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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
私の髪が金髪な訳

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一巻発売おまけSS 明日香ちゃん蛍ちゃんコミュ 春日乃明日香 開法院蛍コミュ お狸大師様御由緒 2023/11/28 投稿

 神様というのは人が作り出したものだ。

 実を言うと物の怪というものも人が作り出したものだ。

 この二つは基本同じであり、『人が理解できない現象』というものをとりあえずまとめたに過ぎない。

 人に良き事をもたらすならば神様となり、人に害をなすのならば物の怪となる。

 私は、そんな神様にも物の怪にも成りそこなった存在である。

 目を閉じると思い出す。

 あの時、私はどうして彼女の手にあったものを取ってしまったのだろうかと。


 開法院という家は、その名の通り『法を開く』家として作られた。

 古の修験道や奈良仏教に由来のある家で、維新後に華族となった家である。


(蛍。

 お前は、この世に法を開くために生まれたのだよ)


 父はそう言って、ただ一度だけ私の頭を撫でた。

 母は少し悲しそうな顔をして私に微笑むばかり。

 それは、開法院家の悲願成就と子を生贄に捧げる後悔からだと私は後で知った。

 人工的に神様を作り出す事。

 それが開法院家の悲願であった。

 その為に、長い時と幾多の血を使って私は生まれたのだという。

 家の守り神として、いずれはこの国を支える一柱として。

 千数百年もの時間と妄執が私という存在を物の怪に変え、いずれは神へと至らしめるはずだった。

 物心ついた時から親から離され、人の世から切り離されて、人ならざる法を覚えた。

 七つにもなれば見えず聞こえず世に無い者として物の怪と化し、いずれは神へと進むその道は、ただ一人の少女の無垢なる善意によって潰える事になった。


(ねぇ。

 そんな所に居ないで、一緒にオレンジを食べましょうよ♪)


 その言葉が、そのみかんの甘さが、その少女の笑顔が、開法院蛍という人ならざるものを人に戻してしまう。

 ただ、開法院蛍は今でも忘れられない。

 あの時のみかんの味は、きっと生涯で一番おいしかったのだと。




 むかしむかし。

 四国という島は狸の楽園でした。

 その島に逃げようとした狸が一匹、安芸の国で途方に暮れていました。

 狸は四国に泳ぐだけの体力がもう残っていなかったのです。

 そこを殿様の警護から帰る侍が通りかかりました。


「おお。

 こんな所に狸がいるぞ。

 殺して狸鍋にしてしまおう」


「待ってくれ。お侍様。

 おらは都で悪さをしてきた化け狸だ。

 都で悪さをして逃れてきたが、その際に隠した宝のありかを知りたくないか?

 それを教えるから見逃してくれ。

 そして、おらを四国に送ってくれるのならば、末代までお侍様の家を守って進ぜようぞ」


 侍の家がある伊予の国では、空海という偉いお坊様を追い返した侍の家の子供が次々と死ぬという祟りが伝えられていました。

 偉いお坊様でも祟りが起こるというのに、都で悪さをした化け狸に祟られたら何が起こるかわかりません。


「わかった。

 送ってやろう。

 だが、狸を乗せて誰かに見られたら、結局お前は討たれてしまう。

 化け狸と言うのならば、人に化けて怪しまれないようにしろ」


「わかった」


 そう言って狸は僧侶に化けて、侍の乗る船で伊予の国にたどり着きました。

 狸は僧侶の姿のまま泣いてお礼を言います。


「ありがとう。お侍様。

 お礼に、末代までお侍の家を栄えさせて進ぜよう」


 侍はそのお礼を断りました。

 時は戦国、京の都も戦火で焼かれて、侍もその戦から帰る途中だったのです。


「いらぬ。

 某は、京の戦で地獄を見た。

 大名も公家も戦で没落し、京は焼かれて末法も極まった。

 狸よ。

 せっかく僧侶に化けたのだ。

 某に恩を返してくれると言うなら、その姿でこの末法の世の供養をしてくれぬか」


「ああ。

 そんな事でいいのならば」


 そう言って狸は僧侶の姿のまま旅立っていきました。

 しばらくして、侍の夢の中に高名な僧侶が語り掛けます。


「わしは弘法大師空海である。

 お主が助けた狸は、お主に言われるがまま修業して徳を積み、今や高名な僧侶として皆の尊敬を集めている。

 その狸からお主の事を聞き、せめてもの礼をと頼まれてこうして夢枕に出てきておる。

 お主の領地の山のふもとに蜜柑の木が茂っておる。

 それを大切に育てるといい。

 きっとその蜜柑は、お主の家に繁栄をもたらすであろう」


 侍の名前は春日乃三郎衛門。

 春日乃家は、その蜜柑の木を大事に育て、庄屋として繁栄する事になりました。

 めでたし。めでたし。




 私の家に伝わるおとぎ話だ。

 春日乃家は古い家で、庄屋としてこの愛媛県に根付いたのは本当なのだろう。

 後に色々と脚色なり何なりが入ったのだろうが、春日乃家がみかん農家として大きなみかん畑を持っているのは事実であり、その山一つまるまるみかん畑の中腹に弘法大師空海様を祭った祠があるのも事実だ。

