虚塔の宴 その1
やっとこのタイトルを出せた……
基本最後は金でぶん殴るという蛮族方針で富嶽放送の競売に挑むことになっているのだが、金でぶん殴るにも作法というものが存在する。
ぶっちゃけると、金でぶん殴った際にヘイトを集めない殴り方という奴だ。
何しろこの競売はウォール街で行われるので、私自身が直に参加というのができないのもあって、まずはゲームに参加するための準備を現地のアンジェラに全部任せているのだが、当然報告は聞く事になる。
電話越しのアンジェラは実に楽しそうだった。
「桂華商会とガーファ・コーポレーションは富嶽放送競売において業務提携を結びました。
落札後の保有株式は桂華商会が33%、ガーファ・コーポレーションが18%で、富嶽放送の経営はメディア部門はガーファ・コーポレーションに、それ以外は桂華商会が担当する予定です」
破格とも言える待遇にガーファ・コーポレーションは喜んで飛びついた。
まぁ、富嶽放送がほしいのは湾岸開発の為であり、隠されている黒革の手帖の為だから、私にとってメディア事業は喜んでお任せする程度の価値しかない。
とはいえ、落札できたらの話である。
「で、相手は結局何社?」
「かなりの激戦ですよ」
アンジェラが告げたうちのライバルは以下の通りである。
アヴァロン・アトランティック(英国メディア企業)&フェブエッジ(日系ネット企業)
パラダイス・ワンダーマーケット(日系ネット企業)&帝国電話(日系通信企業)
ユニオンリソース(日系ネット企業)&エウロパネットワーク(欧州通信企業)
二木物産(日系総合商社)&欧州SWF
淀屋橋商事(日系総合商社)&アラブ系SWF
エントリー前から組み手が変わったのはパラダイス・ワンダーマーケットと帝国電話で、帝国電話株を運用に入れていた企業年金側が帝国電話の動きの遅さに業を煮やして、同じく株の運用があったパラダイス・ワンダーマーケットとくっつけたというのが真相である。
ここは正しく言うと、パラダイス・ワンダーマーケットと帝国電話と企業年金という三者連合と言ったほうが正しい。
一方で日系総合商社連合は案の定主導権争いで破綻し、それぞれSWFと組んでのエントリーとなった。
まぁ、面子の問題でのエントリーだから、除外していいかと私とアンジェラは判断していた。
「で、一回目の入札価格は?」
「十五億ドル。日本円でおよそ千八百億円ですね」
場所がニューヨークなので当然ドルでの競売となる。
そのため、うちを除く各社とも円をドルに両替する必要があり、ひとまずわかりやすい価格で値段を考える必要があった。今回の競売において、1ドルは120円で計算している。
あ、私の所ドル建て資産の方が多いのでドルはくさるほどある。念の為。
「ここで一社が脱落する訳だけど、その次は?」
「大事なのは、脱落とこの時の最高入札価格が二回目の価格になります。
これを五回繰り返すんですよ」
えげつないというか、容赦がないというか。
高く釣り上げると次がきついし、下げ過ぎれば脱落する。
おまけに、脱落しておしまいという訳でもなく、その脱落者と手を組んで資金を確保なんてのもありな素敵な宴である。
「という訳で、お嬢様。いくらで入札しますか?」
アンジェラの確認は私は電話越しに笑う。何を今更という声で言い放った。
「任せます。いくら使ってもいいから、脱落なんて無様は晒さないように!」
「それやって、数社連合でタコ殴りってのがあり得るからこうして確認とっているんじゃないですか……」
この競売の怖い所はここにある。
ライバルが手を組んで真っ先に私たちを叩き落とせば、表向きは絡めなくなるからだ。
最初の金でぶん殴る作法うんぬんはここに絡んでくるわけだ。
「特に一番最初の入札は一番本命を落としやすいんですよ。
談合妨害何でもありだから、確実に仕掛けてきますよ」
なお、その談合妨害をうちもやっているだろうと察しているが、ここで口にするほど私も馬鹿ではない。
「うち、本命なの?」
「間違いなく。金はほぼ無尽蔵で、破格の待遇でガーファ・コーポレーションと組んだので本気と市場は見ています。
富嶽放送を取りに行きたい連中は確実に潰しにきますよ」
だからこそ、アンジェラだけでなく岡崎と天満橋のおっさんがビジネスジェットでウォール街に向かっている訳で。
現地司令官のアンジェラは桂華金融ホールディングスの人間であくまで代理人。実際に賭け札を出して現地決裁ができる岡崎・天満橋コンビの出馬を求めたのが電話向こうのアンジェラ本人だったりする。
「任せますってさっきの繰り返し……ああ」
ここで私はやっとアンジェラの意図に気づく。
全部任せてもいいが、この宴に参加するのを決めたのは私である。という事は、最後の最後の責任と決定は私がしなければならない。
アンジェラが何を聞きたいのかを察した私は、それを笑顔で告げた。
「三位。後は任せます」
「かしこまりました。お嬢様」
第一回富嶽放送入札結果 十八億ドル
1 十九億五千万ドル
アヴァロン・アトランティック&フェブエッジ
2 十九億三千万ドル
パラダイス・ワンダーマーケット&帝国電話
3 十九億ドル
桂華商会&ガーファ・コーポレーション
4 十八億八千万ドル
ユニオンリソース&エウロパネットワーク
5 十八億五千万ドル
二木物産(日系総合商社)&欧州SWF
6 十八億三千万ドル
淀屋橋商事(日系総合商社)&アラブ系SWF
この入札で淀屋橋商事とアラブ系SWFが脱落し、十九億五千万ドルから第二回入札が始まる事になる。この宴はまだ始まったばかりだった。




