなニュースを利用してのお話
「では、お願いいたします!」
なんかこの間も似たような事をした気もしないではないが、私は一条と加東議員や山形県知事とともに笑顔で鍬入れをする。
新庄酒田道路と山形新幹線酒田延伸工事の起工式の為だ。
少し前に新板谷トンネルやら酒田駅前の再開発やらで金をぶち込んだ覚えがあったが、その時に陳情を受けていたのがこの新庄酒田道路である。
酒田市のある庄内地方は元々は海沿いの新潟や秋田とも関係が強く、県都山形市がある山形盆地とのルートは山形自動車道や陸羽西線、国道47号ぐらいしかないというか、言い換えるとそれぐらいで事足りていたともいえる。今までは。
それが桂華グループ主導で酒田市に巨大コンビナートができた事もあって、そこで造られる石油化学製品の搬送や人の往来が結構な問題になってきたのである。
石油化学製品を消費地に運ぶための貨物列車の圧迫と、酒田のコンビナートと桂華グループの本社群がある東京への往来が負担となって無視できない声がついに私に届いた訳で。
で、ここで山形県が計画を出したのは新庄酒田道路の方で、ここを高速で繋ぐのが目的だったのだが、問題は工事現場の近くに陸羽西線があった事である。
元々がけ崩れとかが多くあった最上川の難所中の難所を国道47号と陸羽西線が走っていたのだが、陸羽西線は見事なローカル線だった事もあり、運休にして代行のバスを走らせれば、鉄道用地を工事に利用できないかという話が出てきたのだ。
元がローカル線、つまり赤字路線のバス代行はそのまま廃止の可能性が視野に入ってくる。
ならば、バス代行で駅を廃駅にして、新庄から酒田まで新幹線を延伸させてもいいんじゃねという話まで出てきたのだ。
庄内空港でいいんじゃねと思ったが、台風や大雪で空路が欠航になったらどうしようもないし、東京から酒田への不便さは実際乗り換えをして行った私もよく分かっていたからお金もあるので反対する理由もなかった訳で。
なお、新幹線延伸費用は五百五十億円。元は三百五十億だが、廃駅ついでに高架高速化を狙い160キロ運転を視野に入れる予定で、ここまで来ると誤差よ誤差と言いたくなる鉄道建設費用である。
山形新幹線方式だから地元コンソーシアムで融資を行う事になるので、今回も地元に錦をという事で一条にも来てもらい式典に。
だんだんこの手の式典で笑顔を振りまくのが仕事になりつつある今日この頃。
そして、公共事業だからという訳で、自治体との調整のためにお詫び行脚中の加東議員に声をかけて地元利益誘導の形をとって花を持たせる為にこうして式典に来てもらった。
「色々と支援してもらって本当にすまない」
前の選挙で当選後立憲政友党に復党した加東議員だが、失脚するとこうも覇気が無くなるのかと驚いたことがある。
それでも最近は私が花を持たせた事もあって、だいぶ元気になっていると言えよう。
「それはこちらの台詞です。
公共事業はどうしても先生が最後にまとめないとうまくいきませんから」
「そう言ってもらえると嬉しいが、これは君にとって利はあるのかい?」
「そりゃあ、やるなら羽越新幹線でしょうが、県をまたぐから大変じゃないですか。
これだと山形県だけで話がまとまりますし」
山形県にとっても本命は日本海縦断の羽越新幹線であり、新庄駅から秋田県の大曲駅を経て秋田駅へという奥羽新幹線というサブプランもある。
だが、これらの新幹線は県をまたぐから色々と大変なのだ。
この山形新幹線は新庄延伸もそうだが、山形県内部で片がつくというのが最大のメリットだったりする。
こんな話をしている場所は、式典の後で来た新庄駅でのセレモニーの休憩時間。
こういう雑談でこそ政治やビジネスは動く。
「恋住政権の構造改革特区法を利用して貨物新幹線を考えているんですよ。
新宿新幹線ができるのならば、枠はいくらでも使えますし」