 その祠の近くの畑からとれるみかんは他の畑のものより美味しいのだが、世は牛肉オレンジの輸入自由化に伴ってみかんを食べなくなりつつあった。

 私は、そんな時代に逆らいたかったのだ。

 とはいえ、子供の身でできる事は限られている訳で。

 みかんの事をオレンジと言って、この祠近くのみかんをみんなに配った。

 このみかんにだけは自信があったからだ。

 実際、みんなはオレンジと称したこのみかんを美味しく食べてくれたのだから。


「ん?」

「あすかちゃんどうしたの?」

「……なんでもない」


 なんとなくだが、このクラスにはもう一人女の子が居たような気がする。

 おやつが一つ足りなかったり、お昼寝の布団が一つ足りなかったり。

 けど、おとなやわたしたちが数を数えると、ぴったりと合うのだ。

 その子は、ただ静かに私たちが遊ぶのを眺めて微笑んでいた。

 何で一緒に遊ばないのだろうとその時思ったのだ。

 その夜。

 私は夢を見た。

 お坊様が夢の中で、私にみかんを差し出す。


「その子と一緒に遊びたいのならば、貴方の持っているみかんを渡してあげなさい」


 次の日。

 私はみかんを持って幼稚園に行く。


「みかんだ!

 みかんあすかがやってきたぞ!!」


「オレンジって呼びなさいよ!

 オレンジあげないんだからね!!」


 みんなにみかんをくばる。

 人数分持ってきたはずだった。

 いつも端っこで微笑んでいるあの子を見つけた。

 あの子にみかんを渡そうとしてもうみかんがないことに気づいた。

 夢の中のお坊様がふと頭をよぎった。


「ねぇ。

 そんな所に居ないで、一緒にオレンジを食べましょうよ♪」


 私のみかんを半分こにして女の子に渡す。

 驚いた女の子は私の顔と差し出されたみかんを交互に見て、私のみかんを受け取った。

 女の子がみかんを口に入れた時、女の子がはっきりと笑って呟いた。


「おいしい」


「私の名前は春日乃明日香。

 あなたのお名前は?」


「……蛍。

 開法院蛍」




「それが私たちの出会いなのよ」

(こくこく)

「お姉さまたちはそんな出会いがあったんですねぇ」

「……」


 お茶会で昔話を披露した春日乃明日香と開法院蛍の話を素直に感動する妹分の天音澪。

 だが、このお茶会の主催者である桂華院瑠奈は絶句して何も言わない。

 そんなお茶会のお茶菓子は、春日乃明日香が持ってきたオレンジと称しているみかんだったのだから。


「るなちゃん、みおちゃん、このみかんを食べていれば、きっとご利益があるわよ。

 なんてったって、お狸大師様のありがたーいみか……オレンジなんだからね!」

(こくこく)


 みかんでつながる縁が広がり、いつかは姉妹みたいな関係になる。

 それはきっとこのみかんのおかげと春日乃明日香と開法院蛍は確信していた。  

弘法大師空海

 真言宗の開祖で、高野山金剛峰寺を開く。

 四国とは縁があり、四国八十八か所は弘法大師空海が悟りを開くために歩いた道であるとか。


 四国は狸の島である。

 江戸時代の妖怪狸隠神刑部がモデルだが、時代を戦国時代にずらしている。

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― 新着の感想 ―
[一言]  幽霊は居るのか?、て話しは、身近な葬式でのトンでもエピソードが有り、そう言う事も在るのかあぁ、と否定出来ない人間になってしまった。  日本の神については、昔々、その類の取材ドンキュメント…
[一言] 日本語の神というのは本来は「凄い人間」のことなんですよね。 バテレンはヤハウェ(仮称)のことを天主とか天道とか呼んで神とは別の存在だと認識していたのが、黒船来襲で日本にやってきた米国の牧師が…
[一言] 開法院家の方も、空海と何らかの縁があったりして
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