私の誕生パーティー オフィシャル編 その2
あの問題を中東からしか見ないとこの流れが見えない。
インドから見ると違う景色が見えてくる。
拍手とともに登場し一礼。
そのお礼として、一曲披露する。
「♪~」
バイオリニストである渡部さんを始めとする楽団が奏でる幻想的な音色に合わせて、観客を魅了した後改めて挨拶する。
拍手が鳴り止まない中、私は笑顔を作って挨拶する。
列席しているお客で軍服姿も目立つ。
今回のパーティーでPMCのCEOに就いた砂漠の英雄のお披露目を兼ねているから、在日米軍と自衛隊から現役武官がやって来ているのだ。
なお、現在米国はユーゴ解体戦争で発生した共産中国大使館誤爆事件と海南島沖で発生した共産中国軍機と米軍機の衝突事故で、対共産中国相手に強硬路線を貫いている。
国政が混乱しているように見える我が国に対する、同盟国からの応援という名の内政干渉に取れなくもない。
「本日は私の誕生パーティーに集まっていただき本当にありがとうございます。
ささやかな宴ではありますが、どうか楽しんでいってくださいませ」
私の挨拶の後、順番に要人達が私のもとに挨拶に来る。
今日の目玉はこのパーティーにわざわざやって来たという米国国務副長官である。
表向きは日本政府との交渉という事だが、その来日日程にわざわざ私のパーティー出席するぐらいには米国も私を重要視しているらしい。
米国大使および在日米軍将官と共に挨拶に来た国務副長官は私と握手する。
「誕生日おめでとう。
ミズ桂華院。
大統領からバースデーカードを預かっているので、それを後でお渡ししましょう」
「わざわざ米国からありがとうございます。
大統領にもよろしくお伝えください」
初っ端がこれなので、次からのお客様も各国大使公使がずらりと。
その後に財閥や華族が並んで、挨拶だけで30分も掛かるという面倒くささ。
「宴の途中ではございますが、公爵令嬢がお疲れのため一旦下がらせていただきます。
皆様にはどうかそのまま宴を楽しんでくださいませ」
司会の渡部さんの挨拶と共に私は一旦退席する。
もちろん、控えの部屋で休憩という形で、いろいろな要人と会うという名目である。
控えの部屋に戻って休んでいた私の所にやってきたのは、さきほどの国務副長官である。
橘に、元CIAのアンジェラ、そのアンジェラ経由でうちに来た現CIAのエヴァも交えての生臭い生臭ーいお話である。
「ミズ桂華院。
君の情報提供には本当に感謝している。
パキスタンとタリバンの繋がりは把握していたが、ここまで露骨に動いてくるとはこちらは判断していなかった」
この手のお話は虚実入り交じっているので、本当なのか花を持たせているのかいまいち分からない。
とはいえ、こういう状況を私は逃すつもりは無かった。
「お役に立ててなによりです。
この物資購入にかこつけたアフガン向け兵器購入の話、パキスタン軍部がかなり強硬みたいで。
こちらも民間企業であるので強く出るに出られず。
その背景みたいなのはご存じないでしょうか?」
国務副長官は私を黙ってみて目を閉じてため息をついた。
「オフレコで頼むよ。
99年、インドとパキスタンの国境線で紛争が発生した。
カルギル紛争と呼ばれるものだが、パキスタンはこの紛争で国際社会の圧力によって矛を収めざるを得なかった」
絶句する私。
全く知らなかったぞ。そんな事。
ちょっと待て。
99年って言ったら……
「たしか、その時にはもう核実験やっていますわね……」
「パキスタンの核実験は98年5月だね。
実際、核戦争になるかもと水面下で各国が動いた。
同時に、パキスタン軍部はこれで強硬に出ざるを得なくなった。
彼らが育てたムジャーヒディーン達が納得しないからね」
核兵器というのは脅しに使う時に一番の効果を発揮する。
そのため、相互確証破壊が成ったインドとパキスタンは否応なく冷戦構造が成立するのだが、それをムジャーヒディーン達は理解できない。
そして、彼らの暴走をパキスタン軍部は制御できないという訳だ。
「国境線上で火が上がればそのまま核戦争になりかねない現在、彼らを投入できるのはアフガニスタンという訳だ。
我々はアフガンの武装勢力に対して、非難をしているがその状況は厳しいものがあってね」
ムジャーヒディーン達は湾岸戦争の後から反米に転じ、米国に対するテロ活動を行っていた。
