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語りの神様と写真冒険家

【語りの神サマと写真冒険家】



「さあー、話を聞きたい子は寄っといでー」


 今日もまた、神様のお話が始まりました。

 今日はいったい、どんなお話を聞かせてくれるのでしょうか。


「今日のお話は、世界中の美しい景色を求めて旅をするカメラマンのおじさんのお話だよー」


 そうして、お話が始まりました。


『今ではないいつか、ここではないどこか、君ではない誰かのお話です。


 とある国のとある町に、ひとりのカメラマンがいました。


 カメラマンのおじさんは、若いときから写真を撮るのが好きでした。


 おじさんがまだ小学生だったときに、父親にカメラを買ってもらったのがきっかけで、写真を撮ることに夢中になったのです。


 小学生のころは、小さな虫や花の写真を撮っていました。

 珍しい形の石や、面白そうな看板。デパートの屋上でやっていたヒーローショウのヒーローなんかも、パシャパシャと撮っていました。


 きれいに撮れても撮れなくても。

 撮ることが楽しかったおじさんは、構わずに写真を撮っていました。


 中学生になると、可愛い女の子の写真を撮るようになりました。

 クラスメイトや学校の先輩後輩。町を歩いている素敵な女の人なんかを勝手に撮って怒られたこともありましたが、その時は、きれいに撮れている写真を見せて謝りました。


 きれいに撮れた写真を見せてあげると、みんな喜んでくれたので。

 おじさんは、もっとみんなに喜んでほしくて、たくさんたくさん写真を撮ったのです。


 高校生になってからは、写真部に入りました。

 学校の行事や部活動の大会などに呼ばれては、記念撮影をしたりしていました。


 このころのおじさんは、まわりにいた他の誰よりも写真を撮るのが上手で、いろんな人がおじさんに写真を撮ってもらいたがりました。

 何度も写真を撮るうちに、写真を撮るのが上手になっていったのです。


 大きな大会で跳んだり打ったり走ったりする友達たちの、一瞬の躍動感を切り取ることができるようになっていました。


 すぐに変わってしまうものだからこそ、その一瞬を切り取って写真に残さなければならない。

 おじさんはそう思うようになりました。


 雑誌のコンテストに応募して小さな賞をもらったのも、このころが初めてでした。

 自分の撮った写真を誰かに見てもらって褒められることに、言いようのない喜びを感じました。


 大学生になって、とある写真家の個展に行きました。

 プロのカメラマンの凄さを改めて知ったのが、そのときでした。


 なにげない日常の風景を、これほど鮮やかに切り取ることができるのかと、若かりし頃のおじさんは驚きました。

 どこでも見ることのできるような夕焼けの空が、どうしてこんなに美しいのだろうと、おじさんは思わず涙を流しました。


 それ以来おじさんは、景色や風景の写真を撮り続けました。


 春の夜明けの東雲の空を、夏の夜空の天の川を、秋の夕暮れに映える山々を、冬の早朝の冷たい空気を。


 降りしきる雨に打たれる池を、秋風に舞うたくさんの紅葉を、雪の積もった石灯籠を、萌え芽吹く可憐な花々を。


 自分が美しいと思った景色を、風景を、おじさんはひたすら写真に収めていきました。


 開こうとしている花のつぼみも。

 飛び立つ瞬間の鳥の羽ばたきも。

 風に吹かれて踊る木の葉も。

 夜空に浮かぶ満天の月も。


 流れる星々の儚いまたたきも。

 草原を駆けるライオンとシマウマも。

 どこまでも続く白い地平線も。

 底まで透き通る青い海も。


 昔の人が作った古い建物も。

 満開に咲いた桜の花も。

 荒波打ち付ける切り立った崖も。

 砂漠に生えた立派な大樹も。


 おじさんは写真に撮りました。

 みんなみんな写真に残しました。


 世界で一番高い山に登ったこともありました。

 山の頂上から見える景色を、どうしても写真に撮りたくなったからです。


 頂上まで登るのは大変でした。

 底の見えない深い穴や人ひとりがやっと通れるような細い足場。壁のようなところを登ることもあれば、凍ってツルツル滑る坂を歩いたりもします。

 重い荷物を引っ張って冷たい風の中を進み、吹雪になったら雪がやむまでじっと我慢します。


 そうやって、何日もかけて山を登ったおじさんは、とうとう頂上にたどり着きました。


 まだ夜が明ける前の暗い時間です。

 おじさんは荷物の中からカメラを取り出して、その時が来るのを待ちました。


 そこから一時間待ったでしょうか、二時間待ったでしょうか。


 ついにその時が来て、おじさんはゆっくりとカメラを構えました。


 朝陽が、昇ってきたのです。


 世界一高い山の一番高いところから見る朝陽は。


 それはそれは美しいものでした。



 “おお…………、なんと美しい”



 思わずそんなことを言ってしまいました。

 感動に震える指でカメラのシャッターを何度も押しました。


 この美しさを、自分以外のみんなにも届けたい。


 おじさんは心からそう思いました。


 世界には、美しいものがまだまだたくさんあるのです。


 これからもおじさんは、みんなのために美しいものを写真に撮り続けることでしょう……』


「おしまい」



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