お嬢様のタイアップ出演
「お嬢様が入ります!」
その声と共に会議室の扉が開けられ、企画会議をしていたプロデューサーとディレクター一同が私に向かって頭を下げる。
あ、プロデューサーの前で頭を下げている背広の人、たしか編成局長だ。
「ようこそいらっしゃいました。お嬢様。
こんな深夜番組に来ていただいて感激です!」
「お気になさらず。
映画『帝都護衛官』のタイアップ出演ですから」
今、来ている番組は『帝都護衛官』を放送している局の前の番組である。
深夜あるあるの芸能人が気楽に面白いことを好き勝手やる感じの番組で、私の言葉の通り映画の宣伝として出ることになったという訳だ。
「今回の企画は、夕方からのロケでのんびりと船上パーティーをという感じで考えています」
企画は夜の東京湾クルーズ。
うちが抱えていたクルーズ船を使っての企画で、もちろん安全を考慮した企画である。
実際、かつて誘拐されかかったが、連れ出す前に奪還できた事を評価したのは言うまでもない。
あの事件は秘密裏に処理されているので、ここの連中は知らないと思うが。
「桂華ホテルグループが所有するクルーズ船『アガート』での東京湾クルーズとなります。
こちらの番組出演者がそれを楽しみつつ解説し、夕食は名人の料理に出演された新宿桂華ホテル総料理長の和辻高道氏のディナー。
ナイトショーにバイオリニストの渡部茂真氏のソロを。
お嬢様には飛び入りで一曲歌っていただけたらと……」
もちろんこのあたりの説明は最初からこちらが用意したものなので、異存などあるはずが無い。
なお、このクルーズ船の近くに釣り船に偽装した護衛船を二隻就けるとか。
もちろん、これは彼らも知らない事である。
「ありがとうございます。
小学生の私のためにここまでお膳立てをしていただいて。
その道のプロである皆様に全てお任せします」
会議終了前、私は頭をペコリと下げて、あくまでゲストの立場を崩すつもりは無かった。
会議が終わって廊下を出た時、ずっと黙っていた編成局長が動く。
「お嬢様。
少しお時間をいただきたいのですが?」
来た。
この編成局長とはここ最近ずっとバトルをしている仲である。
わざわざ私がこちらに来たこのチャンスを彼は逃しはしないだろう。
「手短にどうぞ。
どうせあの事でしょうから」
「分かっているならば、話は早い。
『帝都護衛官』をゴールデンタイムに移動させてください」
編成局というのは、毎日その局で流れる番組を決めている部署で、TV局の中枢の一つである。
要するに、どの番組をどの時間に流すのかを決めているのがこの編成局である。
そんな彼らが『帝都護衛官』をゴールデンタイムに移したいと言ってきた訳だ。
「お断りします。
何度も断ったじゃないですか」
『帝都護衛官』シリーズは今やこの局の深夜の帝王と化し、平均視聴率は深夜なのに10%以上、夕方の再放送が20%近くを叩き出す化物番組と化していた。
これをお断りできるのは、予算と主要出演俳優をこちら側で抑えており、強引にゴールデンに移せば番組が成り立たなくなる危険があったからである。
米国はそのあたり結構シビアで、視聴率がなくなるまで番組そのものを引っ張るから、サブキャストだけでなくメインキャストの変更とかも容赦なくやったりする。
そのため、物語の整合性がなくなるなんてことがとてもよくある。
「ゴールデンにこれを持ってくれば、25%は固いと思っています。
今度の番組改編の核にしたいのです!」
「けど、移したら一社提供は無理でしょう?
ドラマの制作も変化が出ますし」
ゴールデンに移るデメリットの最たるものがしがらみの急増である。
まず、ゴールデンタイムのCM枠を押さえている大手広告代理店が必然的に介入してくる。
今までは深夜という事で、うちが全額を出して桂華グループのCMを適当に流していた。
だが、ゴールデンに移ればそこから縛りが入ってくる。
たとえば、慣例として裏番組の俳優は使わないとか、その時間の企業CMに配慮するとか。
実に面倒だ。
「局長。
局長のご提案で一番私が嫌っている事をお教えしましょうか?」
私の抑揚のない声に、編成局長が身動ぎする。
私はにっこりと微笑んで、その理由を告げた。
「あなた方が本当に欲しいのは、『帝都護衛官』だけではなくて私なんでしょう?」
そして一番面倒なのが、この『帝都護衛官』は私がメインゲストで時々登場する数少ない番組であり、そこから私をTV業界に引っ張り込もうというTV局と広告代理店の企みが丸見えになっているという所。
今、まさに我が世の春のTV業界。
逆らえるものなら逆らってみろという勢いがある。
「これでも一応小学生です。
学生の本分は学ぶことではないでしょうか?」
「おっしゃる通りで……」
ここでそのまま終わらせるのも悪いだろう。
という訳で、編成局長へのお土産を渡してやることにする。
「あ。そうそう」
ここでは実にわざとらしい声で言うのがポイント。
何しろ私はあくまで実権のない小学生なのだ。表向きは。
「桂華グループの数社が、深夜番組のスポンサーになっても良いと聞いたことが。
子供が聞いた事ですので、そのまま空振りになるかもしれませんが、確認してみるのもいいかもしれませんよ」
深夜番組は基本新人発掘の為に、多くの番組は赤字で作られている。
それを広告を出すという形で金を出すと言っているのだ。
編成局長は何も言わずにただ頭を下げる事で謝意を示し、私は彼を見ずにTV局を後にした。
おまけ
その番組で流れたアイキャッチの私。
地下鉄九段下駅で地下鉄が発車する。
地下鉄が出ていくと空のホームに私とメイドが一人。
手を口に合わせてカメラに向かって一言。
「す・き ♥」
そのアイキャッチに射抜かれたおっきなお友達が多く出たとか出なかったとか。
ゴールデン枠と深夜枠
19:00-21:00がゴールデン枠。
これを書くために確認したけど、正式にはプライムタイムと言うらしい。
深夜枠は23:00-05:00が基本だが、桂華が押さえている深夜番組は通販枠でもある02:00-あたり。
だから、帝都護衛官は夕方17:00の再放送の方が視聴率が良いという事に。
この時期の視聴率25%以上のドラマ
25%でちょうど15位。
なお2019年のドラマ一位が21%。
多くの人がTVを見ていたと思い知る。
瑠奈が出た番組のイメージ
『DAISUKI』。
我が青春の深夜番組の一つ。
宝くじ回とか好きだったなぁ。
なお、現実では2000年3月26日に終了している。