「なるほど。北海道の生鮮食料品と同じように、山形の特産品をその日の夕方に東京へ……か」
「飛行機よりも安定性がある点が新幹線の何よりの強みです。
貨物新幹線のターミナルは確定で福島駅。暫定で大宮駅でしょうが、いずれは東京や新宿に」
米どころ庄内平野の米や酒田港で水揚げされる日本海の海の幸が、その日の夕方に東京の帝西百貨店グループのデパートやスーパーに並ぶ。
景気に薄日がさしつつあった今、少し贅沢なこの手の食べ物の需要は東京にはかなりあったのである。
「これには帝国貨物鉄道も一枚かんでいます。
貨物新幹線ですから」
国鉄民営化が地域分割された結果、貨物を扱う帝国貨物鉄道は自前の鉄道路線を持たないデメリットがあった。
それはドル箱である新幹線に貨物列車を走らせられない事を意味しており、そういう意味からも実績が欲しかった彼らは私の手に飛びついたのである。
「で、恩を売られた私は何を返せばいいのかな?」
こんな質問が出て来る当たり、加東議員もだいぶ元気になったものである。
そんな事を考えつつも、私は笑顔で代金を請求した。
「何もしなくていいですよ。
ただ、総理はやる気ですから」
「だろうな。
郵政民営化法案は彼の悲願だ。
この夏の参議院選挙が終わったら、彼を阻むものはないだろう。
てっきり、邪魔をしろと言うと思っていたよ」
「止めてください。今度こそとどめを刺されますよ。総理に」
真顔で私が忠告すると、加東議員は楽しそうに笑う。
冗談だったらしい。
「こっちも安心したよ。
マスコミ連中の中には、『桂華が恋住総理を引きずりおろして私を据えようとしている』という噂を流している人間がいる」
「でしょうね。
今、恋住総理の前に敵で立ちたくないですよ。
色々な意味で」
泉川副総理率いる泉川派は与党内でも優遇されているが、派閥の論理を無視する恋住政権の運営には反発する動きが水面下に現れていた。
泉川派乗っ取りを画策し見事に失脚した加東議員だが、泉川副総理が派閥を渡す相手を阿蘇議員にしつつある今、内部は反発する動きが出るのは必然と言えよう。
すんなりと派閥が継承できるほど、政治は甘くない。
「なるほど。この新幹線の費用はその代金という訳だ。
中で暴発しない程度に、愚痴の相手を務めさせてもらうよ」
「政治ってお金がかかりますね。本当に」
なお、この延伸に合わせて桂華鉄道はついに自前のE3系新幹線を持つことになり、『お嬢様新幹線』と呼ばれる未来が来るのを私はまだしらない。
元ネタペタリ
「道路工事で鉄道が2年運休」JR陸羽西線が長期バス代行輸送へ トンネルの真下にトンネル建設
https://trafficnews.jp/post/115828
なお、何でこの時に新幹線化しなかったかというと、これ通してしまえば「羽越新幹線いらなくね?」となる事を恐れたとか……
金はかかるがフル規格新幹線はそのメリットもでかいのだ。金がかかるが。
酒田延伸の費用はここから
https://tirl.jp/2021/09/12/yamagata-shinkansen-kinoukyouka-enshinkousou/
160キロ運転
北越急行ほくほく線
これでできるなら、山形新幹線160キロ運転できるよなという訳で、休止区間の高架・高速化で金が嵩んだ形に。
多分、古口駅から清川駅の間をぶっ飛ばすのだろう。
貨物新幹線
青函トンネルの絡みで、かなり研究が進んでいるが未だ解決していない。
この物語ではどこぞのお嬢様が第二青函トンネルを掘るとほざいたので青函トンネルについては解決していたり。
元気になった加東さん
実は郵政国会にて橋本派・亀井派に次いで反対議員を出したのが堀内派こと元加藤派だったりする。派閥継承の為にここはまだ一波乱二波乱あるから、実は加東さんの利用価値は結構高かった。
具体的には堀内さんとか古賀さんとか……