専用食堂でのお茶会
中等部に入るとお決まりだが部活勧誘というのものがある。
学校も部活で名前を売る事を企図しているので優秀な才能のある者を勧誘したい訳で。
「桂華院さん!
剣道部に入りませんか?」
「陸上部が先よ!」
「合唱部お願いします!!」
ある意味予想されていた事と言えよう。
上級生達の勧誘をうまくかわしながら専用食堂へ。
この手の悪役令嬢ものあるあるだが、食堂も初等部からここに居る人用の専用食堂と中等部からここに入った人用の大食堂で分かれていたり。
初等部からの専用食堂はサロンみたいに豪華なのが笑える。
なお、その為お付きの人間も基本的に入れないのだが、入室条件が初等部からこの学園に在籍している者なので華月詩織さんは入れる。
あの娘の価値はこういう所にある訳だと私は中等部に入って気付く。
「で、桂華院さんはどの部活に入るおつもりなのですか?」
その華月詩織さんと昼食。
橘由香をはじめとした側近団とのコミュニケーションを考えると彼らのいる大食堂の方がいいのだが、実質的に金バッジ組のサロンにもなっているここに顔を出さないというのも村八分案件になりかねないので、今日はこっちという訳だ。
軽いランチを二人で食べながら私は返事をした。
「まだ決めていないのよね」
私学だからなのか小中高一貫だからなのか知らないが、この学校では成績優秀者に対する特典として授業の出席免除というのがある。
具体的に言うと、午後の授業と土曜日は成績優秀者は出なくていい選択授業になっている訳だ。
で、私を含めたカルテットメンバーは中等部に上がる前に中検と大検を取っているので、選択授業に出なくて良かったりする。
光也くんは東大法学部が目標だからいらないと最初言っていたのだが、この選択授業を出なくていいメリットに気付いて取ることになった。
ついでにいうと、おとなしくしているなら午前中の授業も内職OK。
「時間も有るのですから、どれかやってみればよろしいのでは?」
「やるのはともかく、拘束されるのが苦手なのよ」
「ああ」
初等部まではチートボティにものを言わせて無双できたが、この辺りになると純粋な才能に努力という時間を掛けた奴に勝てなくなってくる。
その良い例が前に剣道大会で負けた高橋鑑子さんだ。
「一万時間か」
「何ですか?それは?」
私の言葉に華月詩織さんが反応する。
食後の紅茶とコーヒーがやって来るが、私は紅茶を受け取って説明する。
「ある分野を極める為に必要な時間だって。
一日九十分掛けても二十年は掛かる計算ね」
「実際にそれで天才になれるのでしょうか?」
「さあ。
けど『継続は力なり』って言葉があるから、一概に馬鹿にできないのも事実じゃない?
部活の話に戻るけど、掛け持ちだとこの時間が絶対的に足りなくなるのよ」
私が剣道で負けた高橋鑑子さんでも、初等部に入ってすぐから剣道に打ち込んでいたと仮定してやっと三千時間ぐらいになる。
一つに打ち込んだ彼女ですら、まだ道の半分にすら届いていない。
「あ!
桂華院さんじゃない。
今日はこっち?」
「お久しぶりね。
春日乃さんに開法院さん。
よかったら、こっちの席にどうぞ」
少し遅れて入ってきた春日乃明日香さんと開法院蛍さんを手招きして椅子に座らせる。
彼女たちの持っているお盆にはデザートがあったので、昼食は大食堂の方で済ませたのかもしれない。
専用食堂だとデザートが豪華なので、大食堂で食事をして専用食堂でデザートをという人も結構いる。
「量が多いわね。太らない?」
「全部食べるわけないじゃない。
持って帰って、クラスの友人達と食べるのよ」
なるほど。
そんな話から雑談が始まって、さっきの部活の話に戻る。
「そういえば、二人は部活に入ったの?」
「私は陸上部。蛍はオカルト研究会だって」
たしかにそんな感じがするなぁと思って開法院蛍さんを見ると、アップルパイを咥えている彼女と目が合った。
かわいい。
「そういえば、先輩が桂華院さんを誘いたがっていたみたいだけど、うちに来るの?」
「それで悩んでいた所。
剣道部と合唱部からもお誘いが来ているの。
とりあえず、ヘルプはするつもりだけど」
「おけ。
先輩にはそれを伝えておくわ。
夏の大会がんばりましょう!」
相変わらずパワフルで元気である。
そこで、華月詩織さんの部活を聞いていない事に気付いた。
「華月さんは部活は何かするの?」
「私は帰宅部ですよ」
彼女のすこし素っ気無い声が引っ掛かったが、昼休み終了の鐘が鳴り私以外はここでお開きとなる。
「じゃあね。また会いましょう」
(こくこく)
「私も授業がありますので、失礼します」
「またね」
手を振って三人と別れる。
のんびりできる時間であり、そんな時間がちょっと寂しいと思う私が居た。
「さてと、少しお仕事を片付けますか」
「何やってんだ?お前?」
気合を入れた矢先に、栄一くんからの容赦ないつっこみ。
というか、何時入った。君は。
「さっき、春日乃とすれ違った時に、『桂華院さんがまだ中に居るわよ』と言われてな」
余計なことを。
こっちの気持ちなんて気付かない栄一くんは、私の向かいの席に座ってコーラを注文する。
こういう格式ばった所でも彼は変わらない、揺るがない。
それがなんとなく嬉しくなった。
「私もグレープジュース注文するわ」
「いや、紅茶飲んでジュースっていいのか?
せっかくだからちょっと話を聞いてくれ。
TIGバックアップシステムでのデータセンター事業の件で……」
「あれ、たしかうちのカード事業と提携して……」
色も恋もない会話なのだが、持て余した午後の使い道としてなんだかとても楽しい。
一万時間の法則
『天才! 成功する人々の法則』 マルコム・グラッドウェル 講談社 2009年
結構異論反論が有るのだが、継続の大事さから私は支持する側だったりする。
まぁ、なろうに継続的にものを書き出して、最近ははっきりと成長を自覚できるようになったからなのだが。
ここ最近一日2000字を安定的に書けるようになったのは、この継続だと思っていたり。