そんな彼らを保護していたこの武装勢力は、パキスタン軍部の支援のもと一時期アフガニスタンの国土の95%を制圧するまで勢力を拡大していた。
その後残存勢力の反撃にあって後退してはいるが、アフガニスタンの国土の大部分はこの武装勢力は制圧したままである。
「まさかとは思いますが、米国政府はパキスタン政府のみを相手にして、軍部や武装勢力に対してのチャンネルは持っていないなんて事は無いでしょうね?」
「……」
おい。
喋れよ。
国務副長官の沈黙が全てを語っていた。
そうだよなぁ。
冷戦構造なら、盟主の超大国の命令が届く統制下にあったのだが、冷戦は今や昔。
パキスタン政府はパキスタン軍部を統制できず、パキスタン軍部はその下で育成していた武装勢力を統制できない。
その認識の違いが、秋の悲劇に繋がってゆく。
「つまり、今日このパーティーに来た理由の一つとして、赤松商事を接点にした彼らのチャンネル構築をお願いしに来たと」
「聡明な貴方ならば、その答えにたどり着くと思っていたよ。
お礼については用意するつもりだ」
ため息をついて私はそれを了承した。
少なくとも、合衆国と私の利益は今の所同じものだから。
「食料や医薬品を中心とした人道的支援を中心に、武器弾薬についてはお断りする。
そして、それの流れは逐一そこのエヴァに報告させる。
お断りの理由については米国政府の圧力を受けたと明言させていただきます。
それでよろしいですね?」
「公爵令嬢の聡明さに感謝を」
国務副長官のお礼の返事を私は言わない事で貸しにする事にした。
もちろん、秋にそれを使うつもりで。
「せっかくですからこれも確認を。
インド政府の物資調達、もちろんパキスタンと同じで武器弾薬まで入っているのですが、何でかヒマラヤ山脈の方に送っているみたいなんです。
何かご存知ありませんよね?」
国務副長官も現CIAのエヴァも黙ったまま。
つまりそういう事だ。
「ネパールは我が国の友邦。
非民主的な手段で体制を転覆させようなんて考えていないですよね?」
王室外交が行えるネパールは、華族の仕事場の一つとして重宝していた。
そして、インドと共産中国との間に挟まれたネパールは否応なしにバランス外交を迫られていた。
パキスタンがインド国境で火遊びできないように、インドもまたパキスタン国境で火遊びできない。
ついでに言うと、対インド絡みでパキスタンと共産中国は仲が良い。
大国の思惑に翻弄されるのはともかく、日本も地域大国としての責任がある。
「対共産中国、どこまでお考えで?」
「それこそ、満州の国民が決めることですよ」
満州では2000年に史上初の政権交代が起きて、満州独立の風潮が強くなっていた。
おまけに、ロシア経済危機で極東ロシア軍が力を失い、現在は海南島事件で米国が共産中国に対して強硬路線をとっている。
格好の独立のチャンスと見えなくもない。
問いただしてもはぐらかされるのが関の山だろう。
「インドについてもパキスタンと同様の処置を行います。
よろしいですよね?」
「公爵令嬢の聡明さに感謝を」
貸し二である。
米国にとっても、私にとっても高い貸しにならないといいのだが。
瑠奈が披露した曲
新居昭乃「Campos Neutros」
『ワーズワースの冒険』のカップリング曲。
私はこれで新居昭乃さんを知った。
ユーゴ解体戦争
複数の紛争がこちらでは一つに。
その分被害も大きい。
米国国務副長官
後に彼の名前を冠したレポートを作る知日派大物政治家。
なお、この時現実では某外相と揉めて日米関係がこじれつつあったり。
カルギル紛争
私もこの話を書くために知った口。
なお、パキスタンは核を撃つ覚悟を固めつつあったらしい。
ムジャーヒディーン
イスラム聖戦士と訳される事が多い民兵。
彼らによって構成されるのがタリバンであり、アルカーイダである。
ネパール
この年王族殺害事件が発生。
一説によるとインドと米国が仕掛けたが、あまりにずさんなので手を引いてネパール王国崩壊の引き金になったとかならなかったとか。
カシミール問題と絡んで、パキスタンと共産中国は対インドの関係で仲が良い。
対中戦
思った以上に米国が強硬路線なのにびっくり。
現実ではエスカレーションを嫌って妥協が成立したけど、満州独立の動きとリンクして良い感じに火花が散っている。
もちろん、みんなこれに目を向けた結果秋に別のところが炸裂するのだが。




