クイーン・ビーのお茶会 その5
お茶会も中程。
気楽に話せる人がやって来た。
「瑠奈お姉さま。
遊びに来ちゃいました♪」
「いらっしゃい。澪さん。
楽しんでいってね。
紹介するわ。
この人が敷香リディア先輩」
「よろしくね」
「初等部生徒会会計の天音澪と申します。
瑠奈お姉さまには、いつも色々助けてもらっています」
ペコリと頭を下げる天音澪ちゃん。
彼女もしっかりと女王蜂になっていたらしく、お友達を連れてきている。
これで、少なくとも独立系新興派閥は三代は続くことになる。
「あー!
澪さん来てるー!」
私と同じ幼稚園からの付き合いである春日乃明日香さんと開法院蛍さんが寄ってくる。
すると二人と友人だった朝霧薫さんもやって来る訳で。
この手の席では、こうやって友好関係が広がってゆくのだ。
敵味方がはっきりする私と違い、澪さんは友好関係が広い。
クラスのというか学園の潤滑油である。
彼女は、基本誰にでも同じ対応をするのだ。
それが華族や財閥などの親のしがらみに縛られるこの学園の生徒達に取って眩しくて、温かい。
本当に良い縁を作れたと思う。
「……」
「……」
おや?
何か入り口で揉めているな。
ちょっと歓談の席から離れると、久春内七海と揉めていたのは神奈水樹だった。
「どうしたの?」
「っ!?
お嬢様!」
「ごきげんよう。
桂華院さん。
時間が来たので一人で来たのだけど、大丈夫だったかしら?」
神奈水樹の胸元をチェック。
私があげた銀バッジは付けていない。
久春内七海と揉めていたのは多分これだな。
「かまわないわよ。
ようこそ。私のお茶会へ。
神奈水樹さん」
久春内七海のなんとも言えない顔を私は見ない事にした。
神奈水樹はそれを気にせずに私と話す。
「こっちの学校生活には驚くことばかりよ」
「まぁ、そうでしょうね。
ここがそういう場所だと認識できるなら、うまくやっていけるわよ」
という訳で、歓談の席に戻る。
そのついでに神奈水樹を紹介する事にする。
「こちらは神奈水樹さん。
神奈一門の占い師さんなのですよ」
「え!?
あの神奈の占い師!?」
そう言って驚くのは春日乃明日香さん。
女の子は占いが大好きなのだ。
「ええ。
占えというのならば、占わせていただきますよ。
お代は幾らでも構いませんが、既に予約がたくさんありまして……」
すっと場に入ってゆく神奈水樹をじーっと見る開法院蛍さん。
オカルト系なだけあって、話をしたいのではないかと推測する。
あ。視線に気付いて春日乃明日香さんの影に隠れた。かわいい。
結局、このお茶会に参加した女子は上級生下級生合わせて69人。
同学年女子100人中59人という結果になった。
お茶会終了後。
側近団が片付けをしているのを眺めながら、私は物思いにふける。
澪ちゃんはゲームには出ていなかった。
リディア先輩もゲームには出ていなかったけど、今日みたいに派閥の継承という形で関与していたのかもしれない。
華族に樺太関係で固まったゲームにおける私の派閥。
反恋住政権の動きをして潰された?
いや、違う。
私が破滅したのが2008年ならば、経済的な破綻が最終的な破滅となったはずだ。
政治的に反恋住として動いていたのに、なんでゲーム内の私は恋住総理に潰されなかったのだろう?
っ!?
視界が歪む。
この感覚は何度かあったな。
その視野に広がるのは、今日のお茶会よりもう少し人数が少ない私のお茶会。
中央で、余裕のない顔で私が喋っていた。
「だから私は宣言します!
桂華院公爵家を継ぐ者として、この国を担う華族の責務として経済的窮乏にあえぐ樺太の……」
そうか。
ゲームの私は、次期桂華院家公爵として振舞っていたのか。
あの恋住総理がたしなめて押しとどめた大人になってしまっていたのか。
視界に映る私は、その意味が分からずにその主張を繰り返す。
「……ですから、樺太を経済特区としてタックスヘイブン及びローヘイブンとして……」
分かってしまう。
私が潰された最後のピースがハマった。
マネーロンダリング。
その場所として樺太は選ばれ、その実現としての看板として落ち目の桂華院瑠奈が選ばれた訳だ。
しかも、華族特権を利用してのローヘイブンまで入れてやがる。
勝てば大勝利、負ければ破滅の本当の勝負だったという事が分かる。
財界の協力者としての帝亜栄一、政治家を絡める形での泉川裕次郎、税関係の中枢に居る父を持つ後藤光也の三人はこの為に選ばれた訳で、それが破綻したから破滅……いや、違うな。
私が最終的に見切られたのは、多分同時に発生した世界規模の金融危機のせいだ。
破滅後空港で一人待つ一枚絵を思い出す。
多分私はそこから飛び立てなかっただろうと確信する。
風呂屋に沈められたらまだ良い方で、おそらくはそのまま海に沈められただろう。
それぐらいの賭けだったのだが、さて、主人公の小鳥遊瑞穂はそれを知っていたのか……知らなかったのだろうなぁ。
「っ!?」
我に返る。
手が握られており、その先に開法院蛍さんが居た。
「ありがとう」
こくりと頷いて微笑む開法院蛍さん。
視線に気付いてそっちを向くと、神奈水樹が居た。
何かする訳でもなく、彼女は手を振って離れてゆく。
「大丈夫よ。
みんなの所に戻りましょうか」
不意に自分のことなのに、その言葉がぽろりと出そうになる。
声は出さずに唇だけを動かして、その言葉をこぼした。
(かわいそうな桂華院瑠奈)
その言葉は誰にも聞かれることは無かった。
ローヘイブン
法律の回避地。
犯罪者引き渡しの国際条約に加盟していない国だと、そこに逃げ込んでしまえば指名手配をかけた国は捕まえることはできない。
『ルパン三世PART5』に出てきたブワンダ共和国なんかがそれに当たる。
これに、タックスヘイブンまでくっつけるという事で、『イノセンス』の舞台の一つである択捉経済特区を作ろうとしてその看板として瑠奈を利用していたという設定。
なお、この話私が知ったのは実はコミケがらみだったりする。
何の漫画か忘れたけど、法律に規制されてコミケが潰された日本でなんとかコミケを開こうとするオタクたちの話があって、南の島で開かれたコミケで「何で南の島?」と思って調べたのがはじまりだったりする。
なお、タックスヘイブン共々必死に潰そうと国際社会が協力している最中である。
日本にそういう街がある必要はあるの?
今では昔話だが、マネーロンダリングの最大の難所は外国で綺麗にしたお金をどうやって自国に戻すかだったりする。
そのため、送金履歴という足がつかない方法として直に持ち込むというのが結構あったりする。
時々ニュースで大金や金塊が盗まれるというやつは、こういう裏がある。
そして、爆発的に発展したアジア経済のアンダーグラウンドマネーの洗濯機だったのが、香港でありシンガポールだった。
その香港が中国に返還された事で、洗濯機が足りなくなって……
本当にこの時期の香港の話って虚実まじってすげー面白いんだよ。
風呂に沈められたか、海に沈められたか。
個人的おすすめは、『ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ 』(虚淵玄 ガガガ文庫)に出てくるタチアナ・ヤコブレワさんかなぁ。
こーいうことをさらりと書くから、読者の皆様は私の『ハッピーエンド』を信じきれないのだが、これはもう作者の業なので諦めて欲しい。
ちゃんとハッピーエンドルート目指しているんだよ。
これでも……




